白蛇娘生贄噺






 カレンダーを七月から八月にめくり上げた時、ミレニアムタワーの内部にある真島組組長室へバタバタと駆け込んでくる足音があった。
 組長真島吾朗は、咥えていた煙草を軽く吸うと、顔を出した構成員の西田に対しぶっきらぼうに言い放った。

 「なんやねん」
 「親父。船崎組から訳ありの相談があるそうです」
 「船崎ぃ? あいつが急に声掛けてくるなんて珍しいやないか。どういう風の吹き回しや」

 船崎。船崎組は極道組織東城会の傘下の小規模組織一つのことである。つまり身内の組であるが、普段から交流がある組ではなかった。これといって揉めた経緯もないが、わざわざ真島組に名指しで指名してくるというのは、お願いしているようなもので、いわば尻拭いをさせられるのではないかという予感があった。

 「なんでも来月の夏祭りを代行してほしいそうです」
 「アァン? 来月っちゅうコトは、八月……掻き入れ時のケツモチをウチに譲る? こら、ニオうのう。お前、あいつ他になんか言うとらんかったか?」

 ほらみろと言わんばかりに真島は煙を吐き捨てた。
 予感は的中し、これは他にも訳ありだろうと西田に続きを求めた。

 「電話を出したのは船崎の若頭でした。……そうですね、なんというか……面子があるから断れないとか、なんとか」

 ほぉん。
 その土地の催行者と船崎の持つ義理がある。面子を保つために、同じ東城会の組を行かせるという魂胆なのはわかった。
 とはいってもやはり、特別懇意にしているわけではない船崎がわざわざ真島組をご指名というの点に疑問が残る。だが、夏祭りとは面倒な仕事もあるが、地域主催のものとなればそこから他の仕事にも繋がる。重要な営業を兼ねた役回りを獲得できるのであれば、メリットは大きい。


 
 「えっと……どうします?」
 「っしゃあ。西田、船崎に言っとけ。今回、貸し一つや。覚えとけやってな」
 「はい!」

 裏があるとは思いつつ、棚からぼた餅の案件を断るわけがない。
 真島は船崎の要請を受け入れ、船崎が毎年請け負ってきた用心棒業の代理を務めることにした。


 その夏祭りは三日間。八月の中旬にあるとある町のものである。
 夜店が出て盆踊りも行う夏の風物詩そのもの典型的な内容で、組の仕事は厄介な客への対応や商工会の手伝いといった地元の縁を重視したもので可笑しなところはない。
 ただ、催行主である商工会の責任者が妙なことを口にしたことを除いては。

 ―――夜九時半までに撤収すること。
 ―――その上限を超えることは決してあってはならない。

 それがこの地域の祭において昔から掟になっていた。
 町民もそれを心得ていて、九時にはきっかり家へ帰る。九時といえば子供や家族はともかく、せっかくの祭りなのだからと大人組が残って打ち上げをすることもある。まったく無人の状態で、屋台の始末もせずに帰っては盗難被害もあり得るだろうに。

 責任者の会長はそれを真島組にも徹底するようにと願い出た。
 とはいえ祭り会場の警備も兼ねた仕事であるから、一番最後に出なければならない。組員に九時半以降絶対に残らぬようにと釘を差し、真島は初日の最後の見回りをして帰るところだった。

 掟といいながら、本当に守るやつがいるのか疑っていたのはつい先程のこと。
 乾いた砂埃が吹き上げられる、夏祭りの会場には人っ子一人いない。ほんの前までは軽快な音楽がかかり、浴衣姿の町民と賑やかな露店と人の往来があった。
 
 「妙やのう」

 藍色の法被を着た真島は会場を一周し、山手側にある神社の方へと寄った。虫の鳴き声、小川のせせらぎ、時折吹く風の生暖かさ。
 風のなかに紛れて犬か猫の鳴き声をきいて、それが断続的に続く女の鳴き声であるのに気づくと肩の力が抜けた。

 ―――あっ……あっ、あっあっあん……。

 想定範囲内のことだ。町民一帯に知れ渡る掟を破る輩が、祭りの熱気に当てられ、草葉の陰で盛るなんてことは古来から日本では普通のことだ。

 「ちっ、アオカンしとるやないか。これやから最近の若いモンは……」

 仕事なのだから、注意してやろうか。そう思って近づけば、林の中に埋もれた雑草の中でガサガサと草がうごめいた。
 木の陰から、女の生白い足が見えた。揺れのたびにパタパタと連なって動いて夢中の様子。
 すっかり二人の世界に入り浸っているため、たとえ呼び掛けたところで無駄足だろう。とんだ掟破りだ。げんなりとして、真島は踵を返した。


 翌日。
 朝から祭り会場に出向いて、準備を手伝う真島に西田が声をかけた。

 「親父、なんか元気ないですね。なにかありました?」
 「はぁ……こっちは仕事しとるっちゅうに……。ああ、なんもあらへんわ。今日も気張っていくで!」

 昨夜の青姦を思い返して、もし本日も同じ状況に遭遇したら注意しようと心に決めた。
 会長に『昨晩はなにかあったか』と訊かれたが、何もないと答えている。二日目も昼間と夜目立った問題は起きなかったが、九時過ぎに遺失物の客の対応があり撤収時刻が九時半ギリギリになった。


 「どないしたんや。なんか探しモンかいな」
 「……下駄の、鼻緒がとれて。……片方を探してるの」

 女は朝顔の浴衣を着ていて、すでに帰り始める人混みのなかを逆らい、きょろきょろと見回してはあちこちをうろついていた。
 どうも下駄を失くしたらしい。白い素足は土にまみれて汚れている。

 「ここ九時半までには出なアカンのや。お嬢ちゃんも知っとるやろ?」
 「しってるわ」
 「名前訊いてええか? 探しとくさかい。もし見つかったら商工会に届けとくわ。……あったあった。皺寄っててすまんが、明日またここの番号にかけて確認とってくれや」
 「ふふっ。ご親切に。……ありがとう。……水琴っていうの」
 「水琴ちゃんな。……ほな言うとくわ。気をつけて帰りや」

 持っていた祭りのチラシを渡してやり、水琴を見送った。
 彼女はにっこりと微笑んで会場を後にした。
 

 最終日。
 朝一番、西田の口から行方不明者が一名でたという一報を受けた。
 昨夜は何事もなく、例の青姦すら見廻に遭遇しなかったのだから驚きだ。しかしよくよく話をきいてみると、その行方不明者は昨晩ではなく一昨日の夜から姿をくらましているらしい。

 真島の中で、もしやと初日のことを思い返し、あの時声をかけていれば未然に防げていたのではないかと思い至った。神妙な態度の真島に対し、西田が心配そうな顔をした。

 「親父、なにかお心当たりでも?」
 「いや。……初日に残っとったモンがおったが、……行方知れずは一人やろ?」
 「はい。男が一人いなくなったって聞いてます」
 「……そうか。ほな、ちゃうやろな。すまんの、時間とったわ。このあと向こうさんと合流や。号令かけろ。あの辺一帯、隈なく捜索じゃ」


 会場にはパトカーが二台着ており、昼間のうちから警察と組んで捜索を行ったが、男は見つからずじまいだった。
 用心棒の責任問題。もしこれで、行方不明者が見つからないなんてことがあれば、船崎に足元を見られることになる。船崎が何を知っていたのかはわからないが、譲られた仕事が不能に終わっては組の沽券に関わる。
 それだけはなんとしてでも避けたかった。
 

 最終日の祭りの最中にトラブルはなかった。
 途中、熱中症で倒れる客がいたくらいで、やはり夜には言いつけどおり、みな九時には帰路につく。翌日にまた撤収の支度が残っているが、今年の夏祭りは無事に終わった。行方不明者の捜索を続ける以外、この三日目の夜も無事に越せるかは真島組の最終見回りにかかっていた。

 名残惜しくも祭会場は静寂に包まれている。
 駐車場に組員を集めて真島は予定を告げた。

 「会長に捜索を続けられんか聞いたわ。……が、九時には帰れ言いよったわ。捜索はサツに任せるっちゅうワケや。……つまり、コッチがすることはこのまま大人しゅう家に帰ることだけやな。会場も屋台もバラすのは明日やしのう。……明日は九時に集合。エエか。……ほな解散」

 組員の中に流れる空気は不謹慎にもにわかに浮足立っていた。
 三日間の疲れからパーっと打ち上げに行こうと誘われていた。

 「親父ぃ、送ります」

 でかいバンのスライドドアを開け、車に乗ろうとした時。

 「おう。………あ? あれは……」
 「親父?」

 遠目に浴衣姿の女を捉えた。昨日下駄を失くしたと言っていた水琴だ。他の客はおろか露店にも人がいない。そして例の行方不明者が出ていることからこのまま残しておくわけにはいかない。真島はそっと彼女の傍に近寄った。

 「おう、水琴ちゃん。来とったんか。昨日の探しモンやろ?」
 「こんばんは。下駄、みつかりました?」
 「電話掛けへんかったんかいな」
 「掛けましたよ。でも、昼間にはないって聞いたから。……あの下駄お気に入りのものなんです。だからどうしても見つけたくって」

 困ったように笑い水琴は辺りを眺め回した。

 「水琴ちゃん、今日はもう帰ったほうがエエわ。祭り運営しとるとこにも言われてんねん」
 「……でも、私今日までなんです。……三日間、お祭りがあるから来ていたけど……帰らなきゃいけないから」

 水琴はお盆過ぎのこの時期にふさわしく、帰郷していた若者の一人だろう。
 だからどうにか粘って探したい、その気持はよく伝わってきた。

 「……わかったわ。ほな一緒に探したる」

 初日の夜、男女二人が一緒にいた。
 行方不明は男一人だけである。もし、二人が行方不明なら女の方にも届けが出ているはず。つまり、二人以上は安全という仮説が立つ。女と別れたあと男が行方不明になった。そう考えるのが自然だろう。

 時刻は九時一〇分を過ぎていた。
 三〇分までには切り上げて、それまで一緒に探してやって、帰してやるのがいいだろう。

 会場の傍らにある林道にかけての道で水琴に問うた。

 「失くした場所、思い当たる場所はあるんか?」
 「……うん。今そこに向かってるんです。……そこの上の社にお参りをして……帰りがけ階段のところでうっかり足を挫いちゃったの。そのときに鼻緒が取れた……かも」
 「ほな、階段とこ探してみよか」

 階段下の草原は暗く手持ちの懐中電灯だけでは、隠れている下駄を探すのは至難の業だ。
 水琴は階段脇の茂みを探っているが一向に見つからない。少し経って彼女のほうが口を開いた。
 
 「ねえ、真島さんは……今年がはじめて?」
 「ん? 祭りのことかいな。せやのう……仕事で来とる。水琴ちゃんは、一人……っちゅうわけやなさそうやの。カレシと来たんか」
 「ふふっ。残念。彼氏はいないの。……こういうのもなんですけど……なかなか続かなくって」
 「続かないて、関係がか? ひひっ! いうてジブン可愛ええし、途切れへんやろ?」
 「褒め上手ね」

 階段上の水琴を見上げた時、かさりと草陰が音をたてた。
 真島は音のしたところの草をかき分けると、下駄の片割れを見つけた。
 
 「お? おい水琴ちゃん、……下駄みっけたで!」
 「ほんとですか?」
 「あ……?」

 その声は階段からではなく、真後ろから聞こえた。
 恐ろしいほど短時間のうちに気配を殺して近寄る女に第六感がざわめきたつ。真島が振り返ろうとしたとき、すでに彼の体は草の海の上にいた。
 口元には生暖かな感触と、女の甘酸っぱい匂い。それから柔らかな体の重みだった。水琴は何度も食らいつくように真島の唇を求めた。

 「ん、……なん、っな、なにすん……ちゅ、ン、……ぱ……何すんねん!」
 「いい獲物ね。美味しそうだわ。……ん、ん……!」
 「……水琴ちゃ……」
 
 女を退かせるなど、赤子の手をひねるくらいのものだ。
 水琴はふ、とたおやかに笑み絶え間なく繰り返されるキスの合間に真島の下腹部に触れた。そして挑発的に言った。

 「勃ってきた。正直なひと、大好き」
 「は……ッ、離れろや。……うっ……こら、……は、……」

 祭り用に着ていた股引の布の上から、しなやかな手つきで触れた。そこはすでに硬さを持ち始めており、声を荒らげようにも説得力が皆無である。
 
 水琴が股引を勢いよく解き、ボクサーパンツをずりさげると勢いよく逸物が飛び出た。女は勢いよくそこへかぶりついて、ジュボジュボと豪快な音をたて陰茎を咥え扱いた。草むらのベッドの上で女に襲われている。男としては願ってもない理想のシチュエーションであったが、ヤクザとしては風上にも置けぬ醜態である。しかし、彼女の口淫はじつに男の快感の在り処を心得ていた。目を閉じるとそこは女の膣の中にあるような感覚に陥った。

 ふと薄目を開けた時、驚愕の姿がそこにあった。

 「な、んじゃ……お前……!?」

 暗闇に反射し淡く光る艶やかな鱗、血を透かした紅の瞳。蠱惑的に浮かぶ微笑の端からは波打つ舌がちろちろと見え隠れする。
 白蛇。その姿を一瞬のうちに映し出し、人間の女の姿へと戻ったのである。強力なバキューム力を誇るどんなオナホールでも遠く足元に及ばぬ吸い付き。長持ちする方であるという自負をあっさりと打ち負かし、真島は声を濁らせ蛇女の口の中で爆ぜた。

 「ん、ぐ、うううっ! うっ!」

 口内で射精を果たし、女はそれを音をたてて飲み下した。

 「くす、くす、……ふふ、ふふふ……私の勝ちね? とっても美味しかったわ。……刺激的な味……でも、その奥に甘さがあって、ふくよかな味わい。……っていっても、もう聞いてないか。人間はすぐに壊れる」

 呆れた声で女は呟いた。草むらに沈む真島を見下ろしながら立ち上がると、踵を返した。
 そこへ逃さぬと言わんばかりに手が伸び、女の帯を引っ張った。後ろから羽交い締めにし、そのまま突き倒すとちょうど傍にあった木に両手をついた。真島は浴衣の裾を荒々しく捲り返あげ尻を晒すと、反り返った男根を湿った孔に突き入れた。

 「ッ!? そ、そんな! 嘘でしょ……いつのまに、あ……あっ……!」

 水琴は信じられないと目を白黒させ、性急な応酬に喘ぐ。
 真島の驚異の回復力に目を瞠るも、あっという間にその刺激の虜となった。

 「アカンでぇ? 水琴ちゃん、……大人からかって遊んだら。痛い目見ろや」
 「うそ、死んでっ、ない、なんて! あッ、アッ……! ん、あああっ ふとい、ふといぃ! あっあっ……あん、……あ……はぁ……はぁっ……だめぇ……」

 女は髪を振り乱し、顔を紅潮させ、黒目は瞼の裏にひっくり返って、みっともなく身体をガクガクと震わせた。

 木の幹にしがみつくのがようやっとである。しかし、男の動きが止まることはない。容赦のない律動に白目を剥き、水琴は涎を口からだらだらと零した。蛇女の長い生命のなかでこんなことは初めてだった。通常、人間の男から搾精したあとはその者が死んでしまう。よって、自らの快感を得る経験は乏しく、死姦で満たすのがせいぜい。

 そんな中、この男は驚異の回復力をもってして蛇女を最果てへと導こうとしている。
 木に向かって背後から押し被さり、形よし、太さよし。質量が十分にある男魔羅に激しく突かれよがり狂う。想像を絶する快感を与えられ、恥すら厭わずはしたない声で叫んだ。

 「アッ、アアア……お、ぐ、……おぐぅぅぅ……ぅっ!」

 真島は袷を左右に押し広げ、たわわに実った乳房を揉みしだいた。水琴脇の下から身を差し込み、頂にあるザクロの実に齧り付く。ジュルジュルといやらしく果汁を啜るような音と、厚い舌の蹂躙によって蛇女は一際高く嬌声をあげた。

 ―――あああっ……ぁぁあっ……だめ、ぁ、はぁ……あぁぁん……!

 浴衣の裾を大きくたくし上げ、
 尻たぶを掴みパツパツと張った肌が音をたてる。

 「……あぁ……マンコよう吸いついとるでぇ………っく、……水琴ちゃん、これで何人の男しゃぶり殺したんやぁ? なァ言うてみ」
 「っぅう……! だめ、あっあっ……しら、……しらないぃ……! アァッ!」

 草むらに放り出され、蛇女は”なぜ?”と理解の追いつかない頭で真島を見上げる。
 真島を咥えていた女穴は、熱源を突然失ったことでひくひくと切なく収縮した。

 「アァン? なんや、だめ言うさかいヤメたったんやないかい。水琴ちゃんが正直に言わんのが悪いんやでぇ?」
 「ひどい……」
 「なぁにがヒドイじゃ。うっさいわボケ。どっちがヒドいねん。正直に口割れや。絶対ウソつくんちゃうぞ、ワシ、カタリがいっっちばん嫌いやねん」

 足元に這い情欲に染まった蛇女水琴は目の前のものに、ごくりと喉を鳴らした。衰えをまったく見せない真島の屹立に釘付けだった。

 「聞いとんのか。オイ。なんぼのタマ取った?」
 「あ……っ」

 真島は目線を合わせようとしゃがみ込み、髪を掴み上げ蛇女の顔を向かせた。蛇女は瞳を潤ませぽってりと膨らんだ唇でしっとりと「数え切れないくらい」と言った。水琴は長い年月を生きてきた。正確な数を告げられないのであればこの男の精を味わうことは叶わないかもしれない。戸惑いと怯み、不安げな水琴を真島は見下ろしやれやれと息を吐いた。 

 「おい、マンコおっ開けや。ブチ込んだる。………もっと突き出せや。ワシ目ぇ悪いねん」

 水琴はすぐにその言葉通り従った。欲に染まりきった身体で、自らの花弁を押し広げる水琴の秘部に、躊躇せず真島は腰を押しつけた。

 「おっ……あっ、あっ……あっあっ…あぁぁっ……」
 「……ヒヒヒ! ……ええ子や」

 鋭敏に研ぎ澄まされた感覚 暴力的な炸裂に 水琴の脳裏にパチパチと閃光が走る。
 バネがたった一つの作用によって、振動を繰り返すように体が震えた。しかし、男の激しいピストンは止まらずどんどん加速していく。さらにズプ、ズププと深く沈み込み、充溢した粘液の力を借りて真島が水琴の花の道を踏み荒らした。

 ―――んんんんぅ………あぁぁぁ……っ!

 雄叫びをあげ水琴は極まり、白い脚を真島の胴に絡みつかせた。
 一拍置いて後を追うように、真島もぶるりと体を震わせ精を解き放つ。水琴は子宮の奥に潜り込もうとする男を深く味わった。口で感じたものよりも、はっきりとした感動的な味に陶酔し、いまだ舌に残るものを舐め回した。

 「ん……く、ぅん………ふ……」

 今まで食らってきたどんな男の味よりもキレのある味で、殺すのは勿体ないとすら感じていた。
 
 満たされたのち。水琴は暗い林の黒い樹木、木の葉の隙間から月の細い光明が柔らかく、未だ自分を見下ろす真島を照らした。
 彼のしなやかな肉付きと力強さ、細く括れた腰と、今しがた濁流の熱を体の奥に宿した象徴。肌には流麗な柄が載り、やがてそこである真実の符号に声をあげた。

 「……あなたも蛇なのね。……だから、まだ生きていられるのよ。……いまいましい」
 「ほぉ。ようわからんが、褒められてるみたいやのぅ」

 真島はへらりと笑ってみせた。
 バツが悪そうに睨みつける女は「こんなことは、……はじめてだわ」と改めて口にして心中、戸惑いを隠せなかった。

 「こっちがホンマもんの姿かいな」

 いつまでも人間の女の姿をしているのが居たたまれなくなり、一瞬のうちに蛇の姿へと戻った。
 パンパンに膨らんだ細かい鱗に守られた赤目の蛇は、しゅるしゅると渦を巻き身を固めた。中心の目の部分に顔を埋め、威嚇するように舌をチラつかせると真島は小さく笑った。

 「ワシな、二日前の夜でここいら辺で盛っとった輩を見とんねん。あれお前やろ。男の方はどないした。殺ったんか? はっきりさせようや。死体出せ」
 「………そいつなら、丸呑みしたわ」
 「ヤリ捨てどころか、人食い蛇か。なるほどようわかったわ。……お前がここらの祭りの日の原因っちゅうわけや。……ええか、もうこないなコトは止めや。男食って楽しいんか、ええ?」

 まっとうな忠告に対して蛇は人間の言葉を使って叫んだ。

 「なによ偉そうに! アンタなんかたまたま死ななかっただけじゃない! 蛇を体に飼ってるのなんて反則だわ! 私をそこいらへんの野良蛇と一緒にしないで! 食事だって一年に一回きりだもの。これでも弁えてるんだから失敬だわ。いつまでも人間ってこうだから嫌いなのよ!」

 人語を叫ぶ水琴は「シャーッ」と威嚇した。
 そうしてしばらく憤るまま舌をチロチロと見せびらかしていたが、ほどなくして身の上話を披露した。

 「たまたま白蛇に生まれただけで、この村の守り神に祀り上げられたんだから、その対価は貰っておく必要があるの。でも、近頃になって人間はそんなものは過去の因習だとかいって都合よく捻じ曲げて、私への貢物を怠った。だから、これは罰なのよ」
 「お前神社の蛇か」
 「そうよ。人間よりずうーっと偉いんだから。それに、昔はちゃんと生かしてた。祭の夜だけの生贄で帰してあげてたのに。先に裏切ったのは人間のほうだから……だから……」

 神聖な証の赤い目を潤ませて、白蛇はいじらしく真島を見上げた。その目は悪くないと言いたげだった。
 真島は散らばった下着と股引を履き直し、「とにかくや」と続けた。

 「お前がやっとることをこのまま続けると、夏祭りに人が来えへんようになんねん。……で、お前を祀っとる神社かて廃れてまうかもしれんで?」
 「………それはイヤ」
 「そういうこっちゃ」
 「それじゃあ……アンタが毎年私のところに来ればいいのよ」

 水琴はころりと頭をもたげて、予想外の解決策を呈した。
 いっそ暴論である。真島はあからさまに不機嫌な声を出した。

 「あぁん? 何勝手に決めてんねん。ワシかてなぁ」
 「アンタ一人で、この町に住む五万人が安泰なのよ?」
 「五万人はなかなかの規模やのぅ。けど俺、町民ちゃうねん。ご利益薄いわ」

 あぐらをかいた膝の上で頬杖をつき、どうにか適当な言い訳をいって逃れようとしたが蛇にはお見通しのようだった。

 「バカね。これだから信仰の薄くなった現代人は。アンタのところの氏神にもお願いしておくわ」

 ―――マジか。
 真島は隻眼を細めて、とんでもないことになったと思った。

 胸とも思えない腹の部分で、えっへんと胸を張る白蛇。不覚にもその挙動を可愛いと思い始めてきた真島はいよいよ頭を抱えた。苦し紛れに「しゃーない、やったるかぁ」と渋々了承すれば、水琴は長い首をさらに伸ばして目を爛々に輝かせた。

 「こんな光栄なことはないわ! この白蛇さまと無料で睦み合えるんだから」
 「淫蛇と神社の敷地内で青姦とかどないなってんねん!」
 「なにいってるの、次からは神社の祭殿でするのよ」
 「大問題やろが!」
 「三日三晩するの」
 「三日三晩?!」

 真島は驚愕するとともに出任せだと疑った。
 白蛇は上機嫌にくるくると新体操のリボンのように綺麗にうねり、興味深そうに真島の顔を覗き込んだ。
 
 「そういえば名前、なんていうの」
 「真島やいうたやろ。あ? 言うとらへんかったか?」
 「ちがう、下のほう」
 「吾朗や」
 「ふふ、吾朗ね。わかったわ、覚えておくわ、吾朗。……もう少し一緒にいたいけど、また来年ね」

 「お告げ出しとかなきゃ! 善は急げよ!」といって、別れを告げた白蛇は赤目を細めてにょろにょろと草むらに吸い込まれていった。

 かくして。
 この一件により真島組は恒常的に、夏祭りの用心棒業を依頼されることとなるのであった。
 というのも夏祭り最後の日の翌朝、神社の神主にお告げがくだったとかなんとか。これにて真島は誰にも言えない、裏祭で白蛇の女と三晩続けて興じる役目を負うことになったとさ。

 ちゃんちゃん。



前へ  8 次へ
List午前四時の異邦人