賭け



 真島は女の殴打による、鈍い痛みの残る頬を擦った。
 あれほど騒いでいた勢いが、借りてきた猫のように大人しくなった。それを可笑しく笑いたくなるのを、腹の下に押し込めた。


 一階のフロント周辺には、チェックアウト予定の他の客が、そこかしこに見受けられる。スーツにタイを締め、重厚なトランクを荷物置き場に置き、手ぶらのブラックスーツの男たちに両脇を固められ、秘書と思しき人間が、代理でチェックアウトを済ませている。人種を問わず、要人を中心としたグループが点在し、このホテルが重要な出来事の停泊地となってきた片鱗を感じながら、また自らもその潮流の中にいるのだと真島は自覚した。

 背後に数名の男女が、私語もなく追ってくる物々しさ。それは人目を引き、ラウンジの方にまで来たときには、背中に流れる汗と熱がシャツの下に籠もり、より不快感が募った。――その男はすぐに見つかった。一区画の隅のコーナーにあるスペース。革張りのラウンジチェアに、ゆったりと座り、葉巻を噴かしている。真島の到着に気づくと、唇の端をニッと持ち上げた。
 

 「おはようございます、親父」
 「ああ――おはようさん。どや、一晩明けて。やっていけそうなんかい」
 

 頭を下げ一礼すると、嶋野は顔を顰め、灰皿に葉巻を置いて椅子から立ち上がった。
 後ろの三人のうち二人の男が、隣接するテーブルを挟んで、対面する椅子に、腰掛けたからだった。声を出さず、おもしろそうな顔を作ったまま、嶋野を見上げていたが、傍らに立つ女に一言、二言話しかけた。

 壮絶な喧嘩の後、女の泊まっているほうの部屋を覗いた。
 二人の兄弟の『子供部屋』に負けずと劣らず荒れ果てた部屋。『シャオジエ』はそれを『ゴミのたまり場』と言った。ゴミとはいうが、それらは銀座の一等地に並ぶような高級ブランドの品ばかりで、その価値が不要ならば彼女のようにゴミと言えるのだろうかと真島は思った。

 ブランド品の展示場と呼べる部屋には、服や靴や装飾品が並んでいたが、梱包のための箱や包み袋を、まとめてゴミに出すという。それを手伝わされたのが朝十時。エン・ジーハオは仕事に出かけた。残ったクゥシンとはなんとか和解し、清掃のために部屋を空けなければならない。散らばった書類をかき集め、保管し――そうこうしているうちに王兄弟たちと合流して朝の出来事を話すと、二人は腹を抱えて笑った。

 クゥシンが会合に出向する時刻が十二時。
 ついでといって、三人の男女も清掃のため部屋を空けるべく外へ出た。

 白いブラウスにタイトなスカート、パンプス。女は長い髪を下ろし、年若いOLにしか見えない。
 一見すれば誰も彼女が、男二人と同席の位にいる人物とは思わない。女は王汀州の隣に座りひそひそと何かを呟き、それから真島を見上げた。澄まし顔でどこか冷たく、つれない野良猫のような厳しい目つきをしている。

 嶋野は太い声で「おはようございます」と王汀州に呼びかけると、ニヒルにも鼻先で軽く笑ったあと立ち上がった。


 「おはようございます。どうぞ――お座りください」


 長い腕が今まで座っていた椅子を指し、王汀州は嶋野に着席を促した。
 嶋野が元の椅子の上に座ったのを見届け、その視線が真島のほうにも向いた。無言で『お前も座れ』という合図を受け取り、嶋野の向かい側の椅子へと軽く腰を落とした。


 「それで。どないでっしゃろ」
 「泰然、喉が渇いた。……なに、嶋野さん。そう急がなくてもいいだろう」


 王汀州が遮るようにそう言うと、王泰然が手を一つ上げた。
 ラウンジの隅に立つ給仕人がやってきて差し出したメニュー表から、男たちはディンブラにアマレットミルクティーを頼んだ。


 「残り一週間もある。焦ってはいけない。――元々日本に対する期待は少なかった。それでも、貴方とはいい取引ができたと思っている。横浜の利権提示は魅力的です。ですが我々が元来、海の支配者であることをお忘れでないか。ええ――千葉に一つ持っている。現在、福岡で調整中です」
 「――つまり、旨味が少ない、と?」
 「理解が早くて助かります。――このような素晴らしいホテル生活を約束してくだって恐縮ですが、我々の決定は固い。このホテルへきて六日。すでに二十の新規契約と、既存の継続契約が三。本土での新規契約が二つ進行しました。我々の船は沈まず、遥か彼方へと進むだろう」


 嶋野は王汀州を見据えた。腹の下では怒りが煮えているか、恐ろしく冷静に切り札を探しているかのどちらかで、状況としてはこちら側が圧倒的不利にあった。彼らは日本の利権を別所で入手し、提示した条件を放棄するという。今まで仕事が成立していたことのほうが奇跡に等しい。


 「不当だと怒るのも結構。――我々の方針は現場撤退だ。間接的な関与をする。いい機会ですので手の内を明かそう。日本にある他の組織を買収する。簡単なやり方だ。つまり、そう――あなた方の付き合う相手は我々ではなく新しい同胞です。その同胞たちは他の組織と仲良くする。我々の金はそこへ流れる。―ー急いだほうがいい。――ははは」
 「――若造が、口は達者やなァ」
 「私でなくともやっただろう。大陸と島国の違いだ。莫大な油田と人間の欲望から金は湧く。――この国はじき斜陽だ。もうすぐ傾くぞ、泡が弾ける。沈む船には誰も乗らない」
 「王汀州。ええ加減にしいや」


 一触即発。――細いワイヤーの線が切れそうなほどの緊張感。それが切断されれば、あらゆるものが吹き飛んでしまいそうな予感に真島は息を呑んだ。この世のすべてを嘲笑うような態度の男が目を細めた。


 「仮に――ここに、ドル、いや円にしよう。五千万円あったとする。その金をどうする? あなたと私で折半か? あなたにすべてくれてもいい。なぜ、こんな話をしているかわかるか? それで本質がわかるというものさ。――おっと、ここで銃を出さない方がいい。日本一の迎賓館ホテルの名に傷をつけるのか? 貴様は喜劇王やセックスシンボルの女王ではない。――我々と同じ穴のムジナさ。生きていてごめんなさいと謝りながら生きなきゃいけないのさ」


 舞台の上で演じる役者のように、つらつらと登場する言葉は怒りよりもいっそ感動が増す。
 『国を作る』という大いなる野望を持つ男の、鋭い視線は――給仕人が持ってきた注文のディンブラに、アマレットミルクティーがテーブルの上に並べられたところで失せた。


 「真島」


 男がそう呼びかけたのは、アマレットミルクティーを二口飲んだあとだった。
 王汀州は懐に入ったクロコ調の黄色く薄い財布の中から紙幣を五枚取り出すと、隣に座る女に握らせた。そして目配せをすると、女は呆れたように溜息をつきゆっくりと立ち上がった。


 「吟が退屈している。金は持たせた。三時までこれで遊びに行って来い」
 「――吟?」
 「今から数時間、お前が護衛すべき人間はこの女だ。王吟、外を歩いてこい。引きこもりっぱなしには、いい気分転換になる。――私達はここで賭けをする。嶋野さん、貴方が勝てば、この財布の残りの金は今日のチップ代になる。どうだ? 博徒はあなた方の本質だろう」


 真島の中で迸る静かな衝撃は、誰にも悟られず、時は進んでいく。
 嶋野はその話に乗った。乗らざるを得なかった。そう仕向けるための長い前語りがあったし、なにより真島の手前だった。そういう意味で、すでに王汀州の策略の上、手のひらの上で転がっている。わかっていても、誰にも退路はなかった。それが、『蝿の王』である王汀州のやり方だった。

 真島は立ち上がった。
 王汀州は賭けをさせ、嶋野を見定めるようだった。そこに真島がいたところで無意味だ。ラウンジの入り口で待っている女のもとへ向かう背中に、嶋野の太い声が重くのしかかる。


 「真島。わかっとるやろうなァ?」
 「……わかっとります」
 

 賭けは、女に持たせた金を使うか否かだろう。
 王汀州はしっかりと、条件を口にした。数時間以内に五万円を使うか、否か。これは勝っても負けても、彼らの用意した巧妙なトリックによって、嶋野は負けるだろう。王汀州の口八丁手八丁っぷりには、頭が下がる。それでも嶋野は、この賭けに参加せざるを得ないわけで、最初から負けが決まっている。
 真島はそれを教えようとは、思えなかった。ささやかな意趣返しである。


  ◆ ◆ ◆



 午後一時。

 街なかは昼下がりのランチタイムと合わさって、人出が多くなっていた。
 雨季と夏の切れ間。小康状態の底光りする、薄鼠色の空。視線を下げた先には、頭一つ分小さい女の背中がある。
 人の流れの間に埋もれたり出たりと、付かず離れずの絶妙な距離を間にもうけて、女がどこへ行こうとしているのかすら掴めずに、真島は歩を進めている。


 (王、吟)


 男にとって最悪な日々のなか、唯一その存在を頼りにした少年の名前である。
 音だけで、その字を知らなかった彼は、彼女だった。それが嘘だとは思わない。白昼の下、視界の中心に映る姿が、彼女の周辺の人間はみな『女』という認識をしているのだから。真島がただ、あの昏い世界で、少年だと思いこんでいただけだった。


 彼女の背後で、真島は少し笑った。
 二人の男たちの生き様から、もう少し楽に生きようとはじめて半年。心の根幹にある呪いが、解けることになるなんて。不思議なめぐり合わせではないか。



 会話もなく歩くと公園にたどり着いた。
 周囲はビルがそびえ立つなか、そこだけくり抜かれたかのような自然世界が広がっている。公園に並んだベンチに、吟は適当に座った。 一人だけ立っているのも不自然ゆえに、真島も一人分の間を置いて、ベンチに腰掛けた。二人の間に会話はなかった。公園のなかに立つ時計の針だけが進む。

 真島は話したいことがあったが、めずらしく躊躇った。ただの女ではなく、仕事上の相手側へ有効に作用するような人物であることが主たる理由だ。慎重に、言葉を選ばねばと思案を浮かべていると、隣で腹の虫を鳴らしながら「お腹すいた」と女が呟いた。
 その顔をよく見てみれば、視線はきょろきょろと泳いでいて、照れているような恥じているような、居心地の悪そうにしている。


 「な、なに……」
 「……ひひ。飯にしよか。何食べるん」


 膝のうえで頬杖をつきながら女の方を観察するように見ると、咎めることをしなかった。ふつうなら女の立場を考慮してもう少しかしこまったりするだろうが、真島にはそれは窮屈で、うまく距離感を掴むためのアクションだった。護衛役を仰せつかっているが、できるなら楽しい外出にしたい。

 真島からみた女は、どこか退屈で不満げだ。
 あの二人の男の前でも、護衛人たちの前でも笑顔を見せたことはない。今も退屈で不満そうに気だるげに、昼飯について考えている。感情のレパートリーが少ないとしって、真島に投げかけられる視線が、決して意図的な不快感でないと思えるのは救いがあった。

 

 「……。……そば」
 「そば? そばて、蕎麦のこと?」
 「……」


 それ以外にいったいなにがあるのか、と言いたげな顔をして女は立ち上がった。
 真島がベンチに座ったままでいると、くるりと体を向けて「早く」とやや険のある言い方で急かした。リードをつけられた犬のような気持ちで女のもとへ寄ると、無言でまた歩き出すのだった。


 昔ながらの蕎麦屋に入って、吟はざる天ぷら蕎麦を注文した。真島は彼女なりに、この蒸し暑い夏を『暑い』と認識していることに奇妙な安心感を懐いた。そんなことを考えながら、おろし蕎麦を啜っていると、真向かいから意図の読めない視線を向けては、蕎麦を啜ることを繰り返す女が気になって仕方がない。

 小気味よい音をたて、海老天のサクッとした衣を噛じって、細かく咀嚼する目の前の女がただ飲み食いしている。決して隙を見せないでいた、あの少年と同じテーブルについて食事を共にしているというだけで、彼・彼女が極限状態にみた夢幻などではなく、ただひとりの人間として生きている。その感慨深さに、こみ上げてくるものがあった。

 
 ほんのりと漂うそれが何かはわからない。二度目の出会いにして、言葉数も少ない仕事での関係に、意味はないかもしれない。偶然と呼べるだけの興味に、心は価値を与えようとする。真島は、彼女が『真島吾朗』と呼んだ瞬間に、それが彼女の中に存在している証として嬉しくなった。心に留めているのが、自分だけではない。益体もない思い出がそうではないことに、救われた気持ちになった。



 「なあ、この後はどこ行くん」
 「…………」
 「三時まで時間残ってるやろ」



 真島からの問いに吟が返事をすることはない。一方通行の言葉は『穴倉』の頃と同じだ。常に何かを知りたがっていた。今も、この眼の前の無関心を貫き通す鉄壁の女は、瞼を伏せて蕎麦を啜り続けている。媚びも愛想や愛嬌もない、はっきりと明言するなら暗い性格である。死を連想させる黒い眼が真島を捉えると、「ごちそうさま」と静かに手を合わせた。

 
 東京の街は若く、まともな人間にも、異端な人間にも優しい街である。
 人々は決まった目的のために脇目も振らずどこかを目指し、道端で昼間から酒を呷る人間ですらそこにいることを、あるがままに許されている。――そんななか、不思議とどこにも居場所のない人間がいる。あてどもなく彷徨う女の後ろを歩きながら、真島はそんなことを思っていた。
 
 何を尋ねてみても、鈍重な口から答えは出てこないだろうし、大多数の人間は自然と沈黙を身につける。普通の人間ならば、女を不気味というだろうし、それだけで忌避する。つまらない人間に関心を寄せることはない。損か得かといえば損であるし、無意味な時間である。――仕事でなければ付き合うことのない人間、といえばそれまでなのだが。真島がいくら距離を測ったところで、相手も同じであるわけではない。――つまり。どういうことかといえば、退屈をしていた。

 女の散歩は川があればそれを眺めたり、公園があればベンチで休んだりする。散歩とはそんなものであることは知っている。年若い女といえば、賑やかな場所に行くような気がしていたが、部屋にあったブランド品ですら、彼女の心を満たすものではないという経緯を知っていれば『地味な性格』に納得がいく。

 そういう意味にあっては、嘘のない人間として、幾ばくか好感を持てた。
 サラリーマンの街といわれる新橋駅の近辺に差し掛かったとき、女はふとその足を留めた。そしてくるりと身を翻すと道を引き返した。
 明らかな挙動不審に首を傾げて、歩調を合わせながら真島は問うた。歩く速度は徐々に早くなり、何かに追われているようだった。


 「どうしたんや。急に」
 「……帰る」
 「帰るて、ホテルか?」
 「…………失敗した」
 「は?」


 真島はぐるりと周囲を見渡した。昼間の人混みのなかで、女のいう何者かは、人の森のなかに紛れている。相手方がまだ出てこないが、この人の波が引いたときが危険だろう。女の華奢な肩を抱き寄せると「わっ」と声をあげた。


 「タクシーや。そこのタクシーまで走るで」


 斜め前方に何台か停車する黒塗りの車。吟を先に走らせる。列の最前で扉を開け放つそこへ身を滑り込ませると、バックドアガラスを向いた。吟はホテルの名前だけを告げるとタクシーが発車した。遠ざかっていく人の森からその身を露わにしたのは、ブラックスーツを纏った一人の女だった。


 「あの女、何モンや」
 「…………」


 吟は答えない。その表情の険しさをみれば、イレギュラーに遭遇したことだけがわかる。右手の親指の爪をキッと噛むと、死人の瞳に鋭い煌めきが生まれる。その姿に、王汀州が話をした『獣』を想起した。

 ホテルに到着すると吟は足早にラウンジに向かった。
 時刻は二時五十分。刻限まで十分を残しての帰宅に、二人の男は女の姿を認めると気楽に出迎えた。


 「なんだ、吟。早いジャないカ」
 「ははは。実に退屈そうだ。飯は食っただろ」
 「テイシュウ、賭けは」


 肩をすくめて王汀州は鼻先で笑い飛ばした。
 「今はトイレ休憩だ」といって二杯目に注文したアイスコーヒーをストローで吸った。ちょうどそこへ嶋野が戻ると真島をみた。


 「フン。早いやないか。いつもの仕事より退屈やったんか? エエ?」
 「――親父」


 失言ともとれる物言いに舌が縺れた。椅子のうえで足を組む王汀州は、喉をくつりと鳴らすと両手を三角形に合わせた。吟は気にする素振りもみせず、王汀州の傍に寄るとそっと耳打ちした。微動だにせず話を聞き終えると、黄色いクロコ調の財布を取り出した。


 「嶋野さん。今日は貴方の勝ちで結構。――これは約束の金です」
 「随分、気前がエエやないか」
 「ええ。気分がいい。――ですから、お引取りを」


 残った紙幣たちを握らせた。裏稼業の世界にしては駄賃程度であるが、嶋野は何もないよりも構わないと、それを懐へおさめた。
 

 「期日までよろしゅう頼みますわ」
 「ええ。答えはそのあとに決定します」


 握手を交わし、嶋野は真島に一瞥をくれた。そのままラウンジをあとにするのを待って、王汀州は再び口を開いた。


 「そいつはどこで見た」
 「新橋の駅。タクシーで撒いたが、追跡された可能性がある」
 「このホテルが、か。――部屋へ戻る。ジーハオたちの話を聞いてから決定する。今動くのは危険、ホテルが最も安全だ」


 王泰然が頷いた。椅子から起き上がり吟の肩を叩くとエレベーターの方へ向かった。
 吟は一瞬だけ真島を睨みつけた。やがて興味をなくしたように王泰然の後ろについていく。それを肩を震わせて笑うのは王汀州だった。


 「ふはは、意外だ。仲が悪いのか。食う飯で揉めたのか?」
 「勝手に嫌われとるだけや」
 「気に食わないなら一発殴ればいい。躾はちゃんとしないとな。男だとか女だとか、甘い世界じゃない。それとも女を殴るのは趣味ではないか?」
 「なあ、あの娘が……獣なんか」


 王汀州は口角を持ち上げたまま、不気味なほど顔つきを崩さない。瞳の奥は底冷えし冷酷な本性を湛えている。


 「真島。お前は案山子だ」


 再度の忠告に真島は目を細めた。
 それは、何を知ろうとも、何を見ようとも、詮索をするなという事だった。
 地獄の洞穴でみた死神の眼が、針をさすような痛みを伴って真島を射抜く。次に飛び出た言葉は、もはや忠告などではなく警告だった。


 「公私分別しろ。だが違えるな、司令塔はこの俺だ。預かり分のペイは出す。それが個人契約だ」
 
 そういって、ニヒルな男は先に背を向けた。



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