「バレーボールの経験は?」
「やったことないです!」
自信を持って答える目の前の長身の1年生男子は、嬉しそうにバレー部の見学をしている。苗字なんだっけ、ハイバと言っていたっけ?ハイバってどこの国の苗字なんだろう。
「どこの国の出身?」
「え?日本ですけど」
キョトンとした顔で言うので、こちらもつられてキョトンとしてしまった。いや、日本語達者だから分かるけど、そういう意味で聞いたんじゃない。
「そうじゃなくて、アメリカ人?」
「あ、そういう…日本とロシアのハーフです」
「ロシアってハイバって苗字多いの?」
「え?…ハイバは日本の苗字ですよ?」
「ん?」
こういう字です、とハイバくんは彼の掌の上で漢字を書いて教えてくれた。
「へぇ」
ということは父親が日本人で母親がロシア人ということだろうか。しかし、この灰羽くんをどこかで見たことがあるような。どこ中?と聞けば私と同じで、見たことあると思ったのは中学の時に見たんだろうねと言えば「あっ!」といきなり大きな声を出すものだから驚いた。
「な、何?」
「苗字さんて、苗字名前さんじゃないですか!」
「え?」
いや、私たち知り合いじゃないでしょと言おうとしたら灰羽くんが興奮したのか先程より更に大きな声で私も忘れていたことを言い放った。
「木村先輩の彼女!」
「………」
あぁ、懐かしい。中学の時に付き合っていた木村くんか、と思い出したら遠くにいた眉間にシワを寄せている黒尾と目が合って、煩いと目で訴えているのだろうと灰羽くんに少し声のトーン下げてと注意した。それから30分ほどして今日は見学だけなので1年生たちを帰した。今日の灰羽くんとのやり取りで彼と話すと疲れるということだけは分かった。
片付けをしていると、黒尾がやってきてリエーフと知り合いなのかと聞いてきた。
「りえーふ…あぁ、灰羽くんね。中学が一緒だったみたい」
「木村って誰?」
「………」
言葉に詰まった。さっきのが聞こえていたのか。
「…中学の時の彼氏」
「彼氏いたんだ?」
「いたら悪いんですか?」
「いーえ………つぅか、いつ別れたの?」
私のこういう話興味ないだろうに、なぜそんなに突っ込んで聞いてくるのだろう。黒尾の表情からは読み取れなくて、きっとただの気まぐれで聞いているんだろうと淡い期待を押し込めた。
「高校入る前、だと思う」
「思うって何?」
「さぁ?自然消滅?」
中学生だったし、好き同士というかグループ交際みたいなノリで付き合ったようなものだ。お互い気まずくなって最後に連絡を取ったのが高校に入る前だから、たぶんいつ別れたかと聞かれればそこだと思う。
「ていうか、中学の時なら黒尾も彼女いたでしょ?」
「え?」
「何か、前に皆でそんな話してたじゃん。何だっけ、バレーばっかでつまんないって言われて振られたんだっけ?」
「忘れてた傷をえぐらないで下さーい。てか、名前ちゃんはオレのそういう話気になるの?」
ニヤニヤして私をからかおうとする黒尾の言葉と名前を呼ばれたことに心が乱れたのは仕方ない。元カノと別れて傷付いたなんて情報いらなかった。私は元カレとは友達の延長で付き合ってたから傷という傷なんて付いていない。
「そうだね」
泣きそうになるのを我慢して、やっとそう返したが、黒尾は大事なことを忘れている。私は黒尾に振られたのにそんな残酷なことを聞いてくるなんて酷いんじゃないだろうか。悲しいという気持ちが表情に出ていないか心配する余裕なんてないぐらい、私はまだ黒尾を好きでいるし、好かれていなくても傷付いても黒尾の隣にいたいと思っている私はバカだ。
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2016.10.30
どうしようもなくまだ好き
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