忘却の箱庭U






 a.t.b.二〇一二 April
 カストラリア カストラリア王宮・特別医療棟


 「……酷い有様だね」
 白いベッドの上には、引き剥がされた小さな四角い鉄柵。
 嘆息混じりに状況の感想を漏らしたのは、すべての責任を負う仮初の王。僅かに滲む汗が細い髪を額に糊付けて、なかなか物動じぬ青年にしては情動の発露に、控えている数人の従者たちは珍しいものを見たと、お互いの顔を見合わせた。
 地下深くの安置室、またの名を病室は光を遮断し刺激を軽減した暗さ、空調が適切な温度と湿度を一定に保ち、常時換気がなされている。水槽のような部屋。入口天井付近にある通気孔の小さな四角の穴の網は外され、足場に使ったベッドはその直下に移動させられている。医療器具の照明は消灯。体に繋いでいたマスクをはじめ、チューブや針は抜かれ冷たい床上に散乱。室内に設置されている監視カメラは撮影を止め、ブラックアウトしている。一見すれば、何者かの侵入で当該病人を誘拐した有様だが、すべて病人本人の行動の痕跡である。
 ほんの半日以内のことだ。その日、公務で王宮ではなく政務宮殿の方に出ていたシュナイゼルを、たった一本の電話でその日のスケジュールを書き換えてしまった。事態発覚から約一時間後のこと。かなり慌てた足取りで駆けつけたが、当人の姿は安置室内のどこにも見当たらない。
 その日まで目覚めの予兆はなく、突然の出来事。まさに青天の霹靂だ。吉報だというのに、集められたごく僅かの者たちの表情は硬い。
 侍従長のハーゲンが、正午頃その安置室の監視カメラの不調に気づき、確認のために地下へ入ったときには一足遅かった。モニタリングルームで監視カメラ映像をチェックしたハーゲンは、粛々とありのままに状況の説明を奉じた。
 「殿下。王女様は、ダクトを伝って逃げ出したようです」
 「まだ遠くへは行っていないはずだ。ダクトはどこに繋がっているんだい」
 「山側でございます」
 山側とは王宮を正面の真反対、つまり裏手側である。まず人目につくことはない。難点を挙げるとするならば、山とはほぼ崖である。
 「市街地方面でないのがせめてもの救いだ。……随分前から目覚めていたのかもしれない。抜け出せる好機を狙ってね」
 現在動ける者で捜索班を組織し捜索させるのが定石となるが、王宮内であってもトップシークレットの機密保持に努めるには大掛かりな捜索は避けたいところだ。シュナイゼルはダクトの行き止まり場所の周辺を思い返し、足取りの推測を立てた。
 「……ハーゲン。裏には……温室があったね」
 「ええ。左様でございます。……そちらにいらっしゃるという事ですか?」
 「外は肌寒い。病衣だけでは心許ないし。暖を取るならそこしかない」 
 シュナイゼルの予想通り、ティラナの姿は温室の中、プルメリアの白い花の下で猫のように身を丸めて眠っていた。
 「王女様」
 そっとハーゲンの呼びかけひとつ。寝息は一定のリズムを保っている。
 「……眠っている。ゆっくり運び出そう」
 紫外線を浴びぬ白い瞼が、ぴくりと痙攣する。むくりと起き上がり、力の入らない目で周囲を見渡すとそこにいない人に呼びかけた。
 「……おとうさま? もうおしごとはおわったの……」
 拙い舌遣い。平易な言葉。幼子のように甘くミルクくさい物言い。ハーゲンは切なげに眉を顰め、視線を下げた。
 「おくすりはのんだ?」
 なおもあどけなく柔和な声が、場の沈黙を打ち破るように響く。
 ティラナの淡い色合いの瞳は、シュナイゼルの方を向いていた。苦く笑い周囲を見回しては「父親役をご所望のようだね」と呟き、その場に片膝をついた。「殿下」と呼び止めたのは、捜索に協力していた秘書のカノンの声だ。力仕事とは無縁の生活を送る主人を案じてのことだろう。
 「いや、いいよ。私が運ぶ」
 ハーゲンから毛布を受け取ったのを広げて、ティラナの背中から包み込むように巻き付ける。
 「小柄な女性さえ持ち上げられないようでは、格好がつかないよ」
 シュナイゼルは両手を脇腹に差し込み、ゆっくりと抱き上げた。輸液ばかりを流し込んでいるせいか、脂肪の少ない体は想像よりも軽やかである。胸の中にすっぽりと収めると、彼女の体はより小さく見えるだろう。実際のところ、ティラナの肉体は実年齢よりもかなり幼く、十代の頃に留まっているし子供のままだ。生体細胞の採取年齢の時期に復元され、投与している成長促進剤で時間を掛けて年齢に合わせるように進めているが、寝たきりでは栄養面や日照時間を含めて筋力や骨、細胞の発達の成長曲線がなだらかだ。
 「……ながいきしてね……わたし……そのために、がんばるから……」
 首元に顔を埋める少女の背を撫でる。薄い肉付きの骨がちな硬さを覆い隠す毛布越しに。愛娘から父親へ。愛のことばを、彼は受け取っただろうか。
 気まずい静寂のなか、シュナイゼルは来た道を引き返して、色彩豊かな花園から陽光を遮る地下へ。神が天の国から地上を見下ろしたらば、蟻の行列が一筋、巣穴に這入るように見えるだろう。
 小さな体を機能的なベッドに降ろすと、医師らのゴム手袋に覆われた腕が上下左右から伸び、仕組まれた手順で検査が始まる。猿轡を噛ませるように酸素マスクが顔を覆い、枷をかけるように針を刺し管を繋ぐ。
 「おやすみ。お姫さま」
 シュナイゼルは唯一自由なままの左手を掬い、真新しい肌に鄭重に口づけた。

 次の目覚めはほどなくしてやってきた。
 突発的な脱走劇から一週間後。貴族らとの引見を終えた夕刻、地下の隔絶された区域内の空気は俄に落ち着きがなかった。モニタリングルームの扉が音もなくスライドし、そこに現れたシュナイゼルの姿に、三交替制で監視業に従事する職員たちの視線が一斉に向く。それに構わずスーツの上着をソファに掛け、襟のボタンを一つ外し、用意されている薄手のガウンで前身を覆う。先だって温室から連れ帰ったその日の夜、ティラナは熱を出したためである。
 「遅くなったね。中座すると待たせてしまうから迷ったんだけれど」
 「いいえ。問題ございません。殿下」
 モニターに注視していたハーゲンが答えた。シュナイゼルは彼の隣に立ち、同じようにリアルタイムで映る監視カメラの状況を眺めた。
 ベッドの縁に腰掛けて手鏡を掲げて、顔を近づけたり、遠ざけたりを繰り返している。彼女の顔の包帯は随分前に解かれているが、髪の毛は子供の頃に比べてかなり短く、さっぱりとしていて少年のように見える。
 「……あれは?」
 「どうしても鏡をと仰るので……お貸ししている状況にございます」
 万が一のことを考慮し、凶器になりうるものはその部屋の中に持ち込むことを禁止にしていたが、映像越しに見る限りでは、落ち着いた様子でいる。手鏡の中の自分の顔とにらめっこを繰り返している。
 「君のことは憶えていたかい?」
 「ええ。私の名をお呼びになられました」
 ハーゲンはかなり幼い頃からその職に就いている。
 「……ノイローゼなのかと、お尋ねになられました」と苦笑いを溢した。ティラナの記憶はかなり幼い時期に遡っているとすれば、彼の髪色や増えた皺をみればそう形容するだろう。シュナイゼルは一縷の希望をかけて、通路を挟んだ向こうにある安置室の中に入った。
 「あなただあれ? 新しい侍従? とびっきりのハンサムね。こんなところに就職するなんて大失敗! カビてしまう前に、推薦状を書いてあげるわ」
 突然の訪問者に驚くと、開口一番、ティラナは矢継ぎ早に言った。勢いに負け、毒気を抜かれたシュナイゼルは入念に用意していた最初の一言を忘れてしまった。平らな床に靴音が反響する。ベッドの脇で胸に手を当てて、深く頭を垂れるシュナイゼルを、未解明の問題に遭遇した時のように不思議な眼差しでティラナは見つめ返した。
 眩い金色のカーテンの隙間から、どんな花であってもその色を纏えば賞賛に値する色彩が覗く。緊張の高まりに際し、少女は照れ隠しに目をきょろきょろと泳がせながら「世界中の女の子がメロメロよ。独占禁止法に抵触しているから、みんなに開放されていなくてはいけないわ」と言い募った。
 そのまま膝を折り、高すぎる視点を少女に合わせてシュナイゼルは微笑みかけた。
 「あいにく、私は非売品でね。市場に流通しないんだ」
 「非売品?」
 「先約済みだよ」
 何に思い至ったのか少女は驚嘆した。
 「えっ。そうなの? ……待って! 膝をつかないで、お洋服が汚れちゃうわ。……でも、この部屋なーんにもないの。……ベッドに座って!」
 勧められるままベッドに腰掛ければ、マスクもチューブも解かれているティラナは、手鏡を残し慎重にベッドから飛び降りた。
 「貴女は座らないのかい」
 「特別なお客様なんでしょう? 遠慮なくどうぞ」
 残念ながら彼女の中に、シュナイゼルは出会ったことのない他人のようだ。ベッドフェンスに掴まってはいるが、細く生白い足はふらふらと不安定に揺れている。「膝の上があるよ。ほら」と膝の上を叩いて座るように促せば、少女は目を白黒させてたじろいだ。
 「え? で、でも……マデリーンの婚約者なんでしょう?」
 「マデリーン? 誰のことだい」
 「……? マデリーンを知らないの? ルーイー叔父様の次女よ。呆れちゃうくらい、とっても面食いなのよ?」
 ルーイー≠ニはルーフォンド・フォン・ベルケスの愛称であり、ティラナはシュナイゼルを彼の娘の婚約者だと思っているようだ。そういえば首相にその名前の子女がいたことを思い出し「ああ……」と声を漏らすと、彼女の誤解に失笑を堪えきれなかった。
 「間違っているよ。ティラナ姫。……おいで。思い出せるまでお話しをしよう」
 「思い出せるまでってことは……あなたとはどこかで会ったことがあるの? 一度見たら決して忘れられないわ。……でもそれって、私……非礼この上ない態度ってこと? ごめんなさい」
 素直に詫びるいじらしさに感動しつつ、シュナイゼルは邪悪な好奇心の芽生えから再び膝の上に誘った。「め……メロメロしちゃうから……その……」と口篭り、もじもじしながら歩を進める少女の頬はすっかり紅潮している。
 ベッドはシュナイゼルにしてみれば少し広めのソファのような大きさであったが、それでもやはり長身から伸びる脚は持て余している。太腿の上にティラナがよじ登りちょこんと座ると、彼は勝手知る動きで脇下から落下を防ぐために腕を通した。
 されるがままの状態を打ち消すように「美術館でこんなことをしたら、追い出されちゃうわね」とティラナは恥ずかしさを紛らわすように言った。
 「この国のギャラリーにあるものは、全部貴女のものだよ。ティラナ姫」
 「所有権はあるわ。でも、だからって美術品に傷をつけちゃいけないわ」
 遠回しにあなたには触れられない≠ニ宣言しているように聞こえた。
 「貴女に愛でられることに価値があるんだよ」
 「まあ。お口が上手い! あなたの正体は、百戦錬磨の策士に違いないわ」
 「本当の話さ。美しい姫君に触れられたくて、身を焦がすほど待ち侘びている者がいる」
 勘は鈍っていないようだ。軽い冗句のやり取りが次第に真剣味を帯び、シュナイゼルの熱の籠もった集中的な眼差しに、交わったはずの視線をティラナはぎこちなく、ゆっくりと逸らした。
 「……そ、そうかしら。……平々凡々よ。私の髪色なんて焦がしすぎたパンか煮詰めすぎたシロップみたいだし、瞳の色はヤニか酷い膿、薄汚れた野良犬みたいだもの」
 「よく見せてごらん」
 「えっ、あ……みないで」
 覗き込もうとするシュナイゼルにティラナは小さく拒絶の声をあげ、両手を頭を覆っては距離を取ろうと身を反らせた。
 「恥ずかしがらなくていいんだよ」
 「……ちょっぴり……」
 「うん?」
 「ちょっぴり、……禿げているかもしれないの。こんなに短いのは生まれてはじめて。きっと赤ちゃん以来ね」
 本当に恥ずかしいのか目元に朱が滲んでいる。俯瞰的な目を持つシュナイゼルからして、地肌が透けて見えるほどの毛量でもない。心許ないと、見えるはずのない頭頂部を見上げるので「あとでスカーフを見繕ってあげるよ」と羞恥を消すための方法を提案すると、やるせない気恥ずかしさから、ティラナはやんわりとはにかんだ。
 「……どこか悪いの? 病室みたいなベッドだし、髪の毛だって短いし……ここがどこだかわかる? 私……おばかさんじゃないのに。なんにも思い出せないの。本当よ?」
 「悪い魔法使いが君に眠りの呪いをかけたけれど、もう大丈夫だ。私が魔法を解いたからね」
 「……あなた私のこと知っているの? 私、自分のことなんにもわからないのに」
 頬を膨らましたむくれ顔で、ティラナは俯いた。幼い子供を相手するようにオブラートに宥めすかすようにシュナイゼルは言った。
 「知っているよ。ここは魔法が解けるまで君を守るための、私と君だけの特別な宮殿だ」
 「お父様とお母様はどこだか知ってる?」
 「知っているよ。でも今は会えないと思うよ」
 「どうして?」
 無垢な瞳が青年の瞳を捉える。
 「眠ってしまったからね」
 「ここは真夜中なの?」
 「そうかもしれないね。ずっと、真夜中だ」
 要領を得ない答えに、望んでいる答えを得られなかったティラナは唇を鶏の雛の嘴のようにツンと尖らせた。
 「……うーん……誤魔化さないで。本当のことをきいているの!」
 シュナイゼルは動じなかった。寓話の力を借りて真実を濁し、好奇心の追従を引き離そうとした。
 「悪い魔法使いがやってきて、深い眠りの魔法をかけてしまったんだ」
 「なにかの喩え? ナルコレプシーとか?」
 日中に耐え難い眠気に襲われる睡眠障害を挙げた。だが、さらりとした短い髪に触れてティラナは「抗生物質を飲まなきゃ、こんなことにならないわ」と可能性を否定した。シュナイゼルは一度、不透明なガラスの向こうに視線を向け微かに笑った。調子は戻ってきている。いずれ真実を知る時が来るだろうと予知が働いた。特殊な環境下の事情もよく知らず、ティラナはうずうずするのか身を揺らして「ねえ。……お外に出ていい?」と訊いた。
 「まだ早いんじゃないかな」
 部屋から出ることをシュナイゼルは引き留めた。先日のダクト経由の脱走の記憶はないようだ。それとも憶えていながら、情報を得るために試しに尋ねているのかもしれないと考えた。ティラナならば、火災で復旧した王宮とその間取りに違和感を覚え気づくだろう。そこに脱走する悪癖も加わると厄介だと判断したからだ。
 「それに、もう夜だ。眠りの時間だよ」
 「ほんとうに夜なの? でも私、ちっとも眠くない。目が冴えて、退屈でたまらないの。いいかげん……手の細かい皺を数えるのにも飽きたわ」
 シュナイゼルは、膝の上に乗せていたティラナを抱き上げてベッドに座らせた。それが会話の切れ目、お別れの合図だと思ったのか寂しげな声で「もう行っちゃうの?」といって少女は袖を引いた。
 「おや。長い夜にはチェスがぴったりではないかと思ったのだけれど」
 「チェスをするの?」
 「スカーフと一緒に持ってくるよ」
 ティラナは膜の張った沈みがちの瞳の色を、鮮やかに変化させ弾むように顔を頷かせた。
 目覚めて最初のチェスは、適度な脳疲労を蓄えたティラナが微睡みを迎えたことで引き分け扱いで終わった。用意させたサイドボードに置いたチェス盤の駒を正位置に戻し、丸椅子の上でシュナイゼルは、ベッドですやすやと規則正しく寝息をたてる少女を眺めた。すべての時間が巻き戻ってしまったようだ。打ち筋も、頭の中にある物事も。ティラナは幼い時代に留まっている。四年ぶりに一戦を交えて、成熟した思考を持つシュナイゼルには些か退屈する内容になったことよりも、それまで確かに存在していたはずの明晰な頭脳が無きものにされることの方が、喩えようのない悲しみを彼に味わわせた。


 「外に出ていいとドクターが言っていたよ」
 モノクロの市松模様の盤上でポーンをついと進めているとき、思い出したようにシュナイゼルは朗報をもたらした。
 「本当……?! ……いたた……っ!」
 少女は喜びを表現するのに、ベッドの上で脚をバタつかせて案の定痛がった。骨が伸びている最中で、筋肉が引き攣っているからだと主治医は説明していた。気づかれないように成長促進剤はかなり希釈したものを投与されている。眠っているうちに成人体型まで成長を完了させるつもりでいたが、意識を取り戻したいま偽装は上手くいかないだろう。
 二度目の目覚めからすでに三日が経過していた。眠っては目覚める、眠っては目覚めて、少し遊んだあとまた眠りへ。それを繰り返すたび、前に会ったときのことを忘れているのではないかと気にかけていたが、ティラナの十歳前後の状態は維持されていた。その日、彼女は深刻な顔つきで「固形物が食べたい」と願った。はじめ重篤な病に罹っているのだと恐怖していたが、体に流し込まれる輸液の成分に、特殊な薬剤を用いられていないのを知ったいま、偽ることの方が難しくなっていた。
 若草色のスカーフを頭に巻きつけて上機嫌だ。それ以上、頭の恥部を晒さなくて済む安心感を得た少女は、そういえばと丸椅子に座るシュナイゼルに尋ねた。
 「そういえば、あなたのお名前は? まだ聞いていなかったはずよ」
 それはかなり、いまさらな質問だ。あえて指摘することはせずに、シュナイゼルは次の一手の推測を立てながら「どんな名前だと思う?」と、逆に問いかけた。ティラナは思考に割り込んだ質問に眉の形をくねらせた。
 「え? えーと……ゴージャスなお名前な気がするわ。……ジュリアンとか、ヴァレンティンとか……」
 実に上流階級らしい男子の名前だ。
 「……正解は?」
 「シュナイゼル」
 「シュナイゼル……? 珍しいお名前。ドイツ系ね?」
 肯定するようにシュナイゼルはくすりと笑った。ティラナは駒を進め、ちらっとサイドボードの足元に置かれた封じられた箱を見下ろした。
 「その箱は?」
 「プレゼントだよ。あとにしようと思っていたけれど。気になるなら開けていいよ」
 早速と言わんばかりにティラナはベッドからぴょんと飛び降りて、箱の蓋に手をかけた。掌で両サイドを挟み持ち上げて、中身を確認すると、歓喜の悲鳴をあげた。
 「わあ!」
 箱の中には――ノート、万年筆、分子構造模型。ヘモグロビン構造模型。その他、雑多にハードカバーのブック、図鑑、蝶の標本、事典、論文が収められたファイルがぎっしりと詰まっている。チェスの対決もそこそこに、ティラナの関心はあっという間にプレゼントの方へ乗り移ってしまった。
 ぺたんとツルツルの床に尻をつけて、次々に宝物を並べていく。その手捌きは訓練された職人技で淀みなく、混沌とは無縁の計算尽くされた秩序が古びた煤と埃まみれの年月を振り落とし、この地下深くで主人とともに眠りから解き放たれようとしていた。
 そう。それらの道具らはすべてあの王宮火災の生き残りだ。職員たちが火の手の迫るなか、お道具箱≠ニ名付けられた王女の部屋からかき集めた品々である。ティラナはヘモグロビン構造模型を手にすると興奮気味に説明をしはじめた。
 「カールの効いたパスタか、巻きすぎたリボンみたいな形をしているでしょ? これは成人のもので、ヘモグロビンはヘテロ四量体構造をしているの。α鎖とβ鎖それぞれ二本あって各鎖にはヘム鉄が一つ。酸素を結合したり放出したりする。この四つのサブユニットが協同し連動するから環境変化に脆弱で、解離が起きると四量体がそれぞれ構成されている鎖がバラけちゃうの。環境変化っていうのは、輸血とかで血液を外に出した時のことで……」
 ブレスの位置を忘れるほどのめり込んでいく少女を見下ろして、シュナイゼルはただその様子を懐かしんでいた。
 「こっちの模型は、人工ヘモグロビンの模型で、そっちの成人のものとなにが違うかっていうと……ヘム鉄の入っているポッケが周辺が窪んでるでしょう? 酸化を防ぐために保護ポケットを深くして遮断してあるの。その次に、表面をポリエチレングリコール鎖で覆ってあって……なぜそうするかっていうと、免疫が働いて攻撃を加えるのを防御するためなの。だから見た目がこんなにトゲトゲしてるの……」
 そこで遅まきながら、ティラナはシュナイゼルと目が合った。静止画のような微笑を浮かべる青年に、きまりの悪さを覚え「……喋りすぎちゃってる?」と少女は小首を傾げた。
 「面白かったよ」
 お世辞ではない賞賛でも、ティラナの声はどんどんと花が萎んでいくように小さくなっていく。この部屋は学会でも、講演会の演台もない。好き勝手に置いてけぼりに喋ったとて、文句を言う者は皆無だというのに。彼女は諦めたりはしなかった。
 「……従来の四量体と形が違うこととか、制御部位の内在化の克服をどうやってしたかの説明、……ききたい?」
 「よければ」
 シュナイゼルは十全に内容を把握している。彼女の研究のことはすべて吸収するに努めているし、内容と凄まじい功績は教科書に載っている。
 「従来の形と違うから……その……酷いことを言われたわ。四量体の形を捨てる意味とか……人類の進化の冒涜だって」
 従来の技術で十分四量体の解離問題を解決できるのにもかかわらず、抜本的な再設計には学会は荒れ非難轟々だったという。
 「あとはデータ不足で……免疫原性の検証が不十分だったの。協同効果についても。正当な批判なのはわかってるわ。検証には時間が必要だから」
 ティラナは言わないが、当初学会では指導教官が彼女の名を用いて内容を発表したのではないかと疑惑をかけられていた。実際のところ、その件については王女が長期的な療養生活に入り、関わる研究のすべてにおいて滞っている実態から証明されている。十年という長い期間。他の研究機関が周辺技術を発展させ、実用化まで進んだ。だが、応用で用いるヴァラヌマブなどの免疫抑制薬のジェネリックはおろか、第二世代の開発に至っていない。
 「あぁ……もうイヤ! 変なことまでくっついて思い出しちゃった……」
 意気揚々と情熱的に自説を語っていたティラナが、突然声を上げ「うぅ……」と唸った。
 「なにを思い出したのかな」
 「……研究よりも大切なことがあるって……お父さまが言ってたの。婚約者を決めなきゃいけないって。みんなその気になっちゃって。……まだ早いと思うの」
 「それはまた……どうしてだい?」
 「だって私、まだ十歳よ? と〜ってもお子様なの。現代的なお子様! 旧石器時代じゃないんだから、人間の人生サイクルは長期化しているんだから生き急ぎすぎてるってわけ!」
 シュナイゼルはその発言を録音しておく機会を逃したのに気づいて、僅かばかりの後悔に至った。

 その後、モニタリングルームにて。やれやれといった様子でガウンを脱ぐシュナイゼルの投げやりな物言いにハーゲンは失笑した。
 「研究分野に関する記憶に問題はなさそうだよ。十歳当時のままだ。私のことを知らない≠謔、だし」
 「さようで。致し方ありませんな」
 「一安心とはいかないものだね」
 記憶の回復を促進させることは、悲劇へのギアを上げることと同じだ。これを止める手段も望む結果も、ティラナの束の間の盲目の幸福を壊すことになる。残酷な時限爆弾の秒数を慎重に数え祈ることしかできない。ハーゲンはシュナイゼルの裁量に託し見守ってきた。
 「……殿下。国王陛下夫妻のお話は……」
 「じき、悟られるだろう。我々には覚悟は必要だ。……裁判に進むには、彼女の証言も取りたいところだけど。……上手くいくかな」
 「ええ」
 研究面での想定しうる問題も残るが、戴冠式に進むには困難が待ち受けている。
 シュナイゼルはソファに深く座り、長い脚を組んだ。
 「被害者の証明。これがなくては、今後障りになる。……無論隠すことも考えたよ」
 ハーゲンの物言いたげな視線に、シュナイゼルは答えた。
 「揉み消すことそれ自体は可能だ。しかしね、彼が埋めた地雷がどこに埋もれているのか測りようがない。数百人以上の逮捕者。主要関係者だけで述べ二十人を超える。カストラリアだけでなく、ブリタニアにも拠点がある国家間犯罪は前代未聞。看過することは、腐食を見逃すことと同じだ。先の大規模な逮捕者を出した血の紋章事件を鑑みればマシに見えるだろう」
 クーデターの一件のみで裁判は可能だ。アルディック側の残党がどの程度残存し、復讐にティラナの功績を逆手にカードを切ることは想定内である。隠す≠アとによって彼女が同罪と扱われないようにするには、ティラナは徹底して被害者であるという周知が欠かせない。
 「国家存続がかかっているといってもいい。――ティラナに研究を継続する意志があり、またそれを尊重するなら、ね」
 青年は複数の監視映像に映るひとりの女性を眺めた。見た目も中身も、十代に返ってしまったひとはベッドのうえでシュナイゼルが置いていった馴染み深い品々に囲まれている。本当の意味で、子供の頃をそうして過ごしていたように事典を読み耽っている。
 穏やかな声が目標を告げる。
 「主目的として、研究の剽窃行為を立証する。Dr.シュミーダーらの証言では、別荘の金庫に保管されているのを確認したと言っていたね」
 「はい。数日前に捜査官が現地捜査に……」
 Dr.シュミーダーともにDr.アングレームはサロニア公の屋敷に呼び出された後、脅迫を受け人体実験の関与することとなった。彼らは目隠しをされ、最初にある場所に移された。半地下の食料庫の暗闇のなか、窓の柵に積もる土や石、枯れ葉、日中の気温、日照時間、日の出日の入り時刻から気候と地質を割り出し、中部の山間にある別荘ではないかと推測した。ふたりはその狭い牢獄の中で隙間から入る陽光を頼りにコピーされた王女の論文のほか、過去数例の実験ログを熟読後、与えられた医療関係者を指揮し、多くの人体交換工作に携わった。
 今後の指針を共有していたところに、モニタリングルームの扉がシュンと音をたててスライドした。カノン・マルディーニ伯の登場である。
 「殿下。失礼いたします」
 「成果は?」
 シュナイゼルは淡々と結果を求めた。もはや数年前にいた、何事にも覚束ない中性的な青年はそこにいない。彼はひとりの主人に仕えて必要な仕事を覚えきっていた。
 「金庫に論文を含むファイルがありました。……筆跡鑑定にかけているところですが、ほぼ黒でしょう」
 「ふむ。……彼女が目覚めたいま、裁判を進めてもいいだろう。今夏、ヴァルグレイで会議を考えているのだが、準備を任せてもかまわないかな」
 シュナイゼルはハーゲンに向けて命じた。「勿論でございます」粛々と承った。
 「警察も軍も頼りにならないなら、見極める必要がある。……小さな警察を組成し、自浄作用を期待したい」
 サロニア公を押さえている現在、目立った事件は起きていない。すべては小康状態。停滞期。そして回復期である。


 「眠れないのかい?」
 気配を鎮めて現れた美しい青年の訪問にティラナは慣れ始めていた。いつでもそこは夜のように暗く、明るく、くぐもった静寂が同居し時間にホルマリン漬けされている感覚に支配されている。
 「……どうしてここに誰も来てくれないの? 眠っている間に会いにいらっしゃってるの? お父さまとお母さまに会いたいわ」
 この部屋に入る者は数少なく、多くは見覚えのない看護師や侍女。そして、シュナイゼルだけだ。馴染みの侍従は部屋の外で見守っているのか、話し相手になってくれそうにない。ティラナは密かな線引きと、規則に気づき始めていた。
 両親に会いたいという願いにたいしてシュナイゼルは「眠っているんだ」と情の乗らない声で言った。
 「会わせて。……それとも……ふたりとも、ティラナのこと嫌いになったの……?」
 「嫌いじゃないさ。お二人は貴女を愛しているよ」
 「そんなのわからないわ。本当の気持ちなんて誰にもわかりっこないもの」
 ベッドのうえの寂しさを紛らわせたのはプレゼントの品々。暇という長大な時間を埋め合わせ、友達になってくれた。しかし、どれだけ退屈を凌ぐものがあっても心の底から望むものが手に入らなければ、人は渇望を、より強い渇きにおぼれていく。
 ティラナには、このシュナイゼルが何かを知っているだろうとわかっていた。
 「お父さまに会いたいの! 外の世界はどうなってるの? 私ここでずっと眠っていたの?」
 賢い頭脳が置かれた状況の理解を助け、不安を露わにシュナイゼルを見上げる。彼には情動というものがない。揺さぶろうと仕掛けても、地面から生えた岩山のようにびくともしないでいる。ティラナの心を支配する不安は、強い恐怖の怪物を生み出し始めていた。
 「お父さまがいなきゃ……だめなのに……っ」
 いいようのない、将来の見通しの効かない恐怖。存在の埋没。若い時間の喪失。それに連なる焦燥感。もっとも恐れていたこと。あくまでも想像であってほしいのに、予感は想像を肯定する。そんな不安定なティラナの頬のうえを、ぽろぽろと涙の粒が転がり落ちていった。
 「目が腫れてしまうよ」
 シュナイゼルは身を屈め、ティラナを覗き込んだ。そうすることが当たり前だというようにハンカチで目元を拭った。そして青年は扉の方に顔を向けた。そこは無人であるはずなのに、誰かにシグナルを送り、直後、女性か男性か見分けのつかない背格好の人がドアを開けて現れた。
 「はい。なんでしょう」
 「すまないね。アイスバッグを作って持ってきてくれるかい」
 「かしこまりました」
 一礼しその人が消えた。ティラナは扉の向こうに見知らぬ人が他にも大勢いて、自分は監視されていることを確信した。監視など今に始まったことではない。衆人環視の檻の生活は、生まれてから死ぬまで続く。あれをしてください、これをしてください、それはしてはなりません。毎日、毎日、毎日――。
 「……あの人だあれ?」
 「秘書だよ」
 「……誰の?」
 「私のだよ」
 じっと睨む。嘘かどうか、その表面にコーティングされている美しい塗装の下の真意を探る。
 「……隠したいことが、たっぷりあるのね。……私が知っちゃいけないことが……」
 目覚めてからというもの。妙に親しくしてくれるこの若く持て余す美貌の青年が何者なのか。予感は正解を連れてくるが、途中式を考えるのは自分の仕事だ。
 「教えてくれなきゃ……あなたのこと、嫌いになっちゃうわ」
 「おや。それは困ったね。……でも嬉しいよ。私のことが好きなんだね」
 すこし前のティラナだったら大袈裟に照れて喜びを隠さなかった。リップサービスを真に受けて。心にもない賞賛に舞い上がって。
 「嫌いになる人なんていないと思うわ。……だけど、いじわるなところを知ったら。がっかりするかもしれないわ」
 「それほど短所かな?」
 人の心を擽る絶妙な顔の傾け方を心得ている彼は、そうして批難を和らげようとした。
 「背がうんと高くって、お顔が素敵だからって、なんでも許されると思ってはだめよ」
 「これはこれは。手厳しいね」
 にこやかに笑って頬に唇を寄せた。咎める隙間などなかった。
 秘書だという青年が持ってきたアイスバッグを目元にあてて、ティラナはベッドにごろんと寝転がった。冷却時間だと、身を引いたシュナイゼルの肩越しにティラナの声が掛かり、彼は足を止めた。
 「……いかないで」
 声は潤み熱を持っている。ティラナの小さな手は、シュナイゼルのガウンの裾を引いていた。
 「がっかりして、嫌いになったのではなかったかな」
 「違うわ。……駆け引きをしようと思っただけなの。……ごめんなさい」
 彼は目を一瞬丸めると、破顔一笑した。
 「ふふ。わかっているよ」
 「……眠るまでそばにいてくれる?」
 そう言えば、シュナイゼルはベッドの縁に座った。
 何かが、覆っていた殻がからりと音をたてて剥がれ落ちた気がした。肌が粟立つ感覚が足元から太腿、肘の先から二の腕へ。アイスバッグの冷たさがより鋭い痛みに生まれ変わる。ティラナはその零れ落ちた断片を読み取ることに恐怖した。知りたくない現実。一度口にしてしまえば、頭ごと暴発してしまいそうな気配に。
 「……思い出したことがあるの。……婚約者を決めなきゃいけないっていう話」
 「うん」
 彼はそこにいた。そこにいて、話に静かに耳を傾けていた。教会の一部になっている天使のレリーフ。慈愛をくべる何かをみているのに、何もみていなさそうな、想像力を此方側に委ねる眼差し。
 「……このまま誰とも決まらなかったら、一生涯ひとりぼっちでもいいって思ってたの。……シンポジウムの会場で……綺麗な男の子に、ほっぺにチューをされたんだけれど」
 「ああ」
 過去の、記憶のなかにだけ存在する残像が目の前の青年に被さる。弱視のように何度も二重にぼやけて綺麗に定まらない。
 「その子にね、とってもそっくりだと思って。……あなたが」
 表情は一定して、凍りついているのか、時間が静止したのか。それさえ夢の中の光景であるかのように、ティラナの意識は不確かだ。過去の出来事と今を繋ぐこと。それがどうして困難だと感じるのか。
 もしも。それを認めてしまったら、長い年月の空白を認めることが絶望に変わるはずだと、冷ややかに自分自身を分析するもうひとりの自分がいた。
 ティラナの唇は、声は、震えていた。向き合おうとして、青年の顔を直視する。
 「兄弟がいるのかと思ったの。だけど……あのシンポジウムの会場はブリタニアにあって、私の発表を観ていて、恥ずかしい……大失敗や、名前まで知っている人が、初対面でいきなりほっぺにチューはプロトコル違反だと思わない?」
 「……くっ……、ふふふ。そうだね。……かなり無礼講だと思うよ」
 シュナイゼルは擽ったそうに喉を鳴らして笑い、同じ幻想を共有し、肯定した。
 「そうでしょう? ……その男の子の身分が同じくらいじゃなきゃ釣り合わないわ。……そうするとね、その子は皇子様ってことになるわ。だって、大人ばかりのところに小さな子供が紛れているのよ。退屈して、私より泣き喚いてもいい年頃なのに」
 「そうだね。……それで、私が誰だかわかった?」
 彼の問いには意地の悪さが滲んでいる。答えは知っていた。彼は一度も嘘はついていなかった。少なくともこの部屋の中にいる間は。
 「一番信じたくないわ」
 「大丈夫だよ」
 信じ難いと眉を顰め、琥珀色は冷たい寒色のヘッドボードから届く光に染まる。
 「男の子は……綺麗な英語を話したけれど、ドイツ語の子音の特徴があって……あなたの言葉に似ていた。ブリタニア帝国には……男子の兄弟がもうすぐ二桁になる……。第一皇子様は皇帝陛下によく似ていらっしゃる話を聞いたから。お見合いの候補リストの説明を受けた時に。……陛下は落ち着いたブロンドだから、眩しいブロンドは条件から外れるわ」
 悲しい瞬間だ。それまで子供だと信じていたのに、頭脳は封印を解かれたように流暢に点と点を繋ぎ、一時的なショックから本当のあるべき姿へ変わり遂げようとする。
 「どう? 第二皇子様」
 「……名推理だよ。ティラナ」
 苦く笑い、待ち構えていたように賞賛を述べる。そうして、彼がこの瞬間を求めていたのだと、ティラナの明晰な頭脳は真意に到達する。
 「それじゃあ、あなたがここにいるのは、私の婚約者だから?」
 シュナイゼルは返事の代わりに、軽く眉を持ち上げた。嫌な予感が胸の中に霜を降ろしていた。
 「……私、何年眠っていたの? ……お父さまとお母さまに会わせてくれないのは……、会えないから?」
 ティラナは目を泳がせてヒントを探った。この部屋は記憶にない場所だ。幼い頃に訪れたことはない。窓のない部屋。視神経と網膜への刺激を軽減するために薄暗く、温度と湿度は一定に保たれていて、外界の環境音さえもここに届かない。外から隔絶している。環境も、情報も、会う人も絞られている。この中にいる人間の生存を優先するためのシェルター。
 「……お父さまも、お母さまも……亡くなったの?」
 くしゃりと歪んだ顔を、アイスバッグに埋めた。彼の顔を見る勇気は持ち合わせていない。
 「どうして……?」
 止まり始めていた涙が、ボイラーを稼働させて水蒸気を発生させていた。
 「わたしが、……王様になるの? 国は……大丈夫なの……? 戦争が起きた?」
 最悪のなかを這いずり回っている。頭は混乱に陥っている。銅鑼が耳元で打ち鳴らされ、身体全身がぐにゃぐにゃと震えている。
 「……研究は、おわり……?」
 目の前が真っ暗だ。宇宙空間に放り出されたみたいに、答えは光を吸収した闇の中にある。過去からのシグナルを受け取るために、星を探す必要があるのに、ティラナはもがいて浮かんでいるだけだ。



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午前四時の異邦人
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