▼ Strange sense.

偶然保健室で休憩していると、足首を怪我をしたらしい彼女がやって来て、手当に慣れている俺が手当をしてあげた。
綺麗に手入れされた脚が綺麗、だなんて変態じみたことを考えながらも、急ぎ目で手当てを済ませる。

お礼を言うにしろいつもの無表情なんだろう、と思っていたときのことだった。



「ありがとう、降谷くん。」



そう言って彼女はぎこちなく微笑んだ。
たぶん、普段からあまり笑わないからいざ笑顔にしようとしても、ぎこちなくなってしまうんだろう。

でも、そんな彼女がこうやって自分に対して笑いかけてくれている、と思うと不思議な感覚がする。
どういうことで笑ったり表情を変えるんだろう、と思ってはいたけれど、まさかこうも簡単にその変化が見られるとは。

どこか近寄り難い空気を出すわりに、きちんと会話を交えてみると彼女は案外話しやすい子なんだと解る。
俺が、「如月さんも笑うんだ」と言えば「私だって人間なんだもの」と冗談めいた口調で言ってくるものだから、思わず小さく笑ってしまった。

思わず俺が笑うと、彼女は驚いたような表情になる。
…なんだ、彼女は俺が思っていたよりもコロコロと表情が変わるんじゃないか。

そのあとは無表情の、いつもの彼女の表情で保健室から出て行ったけど、俺はなんとなく満足していた。
常日頃から自信家だと言われているが、これに関しては自信しか出て来ない。
きっと、俺なら彼女のいろんな表情を見ることが出来る、と。







「おはよう、如月さん。」

「…おはよう、降谷くん。」

「え?………えぇ!?」



いつものように友人と登校していると、靴箱で偶然にも彼女と出会った。
「おはよう」と声を掛けると、すこし間が空いたものの無表情ながらにも彼女も「おはよう」と返してくれる。
その景色を見た友人は戸惑っていたが、挨拶を返してくれるだけでも充分だ。

靴箱で別れたあと、「おまえ如月さんとどんな関係なんだよ!」と友人にまくし立てられたが、「別に普通のクラスメイトだけど」と言うと友人は黙り込む。
横からずっと「イケメンって本当ズリィよなぁ…」なんて聞こえてくるが、それは聞こえないフリ。

俺の脳内はずっと、どうしたら彼女ともっと距離を縮められるか、ということしか考えられていない。
彼女にもっと近付いて、もっといろんな彼女の表情を見てみたいと思う。
前まで思っていた好奇心とはすこし違うこの気持ちがどういう感情なのかは今はまだよく解らないが、そこは深く考えなくても大丈夫だろう。

今度彼女を屋上にでも誘ってみるか、なんて思いながらも、俺はいつもの見慣れた教室に入って行った。


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