a.t.b.二〇〇七 December
ブリタニア 帝立コルチェスター学院
生命の終わりの季節。
数カ月ぶりのコルチェスター学院はゴーストタウンのように静まり返り、植樹された木々が真っ赤に染まり、枯れ葉が東西南北に別れる道の片隅に積もっている。寄宿舎付近を通ると生徒の誰かの引き摺る咳が聞こえた。
リュックに特大スーツケースが二個。石畳の上をガラガラと音をたてて引き、とりあえず人が居そうな場所、大食堂へ向かった。
天井に突き刺さり先端が僅かに折れている巨木。
昨年よりも立派なクリスマスツリーをどうやって搬送したのか。大食堂の片隅にありながら存在感はエッフェル塔だ。数人の生徒が脚立を使用しせっせと飾り付けをどうするか打ち合わせている。
いつもは奥の配膳場や厨房のあるエリアに向いて並んでいる長いテーブルが、今はコの字型に組まれたテーブルが複数のエリアで形成されている。上部が尖った長細い尖塔窓とは別に、フレンチドアを開放し換気を行っているからか足元が寒い。
人は寒いと感じると自然と火の温もりに惹きつけられる。
ノエルはその場にスーツケースを置き、大きな暖炉の前に行きしゃがみ込んだ。体の芯まで冷え切っている。炙るように手をかざしていると、聞き馴染みのある声に振り返った。
カノンはまさか戻ってきているとは思わず、抱えていた段ボールのいくつかを床に落とした。
「えっ!? おかえりなさいノエル!」
「ただいま。カノン」
勢いに任せ交わされる熱い抱擁。
段ボールを積んだ台車を押す下級生と共に現れた学院の王――シュナイゼルは少々戯けてみせた。
「私には何もないのかい?」
庇うように間に入るカノンが猫のように威嚇した。
「しないわよ。いーっ!」
「おや。寂しい」
そう言って、彼は暖炉にほど近いコの字に組まれたテーブルについた。
白いクロスの上には、段ボールの中身の書類がいくつかのボックスに分類され積み重ねられている。よく手に馴染んだ仕事だというように、彼の手は迷う隙間さえなく最初の一枚を選び取る。
「あまり書類を見ないようにね。それだけは忠告しておくよ」
「自室でお遣りになればよろしいでしょう」
「私の部屋は段ボールが居座っていてね。一週間ほど空けたあとは大変だ。それに今は厄介な時期になっているし、段ボールを移動させられない」
流行り病のせいらしい。
唐突にカノンが「ちょっと、背が伸びたんじゃない?」とノエルの全身を注意深く眺めてみて口にした。
「そう? 向こうでは、周りがみんなデカくて気にしたことない。ここでもそう」
「それもそうね」
ノエルの身長だけが伸びているわけではない。だから、違和感があるかというとない。
友の歓迎にお土産のことを思い出した。ノエルはスーツケースの場所に戻り、中を漁った。
「一八〇は絶対超えてる。上着とシャツ、その他に靴も買い替えたし、留学最初に履いてたパンツから足首が出て寒い。毛糸のソックスを買った。……はい、お土産」
「あら、これ……ヴェルトハイムに入ってるアナートーレンのコスメ!?」
ベルリンの高級百貨店ヴェルトハイムに入るラグジュアリーブランド。老舗ブランド御三家の一角アナートーレンは昨今新規顧客発掘と若年層の開拓のためにイメージを刷新し、パッケージが鮮やかでポップな仕様となっている。
カノンに手渡したものは、スキンケアやポイントメイクのリップ、アイシャドウなど一式がミニサイズで揃っているギフト用の商品だ。
「確認しようかと思ってたんだけど、買ったあとに思い出したんだ。持ってたらごめん」
「持ってないわ。こっちでも出てはいるけど、価格も割高で。それにこれ本国限定品だわ。さすが」
「気に入ってくれてよかった」
がさごそとスーツケースの中身を床に広げていく。「まだあるの?」とカノンは尋ねた。
「空港でお菓子を買った。これはフリースペース用。先着順! こっちはケント向け。……殿下ー、お土産が欲しいですか?」
「私の分もあるのかい?」
「どうぞ」と大きな包みをカノンを介して渡すと、その正体に気づいた彼は早くも腹を抱えて笑い出した。
「なに……っ、これ……う……くくく! なんでテディベア……!」
「おやおや。テディベアを? ヴォール社のものだね。子供扱いのつもりかな」
ヴォール社はドイツのブランドだ。顔の造りが後発のブリタニアブランドよりも丸っこく耳が小さい特徴がある。ノエルが購入したものは空港限定品でパイロットの制服を着ている。
「いやー。殿下ん家で見かけたもので……てっきり蒐集しているのかと思って」
夏のウィルゴ宮にお邪魔した時、懐かしさからこっそり探検に出かけた。使われていない子供部屋を発見し、そこに大量のテディベアが鎮座していた。シュナイゼルにも可愛い側面があるのだと嬉しくなったのだが。
「え?」
「ああ……あれは、母君からの贈りものでね。飾ってあるだけで……特段思い入れがあるわけではないんだよ」
「ヴォール社のテディベアたちに向かってそりゃないですよ! しかもオーダーメイド品じゃないですか。……人恋しい休暇中は、テディベアと一緒に眠っているんじゃありません?」
「ごあいにくと。一人寝のほうが気が休まるものでね」
おかしい。ブリタニア人の赤ちゃんにとって最初の友達はテディベアであるはずなのに。
他のどんな玩具も成長すれば子供のものになるのに、テディベアだけは特別に大人が持っていても許されるほどの地位を確立しているはずなのに?
「お気に入りのテディベアとかいなかったんですか? 名前つけたりして」
「君がぬいぐるみが好きだということはわかったよ」
「ブリタニアを代表する皇子が、それでいいんですか?」
「皇子は私の他にもたくさんいるからね。テディベアを愛する皇子の名誉と称号は譲るよ」
「それじゃ、そのテディベアはもっと大切にして貰える人にプレゼントします。……クロヴィス殿下なら可愛がってくれるかなー」
シュナイゼルの手に渡ったテディベアを回収しようと座ったまま手を伸ばす。椅子の上からきょとんとした顔でノエルを見下ろした。
「ん? これは私宛てのプレゼントだろう?」
「え? いや。今の言い草じゃプレゼントは要らないのかと……」
「ありがたく頂戴するよ」
にやりと笑い、ノエルは引き続きスーツケースを漁り直す。
「……では、差し上げます。殿下に。可愛がってやってください。ちゃんと名前をつけて。……あ、そうだ。誕生日は八月三十一日です。そのテディベア、中に機械が入ってて、スイッチを押すと喋るんですよ。自分の誕生日用にメッセージがあるんです。子供向けの、情操教育用でしょうね」
「やはり子供扱いしているね?」
「あははは!」
快活に笑うノエルの背後、大食堂の正面扉が大きな音をたてて押し開かれる。
「アストリアス!」
呼ばれる名前。ずんずんと前のめりの姿勢。大股で迫るノーサンブリエの生徒、ダローウィンだ。
その顔を見るいや否やげんなりした。
「うへぇ……帰国後早々会いたくない顔だ」
宮殿の守衛のように矜持高く胸を張り、しなやかな顎を持ち上げて、はっきりと口にした。
「貴様に折入って頼みがある」
意表を突かれ、耳を疑った。そして因縁の相手、犬猿の仲であったはずの彼の豹変に、気味の悪さを感じ取った。
現在の学院の問題について、ドイツでシュナイゼルから聞かされていた件が未解決なのは明白だ。それはこの大食堂の閑散ぶりや、なぜか代表室ではなく、この場所≠ナ書類仕事を捌いているシュナイゼルの様子から類推可能だった。
ノエルは身を逸らし、距離を取った。
「やめてくれ〜。聞きたくない! 聞かない!」
ダローウィンはすぐ近くのテーブルで、然程重要そうではない資料に目を通すシュナイゼルを見遣った。
「殿下! もしや、お話しになったのですか」
「考える時間が必要だと思ったんだよ。……状況は? 変わりないかい?」
「それが……。主演と助演まで流行感冒に罹患して……劇は壊滅状態にあります」
「そうか……では……」
ノエルは立ち上がり、遮るように叫んだ。
「中止! 中止! 中止にしろ! 劇場の違約金がなんだよ。学院の、OBの信用がなんだ。寮の拠出金がどうした! 強行で上演して流行感冒を広げてみろ! それこそ責任問題だ!」
もっともらしい懸念事項を並べると、シュナイゼルもうんと一つ頷いた。ダローウィンだけが不服そうに食い下がった。
「……私も彼の主張に一理あると思うがね」
「殿下まで……!」
「逆に問うよ。これ以上続けてメリットはあるかい?」
上演までは日にちがない。すっぱり止めた方が良い、と口にはしないが肯定する生徒も多いだろう。
「……くっ……頼む! アストリアス!」
ダローウィンはよく櫛で梳かしつけた綺麗な髪を振り、頭を下げた。ノエルは青筋を立て数歩引き下がった。
「え、えぇ……よせよ……そういうの。……やめてくれって……」
大食堂内の生徒達の視線が集中する。
問題事は懲り懲りだ。なにをどうして説得してやろうか思考を巡らせたが、ダローウィンはその頭を下げ続けている。
「ちょっと」と声をかけ、ダローウィンの肩を抱いて食堂の片隅にあるクリスマスツリーの下へ連れて行く。
「……意味わかってる? 君のところの監督生がここで事務作業しなくちゃいけないくらい、広まってる」
「ああ。もちろんさ。マイダネットが代表室で吐いたから、その消毒であと数日は閉鎖しなくちゃいけない」
その話は知らなかった。大食堂内にいる生徒で、比較的ノーサンブリエ寮生が多いのはそういう理由らしい。
「地獄絵図だ。殿下は忙しいの知ってるだろ」
「ああ。お前にしては品行方正な指摘だ」
「いつもと立場が逆転してる」
「……言えてる」
ダローウィンの瞳に諦めの色はない。
ノエルが短い息を吐く。彼とは親しくないから事情を知らない。
「……言いにくい理由? 個人的な利益? 言ってみて」
「言ったら、協力してくれるのか?」
安請け合いは増やしたくない。
「んー……内容による。だけど、君のところの監督生が一度決めたことは最適解だと知っているだろう? いつも代表室で補佐をしていた、級長の君が知らないわけがない」
「それは……もちろんだ」
「ああ。……私が代わりに……気が触れたふりでもして主張を変えて決行することは出来る。そして、それを目論んでる?」
「……やってくれるのか?」
彼の態度は真剣味を帯び、また、ノエルを信用をしようとしているのが伝わってくる。
だが根っこの部分でノエルの意見は変わっていない。
「リスクは大きい。さっきも言った。今元気なメンバーで取り組んで、公演直前に体調不良者の一人でも出したら、それはもう地獄だ! 黙示録のね。それか、いっそ、舞台をダンテの神曲に替えたほうがいい! 煉獄篇あたりで観客は眠りにつくか、飽きて帰宅する。彼らは天国行き、我々は地獄に留まる!」
ダローウィンはごくりと唾を呑み込んだ。
「……それで、どういう理由なの」
「……個人的な理由だ。……劇を、観て欲しい人がいる」
「誰に?」
「五月にプロムがあっただろ?」
「突然だ。……ははーん。わかった、そこで知り合ったんだ?」
指をさし、胸を拳で小突く。
ダローウィンは仕返すこともなく認めた。
「惚れたって?」
「そうだ」
「彼女は、帝国劇場のオーナーのご令嬢で……」
「良いところを見せたいって? 劇には出演するの? 君は」
「役はある。あとでリストを見せる」
「帝国劇場の……ああ、もしかしてイースト・アングリア寮のラドンの妹の話? 噂じゃ……君のところの……」
イースト・アングリア寮生のラドンの妹。名前はたしかエレノア。噂では、シュナイゼル宛にラブレターを贈ったことがあるらしい。同じ学院に通っている人間相手に挑戦的だと思う。
ダローウィンもそれを自覚していたようで、重く呻いた。
「わかってる! 無謀な挑戦だとは……思う」
「朗報だぞ。彼には婚約者がいる。とびきり有名な。この間、彼女の実家≠ナ熱いキスまで交わしてた。もうすぐ結婚するはず。チャンスはある」
「そんなことは知っているさ。周知の事実。……しかし、彼女の気持ちは別だろう。殿下に心が向いているなら……」
「なんだよ。急に弱気になるな。……家の意向であって、彼女の本心は別だとしたら? ……野暮かもしれないんだけど、劇を観てもらうより、それこそラブレターを贈って確かめたほうが早いんじゃないの」
「……お前ってなんていうか、情緒がないよな。……彼女とプロムでは少ししか話せなせなかった。共通の話題が必要なんだ」
「いや。だから……それを全体を巻き込んでまでする必要はないんじゃないのか、って話」
ダローウィンは何か言い返そうと口を開きかけたが、虚しく吐息が溢れるだけだった。
「個人的すぎる?」
「ああ。個人的すぎる。もっと大義名分が欲しいなー。だって休暇前に罹患したら帰省できなくなる。家族に断られるから、他生徒は嫌がるだろ?」
それは考えていたのだろう。ダローウィンは「うう」と小さな声とともに肩を落とした。
ノエルは別にダローウィンが苦しめばいいとは考えていない。正当な理由付けが欲しかった。その理由を元に庇い立つことならいくらでも出来るからだ。
「おいおい、しっかりしろ。劇の代役案は? 候補は出した?」
「残っている生徒をかき集めて、テストするしか……残り二週間しかない。休暇前のテストもあるし、消極的だろう」
「考えがあるか?」
「提案するならもう少し頭を捻って欲しいところだけど。しょうがない物は試しだ。……肝心の演目は?」
「マクベス」
――マクベス。
「台本は?」
「持ってくる」
ダローウィンは踵を返し、大食堂から飛び出した。
――どうしたものか。
首の筋肉を解しながら、テーブルにわらわらと集まるノーサンブリエ寮生達の中に戻る。数人の下級生の手伝わせて、仕事に没頭するシュナイゼルが顔を上げた。
「長い相談だったね」
「とりあえず、台本を読んで決めます」
「上演するつもりかい。本気で?」
その声に、他の生徒もノエルを見た。探るような、不安そうな、なんとも言えない表情と様々だ。
「それも、読んでから決めます」
ノエルは未使用の椅子の一つを引いて座った。
そこへ、暖かい食堂の空気に新鮮な冷たい風が入り込んだ。制服の上に外套を羽織ったクロヴィスの登場だ。
「兄上!」
「やあ。クロヴィス。食事に来たのかい」
「ああ……それもあるのですが……、彼にお願いしに参ったのです」
彼――と、その美しいパープルがノエルを捉える。座ったばかりいにもかかわらず、席を立ちクロヴィスに向けて黙礼する。
一向に自寮に引き下がれず、帰寮のタイミングを逃しているとその時感じ始めていた。
シュナイゼルの異母弟、クロヴィスは豊かな金髪を撫でた。
「如何しましたか。クロヴィス殿下」
「昨年に引き続き、今年も芸術週間で貴方の絵を描くことが叶わずヤキモキしているんです。だから……」
「絵のモデル? 忙しいのは確かだけど、数日程度なら融通がきくよ」
クロヴィスは首を横に振った。
「いいえ。そうではなく……クリスマス劇にご出演願いたい」
「あ〜……ちょうど今……その話をしているんだよね」
「なんと」
再び冷風が空気を動かす。台本を脇に抱え、ダローウィンが戻ってきた。
「アストリアス! 持ってきたぞ!」
すぐさま台本を受け取り、パラパラと捲っていく。内容の要点を掴んでいき、解決方法を絞り込んでいく。
「どれどれ。……うん……うん……、言いたいことはたくさんあるよ」
「なんだ? なにが問題だ? 言ってくれ!」
ダローウィンとクロヴィスがノエルの両肩にそれぞれ寄り添う。
テーブルの上に頬杖をつくシュナイゼルが、ちらとノエルを見た。
「シェイクスピアにこだわって最初人数で上演するとなると……ヴェローナの紳士≠ェ最適だけど、今から脚本を書き直させるのは大幅なロスだ。正直、クリスマスにうってつけなのは十二夜≠ゥ、学生らしく夏の夜の夢≠ェいい。四大悲劇を観てハッピーになれると思う?」
「ぐっ……」
ダローウィンが呻いた。
「それで。上演を敢行する最低条件は、脚本のスリム化だ。登場人物を減らし、上演時間を縮小する。……それなら問題ありませんね? シュナイゼル殿下」
「そうだね」
署名の仕事に戻ったシュナイゼルが返事をした。
「劇の稽古時間も当然短くて済むし、四大悲劇程度は一般教養範囲内だ。……知らない方がおかしい。抜けがあっても観客が補完してくれる。……えーっと……ペンを。要らない紙はない?」
試し書き用の白紙とボールペンをダローウィンはシュナイゼルから受け取る。
「はい」
テーブルの端で、紙に押し付けるように書き込んでいく。
「どうも。……出演俳優の最小人数は……七人か、八人程度で。兼役でこなすことになる。大勢のシーンは事前録音で対応可能だ。この際、省略部分のナレーションを入れるのもいい。……どうですか? 皆さん」
カノンが指摘する。
「兼役は着替えが一苦労じゃない?」
ペン先で指す。
「その通り。……だからこそ登場人物を減らすか、事前録音だ。あとは演出の腕次第。というか、もうそれしかない。……演出は誰が?」
「私だ」
クロヴィスが答える。
ノエルは頷き、「殿下、貴方の腕にかかっています」と告げた。
「……でもマクベスか……このチョイスだけは気に入らない。ムズムズする」
マクベスとは、小心者の男マクベスとその妻が共謀し王位簒奪を実行し、苦悩に苛まれ、また自らも悲劇を辿る――クーデターの物語だからだ。
小さなぼやきに反応したシュナイゼルは、そこに立つクロヴィスを一瞥し、そっとノエルに教えた。
「その脚本を書いたのはクロヴィスだよ。ノエル」
「―――」
一呼吸を置く。
「はあ……、……やっぱ今のは無ーし! 前言撤回! 我々ブリタニア人を郷愁に誘う選択ですね! 観劇者にはぜひノスタルジックな気分に浸ってもらいましょう」
大食堂内は苦い笑いに包まれる。
「概ね、ノエルの案通りに進めれば催行可能だ。懸念事項がひとつ。兼役が増えるということは役者の負担が増えるということだけど、それを担える生徒がいるのかな?」
「ごもっともです。殿下。……すると、テストの成績が上位順に配役の負担を増やす……ということになるでしょう」
ノーサンブリエ寮生達は互いの顔を見合わせていたが、徐々にノエルに視線が集中していった。
「……え? ……は?」
「ノエル。あなた、墓穴を掘ったわよ」
カノンが声を潜めて言った。
「私はノーサンブリエ寮生じゃないですけど。というか、この劇は各寮から有志によって構成されるクリスマス演劇じゃ……?」
シュナイゼルが万年筆をテーブルに置いた。
「だからだよ。留学先の優秀な成績を考慮し、君は休暇前テストが免除される。よって、もっとも負担の大きい主演ふたり……」
「待って待って待って待って……! ストーップ!」
両手を振り上げ遮ろうと試みるが、彼は続けた。
「主演……」
「ストーップ!」
大声で叫ぶ。ツリーの下で作業をしている生徒さえも振り返った。
テーブルの上で手を組み、面白そうにシュナイゼルが笑った。
「前言撤回するのかい?」
「さすがにしませんけど」
「だそうだよ。クロヴィス。おまえの好きに割り振ってごらん」
「それはナシ!」
はっきりと拒絶する。嫌な予感がしたからだ。
「一ヶ月も悩んで仕上げたのに、こうも否定されては可哀想じゃないか。芸術週間にも非協力的だし、君の才能を公平に分け与える絶好の機会だよ」
「私は公共の共有財産ではありません。だいたい……演劇だって初心者です」
「おや? そうかな。……君ほどの演技派はいないと思うのだけれど。違うかい?」
――……こいつ……。
いやらしく口角を持ち上げたシュナイゼルを睨む。
学院に戻ってきたとて、やるべき事は山積みだというのに。そして、その大半がシュナイゼルとの取引で与えられた捜査の準備のためだというのに。
「……残っている出演可能そうなメンバーから、成績順に選んでください。クロヴィス殿下」
「それはご承知いただけたということだろうか」
「まったくもって不本意ですが、芸術週間の貢献度の低さは自覚しています」
ノエルはダローウィンに呼びかけた。
「ダローウィン。君も出演するだろ。私を説得した責任の所在は君にある」
「ああ。それは当然だ」
「これで二名は埋まった……カノンは?」
次にカノンに差し向ける。
「私? ……協力してあげたいのは山々よ。……でも……クリスマス前には外せない準備があるし」
「あー……そうだね。それはそうだ。野暮なことを聞いたよ。ごめん」
「衣装係かメイクくらいなら協力できるわ」
「いいね。それは有り難い! それじゃクロヴィス殿下、残りの調整を頼みます」
クロヴィスは演劇の計画が進められそうだと安心し、微笑んだ。
「……そういえば、ダローウィンは何役なの」
「ダンカン王」
「マクベスじゃないの!?」
「だからさっきから主演が空いてるって言ってるだろう」
――まあ、その方が想い人へのアプローチにはベストな役か……。
ダンカンは序盤に三人の魔女の予言を聞き、王位簒奪を目論んだマクベスによって暗殺される。ちょっと可哀想でありながらインパンクトを与えつつ、話の主軸になる役どころだ。
「序盤で空くから、君はもう一役兼任することになるけど」
「ああ。わかっている」
「空いている役は、主演と……ほかは?」
「魔女の一人、マクダフ、バンクフォー」
「主役級が穴だらけじゃん」
「稽古中での接触で感染ったらしい」
紙に空き役を記入していく。
「三人の魔女役とマクベスは同じ場面に出るから兼役は不可だ。主演となるマクベスとマクベス夫人も同じく……。……殿下はご出演されないんですか。首席でしょう」
「私かい? ……責任者だからねえ」
――どうりで。余裕綽々の態度でいられるわけだ。
白けた目つきで睨むと、彼は品をつくって小首を傾げた。
「人を嵌めておいてそりゃないですよ」
「いつ唆したんだい? 君自身がさっきやると言ったんだよ。そこの彼とどのような密約を交わしたかはわからないが」
ダローウィンは居心地の悪そうに目を背けた。
「ベルリンで話した時。あの時、わかってて言ってたんじゃないですか?」
「あの頃はここまで窮状ではなかった」
「あーあー、左様でございますかー」
「ふうむ。……ノエル、来なさい。あちらへ」
シュナイゼルが椅子から腰をあげ、手招きした。
窓際にノエルを連れ出し、劇の指示を出すクロヴィスを眺めながら言った。
「……密約を交わそう」
「何重契約ですか」
「まだ二重契約だ」と小さく笑った。
「わかってて言ってんじゃないですよ。……それで、更改の内容は?」
「クリスマス演劇が終わったのち、次の捜査に移ること」
その言葉にはっとして、元々のスケジュールを思い出した。
「……捜査、ね……。もとより、そのつもりでしたが。そんなんで良いんですか?」
彼はゆっくりとノエルに迫った。
「おや。もっとお願いが欲しいのかい?」
「いや。無理難題は困るんで結構です。これ以上増やされると、捜査の品質が下がります」
「一度、その手品の秘密を教えてほしいけれど……ね?」
捜査に種も仕掛けもない。犯罪を積み重ねているだけだ。傷害罪、情報の不正アクセス。その他諸々。銃刀法違反も犯している。
「はいはい。捜査が終わったらいくらでも教えて差し上げますから」
「よろしい。契約成立だ」
彼はノエルの手を握り、握手をした。シュナイゼルは輪の中に戻り会議に加わった。
「交渉がまとまったよ。私も出演するとしよう」
「殿下が!?」
ダローウィンは驚いて声をあげた。
「このままでは埒が明かないだろう? それで、何の役を務めるんだい? マクベス? レディ・マクベス?」
ノエルも輪に戻り、彼の懸念点を指摘する。
「殿下がその役をすると、宮廷のお偉いおじさん達が黙ってないんじゃないかと思いますが……」
「大ブーイングだねぇ。……しかし、誰もやりたがらないようでは進まないよ? セリフ量も多い。首席ならマクベスを務めるのが筋ではないかな」
「ふーん。……まあ。じゃあ、殿下がマクベス役と仮定して。……マクベス夫人は?」
ノーサンブリエ寮生を見渡すも、みな顔を背けていく。
「……誰も挙手しない、と。……殿下が相手役だと恐れ多いんじゃないですか? ……マクダフも? マクダフも挙手なし。……いくらなんでも不敬すぎる役どころだから? ……ちょっと、クロヴィス殿下〜」
「私は監督、脚本、演出を担っているから役者にはなれませんよ」
――無理もない。
「ノエルは?」
カノンが訊ねる。
「うー……しょうがないなぁ……私がやりますよ。……幸い、レディ・マクベスとマクダフは場面被りがないですし、レディ・マクベスは序盤から中盤、マクダフは中盤から終盤に活躍しますから上手く繋がるでしょう。……その代わり、他のメンバーは残りをカバーしてください」
レディ・マクベスは夫を扇動し共に謀を企て王位に就ける役どころ。一方、マクダフはその暴君と化したマクベス王を討ち取る正義の男だ。
これはちょっと厄介な事になってきたとノエルは思ったが、心の何処かでは楽しんでいることに気がついていた。
a.t.b.二〇〇七 11th November
カストラリア 中部・ヴァラグラード
深い木々に覆われる山の中。
糸のように絡みつく枝を抜けると、そこには古びた館が現れる。
冷たい霧に包まれ、夜でもないのにどこからか梟の鳴き声が響く、常闇の中。
『わたし』はそこで、朝もなく昼もなく夜もないところから――逃げ出すために走った。
温かいスープも、チキンのローストも、プディングは何ひとつ存在しなかった。
あるのはたくさんのベッドに並ぶ、全身に包帯を巻かれた子供達と、館中を充満する薬品と血液の臭い、叫び声、泣き声、笑い声だった。
ヴァラグラードはカストラリアの中部の、激しい起伏の山岳と峡谷の波打つ一帯にある地方だ。
断片的な記憶の中の景色を頼りに、衛星画像からそれらしい場所を二日ほどかけて数カ所巡った。カストラリア訪問にはミュンヘン大の歴史学科修士、トマス・ハウンゼントが一緒だった。彼にはフンボルト大ベルリンに提出するレポート作成を付き合って貰っていた。
三箇所めのその日、アスペル山の中腹にある村とその付近にある養護院――過去そこは障害者の入所する療養施設だった。記憶では石造りの灰色の寂れたような屋敷だったが、今は建て替えられたのか、赤レンガ建築のルネサンス様式の館となっている。周囲を覆う木々や庭の広さ、途中の岩がちな斜面などの条件からこの場所を訪れた。
ノエルの体調は館に近づくにつれ悪くなっていった。
足取りは重く、やけに息が切れやすく、途中何度も休んだ。
「大丈夫か? アストリアス。こっち来てから休んでないだろ。目の下に隈出来てるぞ」
「……ああ……、ちょっと。……ごめん、何度も休憩して……」
「んなこたぁ気にすんな。……水貰ってこようか。あそこの建物の中に入れてもらって」
ハウンゼントが指差す方向には、遠くからでも存在を主張する赤レンガの館。記憶違いであればいいと願ってしまうが、どうやら直感はこの場所だと示している。
「……中に……入るのか……?」
ノエルの声は氷水を浴びたあとのように震えていた。
――この恐ろしい場所に?
体中の震えが、この場所を拒んでいる。
ハウンゼントが驚いて顔を覗き込んだ。
「おまえ……顔色が悪い。本当だぞ。真っ白だ。ゴーストみたいに」
「ゴースト……」
――亡霊。
それは、否定できない。
本当に亡霊のような存在だからだ。
ノエルは体に鞭打つように立ち上がった。ハウンゼントの肩を借りて館に入り、そこで恐ろしい記憶が蘇ってきた。
――私はこの場所で……ひどい目に遭った。
館の中では職員が何人か仕事をしており、入口近くのソファを貸してくれた。
エントランスホールの雰囲気は全くそのままだった。
三階建ての中央上空のシャンデリア。日中は節電のためか、窓から自然光を採光している。サナトリウムの陰鬱で閉塞的な空気が、まだどこか柱や絨毯や観葉植物の陰に潜んでいる。時計がどこにもないところも同じだ。
「水を貰えますか」
ハウンゼントが職員の一人に声をかけお願いした。
正直いって、この場所で提供されるものは何ひとつ口にしたくない。だが、喉が乾いているのに汗はかきっぱなしだった。
職員はものの数分程度で水を入れたコップを持ってきてくれた。
ノエルは抵抗感を覚えたが、一息にそれを飲み干した。いくらか気分はマシになった。
「……すみません。ここは……現在は養護院ですよね」
「ええ。そうです。私は一年前から働き始めたので歴史については詳しくないんですけど。……サナトリウムだったとは聞いているわ。もしかして、その頃になにか……?」
「……なにか?」
清潔感のあるポロシャツを着た職員は、顎に手をあてて語った。
「入所者のご家族か親戚の方なのかと。たまにいるのよ。昔ここにいた人とか、その家族が所長にお話を伺いたいって」
「……所長か……」
あの酷い行為≠フ数々。この場所を提供した人物――その代表者である所長の所在は気になった。
「その所長は……現在どこに?」
「今のうちの責任者である理事長が詳しいわ。今のこの理事長……養護院は カンバー伯爵の慈善事業の一環なの。だから外装を思い切って変えたそう」
「カンバー伯爵が……。お会いするのは難しいですよね?」
「都合がつけばいいけれど……お忙しい方だから。今日までリダニウムに滞在されているし……。あなた、お名前は?」
「……ノエル・アストリアスです」
「アストリアスさんね。伯爵のお住まいをお教えしましょうか?」
「よければ。……連絡時、貴女の紹介だと言っても?」
「もちろん。セント・アレクサンドラ・ホームのネリー・アイロスの紹介で通るはずよ」
「アレクサンドラ……ソフィアン王の王妃アレクサンドラの振興で創設されたアレクサンドラ記念病院と修道院とも関係が?」
「あら、その通りよ。王室の慈善事業を現在はカンバー伯や、他の貴族達が分担して引き継いでいるの。元々は王后陛下が始められたんだけど……あんなことがあったから」
ノエルはメモを職員――ネリー・アイロスから受け取り、その住所をまじまじと見つめた。カンバー伯は比較的近隣に別荘があるらしい。現在、ティラナ王女の誕生日祝賀もあり、国中の貴族達が王都に集結している。話を聞きたかったが今回は難しいだろう。
「……もう少し、中を見学させていただけますか」
「ええ。どうぞ」
ネリー・アイロスから許可を貰い、ノエルはソファから立ち上がる。
ハウンゼントはネリー・アイロスが気に入ったのかお喋りを続けた。
養護院の子供達は外の庭で遊んでいるようで、建物は床の軋み音が大きく聞こえるほど静かだった。
セント・アレクサンドラ・ホームは改装はしたが、構造自体は同じだった。床、壁、柱、天井。新しい箇所と旧い箇所が混じりあっている。
エントランスから北側の通路を行った先にある大部屋。今は、子供達のための図書室に変わっていた。
今から七年前から六年前、『わたし』は、ここが病室だった時にいた。窓は閉ざされ、一日中暗い病室だった。
『わたし』はここから出た。不運にも生き残った。あの数々の恐ろしい行為≠受け、生きながらえた。行為≠ノついては、思い出したら発狂してしまうだろう。
隣のベッドにいた他の子供の死を、新しい子が隣に並ぶことで知る。彼らは新しい子が来ることを補充≠ニ言っていた。
医師や看護師は『わたし』をみると瞳を輝かせた。ショックだった。この国の人間の幻想を打ち砕くように、彼らは危険な実験に加担し肯定した。
あの灰色の――フクロウの館は鏡が無かった。
反射するガラスは目張りされ、時計や金属類は布を掛けられていた。
次々と姿を変えていく『わたし』は彼らのお気に入りで成果≠セと称賛された。大きく広い病室のベッドは次第に規模が縮小され、残ったのは五人程度だった。
みんな包帯だらけで声も嗄れていたから、誰が誰であったか判別つかないでいた。
『わたし』のベッドの隣にいた少年はウーゴと名乗った。
――『僕たち、どうなっちゃうのかな。大人たちは気づいてくれるかな』
――『あなたは、どうやってここに来たの?』
――『パパとママと一緒に……動物園に遊びに行ったらはぐれたんだ。のどが渇いたから水を飲ませて貰ったら、ここにいた』
――『即効性の麻酔薬か睡眠薬ね。それを飲まされたのよ』
――『たぶんそう』
少年は利発そうだった。どこにもその判断をする要素≠ヘないのに。包帯で視野が狭く、ろくにお互いの顔もわからないというのに。
――『あなたの名前は?』
――『ウーゴ。ウーゴ・マッテオ・ガルシア……きみは?』
――『私は……、マルカ。……ただのマルカ』
一気に老けて変わり果てたといっても信じられるほど、声は皺々よぼよぼの老婆のようだった。
――『ここを抜け出したら……警察に行くわ。助けてもらうために』
――『あぶないよ……もし、見つかったら……』
――『ううん。だって、あなたには待ってる家族がいるんでしょ? ……私は、親はいないし。待ってる人もいない。どうなったって構わない』
――『そんなことないよ。親がいなくっても、友達とか……気にかけてくれる人がいるはずだ』
マルカは孤児だ。王宮には、誰が残っているだろう。侍従や女官、使用人達の顔を順番に思い出していった。入れ替わりのことは侍従長と女官長しか知らない。
――『……戻っても、私じゃ……。……それに、こんな姿になって信じてくれるとは思えない……』
ティラナ王女の姿であったのならまだ希望があった。
戻る意味も、その価値を発揮することも出来た。だが、明らかに『わたし』の表面は別人なのだということは、鏡を見ずともわかっていた。
少し前。隣のベッドにウーゴではない子がいたとき、その子に私の瞳の色が見えるなら教えて≠ニ訊ねた。
その子供は、『わたし』の瞳を濃茶≠セと答えた。明るい金色――アンバーではなくなっていた。
ノエルはエントランスホールに戻った。
ハウンゼントとネリー・アイロスの会話は弾んでいた。
「私達は調査でここを。……大学の研究でして……」
ノエルはそっとお手洗い場所を尋ね、ネリー・アイロスの指差す方へ向かった。レストルーム付近には地下室へ下りる短い階段が続いていた。
「地下室……」
吐き気が戻って来る気配がして、レストルームに足を向けたが力が入らなかった。
屋敷を脱走し、連れ戻された『わたし』はそこに引き摺られていった。
使い物にならなくなった子供達を灰と骨にする焼却炉を通りすぎ、一番奥の部屋に、暗い部屋に閉じ込められる。
――そして、あの靴音がやってくる。コツコツと。音をたてて……。
壁に手をつきながら、ノエルは階段を下りる。脚がぐにゃりと曲がって踏み外しそうなほど正しく歩けず、扉の前に立つのでさえ時間がかかった。
扉を開けると、そこはパントリールームとランドリールームが仕切り無く存在していた。
煙突に繋がる焼却炉の管は外され、その痕跡を隠すように壁色と同じペンキに塗りつぶされている。石鹸や洗剤、清潔なタオルやシーツのにおい。そのにおいを押しのけて、死体と焼いたあとの独特なたんぱく質のにおいが蘇ってくる。
「……う……」
圧迫され倒れ込んでしまいそうになる。
ふらふらとその部屋の奥へ進み、暗い部屋につづく扉に手をかける。震えのあまり握ったドアノブががちゃがちゃと鳴った。
部屋の中は――物置部屋に変わっていった。
空気中には埃が漂い、高い位置に取り付けられた換気扇の上部が半地下といえるのか、僅かに外界の光が侵入している。
暗闇の部屋の中のことは殆ど覚えていない。空腹もなく、常に眠く、寒くて暖かい。ぼんやりとしたまま長い時間を過ごした。そして、時々あの男がやってくる。真っ黒なあの男が。嘘つき男。
彼は面白そうに喋った。
――『はやく元気をだして。余計なことをしなくていい。扉を開けるんだ』
……扉。
――『どうしたら思い出してくれるんだろう。……それとも、失敗したか、余計なことをしたか……』
彼女……?
――『……王女様ほど優秀じゃないみたいだ。それだったら最初から進言しなければよかったなあ。大失敗だ』
大失敗。
――『貴女が思い出す方法をいくつか考えたんだけど。頭の刺激になると思って』
男は『わたし』に語り聞かせているのに、時折遠くの誰かに向けて話しかけているような口ぶりになった。
――『いい復讐になりそうだ』
意味がわからない。頭がふやけているみたいに。何も考えられず、瞼が閉じていく。
次に目が覚めた時、『わたし』はノエル・アストリアスの肉体となり六年が経過していた。
――そして、あの男から、シュナイゼルの暗殺命令を授かった。
背後に誰かが近寄る気配に、『わたし』は硬直した。
記憶の中ではない。それは今起こっていることだ。心臓が強く収縮する。顔を顰め苦痛をやり過ごした。その気配は、すこしあの男に似ている。
思い切って背後を振り返る。
「あなたは……!?」
その影はノエルに怯えるように硬直した。