※番外編(交流会最終日裏話)
※伏黒が夢主のこと好きそうな描写多めなので注意。苦手な方はback/skip



秋も深まる十月の某日。高専の寮にある虎杖の部屋にて、伏黒は勉強机の前に据えられた椅子に座り、その足元に正座する虎杖を複雑そうな表情で見下ろしていた。虎杖に「頼む!交流会での事件についての相談に乗ってくれ!」と勢いよく誘われて来てみたのだが、部屋に入った途端仰々しく椅子に案内された上に虎杖のこの畏まった態度だ。如何にも相談の内容が重そうで気が滅入る。

交流会で起きた事件といえば、"呪詛師と特級呪霊による高専襲撃事件"と"京都校による虎杖襲撃事件"だ。本人は気にしていなさそうに見えても、やはり思うところはあるのだろう。それだけに、虎杖の口からどんな重い言葉がでてくるのだろう──と伏黒は深刻に考える。

「わざわざ時間を取らせてなんですが……相談というか、なんというか……」

もごもごと口の中で話し始める虎杖。視線は宙を彷徨い、肩は縮って、声は細く消えて行く。余程の話なのだろうか。伏黒は虎杖には深く物事を考え過ぎて潰れて欲しくない、という気持ちがある為に「そこのベッドに座って楽に話せよ」と気を遣った。

「いや、ここでいい……はぁ。やっぱここはハッキリ言うよ!じゃないと逆にアウトだもんな!うしっ!──伏黒って女子のケツ触ったことある……?」

「は?」

虎杖があまりにも重そうな話をする様子を見せていた為に、その切り出しの軽さとのギャップに頭が追いつかず、伏黒は聞き返す。

「いや、だから女子のケツ触ったことがあるのかって……」

「ねーよ。痴漢の話か?」

「痴漢!?あ、確かにあれはある意味痴漢だったのかも……どうしよう。俺、ミョウジさんに訴えられたら勝てないよ!」

「何故ミョウジの話がここででるんだ?」

かつての想い出の少女の名を出され、伏黒は動揺する。どうしてこの話題からナマエがでるのか。少ない情報から推測すると、最悪な答えが導きだされる。

「──まさか触ったのか……?」

「……はい」

欲しくない肯定。あっさりと、しかし、重くゆっくりと首を縦に振る虎杖から罪悪感のようなものが伝わってくる。恐らく、事故で触ったのだろう。交流会で起きた事故らしき出来事といえば──

「あの時か……」

交流会最終日。野球の試合後、虎杖が帰り際のナマエを肩に担いで猛スピードで走り去っていくのを伏黒は思い出した。

時系列順に伏黒の記憶を整理すると、確か釘崎が、自分がナマエにあげる化粧品を探している間にナマエを早く連れてこいと虎杖と伏黒に命令。伏黒はスマホでナマエに電話をしようとして連絡先すら知らない事に気がついて、虎杖の跡を追いかけようとした頃には、既に虎杖が何かを肩に担いで凄まじい速さで宿舎に戻ってくるところであった。
伏黒が、虎杖の肩に担いでいるものがナマエであると気がついたのは、虎杖が横を通り過ぎてからで、それから幾らか遅れて憲紀が赤血操術を使って虎杖を追いかけて走ってくるのを見た時は頭を抱えたものだった。

どうみても、憲紀は拐われた許嫁を取り戻しに追ってきた様子であった。その時の伏黒は虎杖の代わりに憲紀に謝罪したものの、憲紀は明らかに怒っていたことまで脳内に蘇る──



 ◇



時は遡り、交流会の二種目目である野球の試合終了後のこと。宿舎の玄関にて、伏黒は虎杖に拐われたナマエを追いかけてきた憲紀を前にして、片手で頭を抱えていた。

「虎杖はどこへ行った?」

憲紀の語気は些か荒く、質問の体裁はとっているが、そこには非難が込められているのがわかる。

「釘崎の部屋です」

「何か知っているのか?」

「釘崎がミョウジに化粧品をあげたいからと俺たちにミョウジを呼んでくるように言ってきたんです。恐らくその頼み方が恐喝じみてて、焦った虎杖が速さを優先してミョウジを担いだのだろうと思います。うちの馬鹿がすみません」

客観視点における推測ではあるが、虎杖のことを思えばあり得なくはないと思い、伏黒は憲紀へ説明し、最後に謝罪を付け加えた。

説明を聞いていた憲紀はもうナマエを追う必要はないと理解したのか、術式発動時に伴う目元の紋様が引いていく。憲紀の顔の左半分は包帯に覆われていて痛々しい様子であるが、先程まで野球をしていたことも考慮すると術式を発動しても問題ない程に体調は回復しているようだ。ナマエを追いかけるのに必死で無理をした可能性も考えられるが。

「ならば目的自体に問題はないが、手段が好ましくない。ナマエが悲鳴をあげるのを聞いた。ナマエは大人っぽく見えるがまだ中学を卒業したばかりで幼いところがある。あまり怖がらせないで欲しいと虎杖に伝えておいてくれ」

伏黒は自分たちもナマエと同級生だとは思ったが、憲紀の言葉には確かに同意できるところがある為に素直に頷いた。
昨日の朝、ナマエは憲紀の怪我を心配して泣いていた。いや、正確には泣き止んでいた状態の彼女に伏黒は憲紀のことを質問して再び泣かせたのだ。

あの時伏黒は、ナマエが憲紀の話題を嫌がっていたのを知っていて、それでも憲紀の怪我の状態、憲紀と何があって泣いていたのかが気になるあまりに、抑えられずに憲紀について質問してしまったのだった。釘崎とナマエの問答から結局、憲紀の怪我が心配なだけで泣いていたとわかった時には、術師であるはずの彼女の心の弱さが気がかりになった。

「……確かにそうですね。俺もミョウジは脆いところがあると思います。虎杖に伝えておきます」

ナマエを泣かせてしまったことの罪悪感を前日から少し引きずっていた伏黒は眉を曇らせる。ただナマエが泣き出すトリガーを引いたのは伏黒であるが、やはりその対象はあくまで憲紀の怪我のこと。心の弱いナマエの為にも憲紀には自身の怪我には気を遣い、彼女の心のケアもして欲しい、という意味合いも含めて、『脆い』と表現したのであるが──

「ナマエと幼少の頃出会っているとは聞いたが……そのナマエが脆いという印象はどこから得た?」

憲紀は伏黒の表現に引っかかったらしく、疑うような眼差しを向ける。

これまで虎杖に対する憲紀の負の感情の矛先が突然自分に向けられたことに伏黒は面食らう。その理由がわからなくもないところが複雑である。伏黒は、肌感ではあるが、恐らく憲紀から嫉妬のような感情を向けられていることを察した。

「昨日の朝泣いていたのでそんな印象があるだけです」

「伏黒君の前で泣いていたのか……?目が赤かっただけではなく……?」

「俺が余計なことを聞いた所為というか……加茂さんの怪我のことを心配していたみたいです」

伏黒は自分が泣かせた意識はあるのだが、それを正直に言えば、話がややこしくなるのはわかっていた為に嘘にならない程度に表現を濁す。
それでも表現が正直すぎたのか、憲紀からの疑いは益々深まるばかりのようで、「……弱っているナマエに何かしたのか……?」と昨日の釘崎と同じく、名誉に関わるレベルのことまで聞かれてしまった。

ここまで来ると、伏黒は憲紀に自身の潔白を説明しなくては、という焦りが生まれる。自分にはナマエに対する下心は一切ないと言い切れるはずであるし、それを疑われるのは心外であり、居心地も悪い。もし釘崎にこの話が耳に入ったら、またいわれのないことで揶揄われるのだろう。それだけは絶対に避けたい。

「いや、何もしていませんよ?強いて言うなら慰めました。釘崎と俺でですけど」

「ナマエからは釘崎から良いアドバイスを貰ったと聞いたのみだ。どうやって慰めた?」

「俺は玉犬を顕現させただけなので大したことはしていないです」

「ナマエは動物が人並みに好きらしいのだが効果はあったのか?」

「釘崎の言葉が一番効いていたとは思います」

「そうか……」

どうやら、納得してくれたらしく、憲紀の表情から疑いの色が消える。今まで険しかった憲紀の表情が和らいだことで、伏黒は安堵した。これで頭の痛くなるようなストレスから事前に身を守ることができた。

「そうだ。伏黒君と釘崎が淹れたというコーヒーを飲ませてもらったよ。ナマエと仲良くしてくれてありがとう。友達が増えたと喜んでいたよ」

漸く憲紀から落ち着いた世間話を振られたわけであるが、伏黒は言葉の幾つかに引っかかりを感じる。それがなんであるかはあえて考えず、今はこの緊張から解放された場を持たせることに意識を向ける。

「殆どミョウジに教えてもらった通りにやっただけですが……ミョウジに随分と慕われているようですね」

「ありがたいことにね。ナマエが私を慕うのと同じように周りにも慕われているようだが」

「それは善いことだと思います」

憲紀の含みのある言葉が何を意図しているかは、今となっては簡単にわかる。わかっていながら伏黒はそれを肯定した。

ちょうどその時、ナマエが釘崎の部屋から出てくると、憲紀が伏黒の横を通り過ぎてナマエへ距離を詰め、顔を近づけた。

その自然な距離の近さに、伏黒は驚くのと同時に胸中に複雑な感情が芽生える。それは昨日ナマエが憲紀の為に涙したこと、野球の試合中憲紀のことばかり見ていた時に感じたものと同じものである。

それでも伏黒はその感情には目を瞑り、自然にナマエに話しかけて虎杖のことを謝罪し、憲紀とナマエが手を繋いで帰っていく後ろ姿を見送りもした。

遠くで握り合う手が自然と指を絡め合う握り方にかわると、少し胃の辺りが重くなるのを感じたが、それについても気がつかない振りをした。

「残念だったわね」

突然現れた釘崎に、いつかのように同情を含んだような言葉を投げかけられると共に左肩を叩かれる。

「だから何がだよ」

「……あの人にまた殺されそうにならなくてよかった」

今度は同じく突然現れた虎杖に右肩を叩かれる。

「オマエはもっと想像力を働かせろよ。普通女子を担ぐか?加茂さん怒ってたぞ。ミョウジを怖がらせるなだと」

「マジ?ちょっと借りただけで怒ってんならヤバそう……」

と、虎杖は何故か両手を見つめて指の関節を曲げ伸ばしする。

「にしても、あれがあのナマエを夢中にさせる彼氏かー……虎杖殺そうとした悪い印象しかないけど私たちには気がつかない魅力があるのよね、きっと」

さらりと失礼なことを言う釘崎に伏黒は苛立ちを覚える。特別親交の深くない他人への否定的評価は構う事ではないが、釘崎がナマエの言っていたことを聞き漏らしている点は指摘せずにはいられない。

「勝手に俺たちをカウントするな。確か昨日ミョウジが加茂さんのこと『強くて優秀で賢くてかっこいい』って言っていただろ。ミョウジにとってそれが加茂さんを慕う理由の一部だろ。覚えていないのか?それに加茂さんはミョウジに優しそうではあるからそれが魅力なんじゃないか?」

「……」

釘崎が引いたように目を細めたかと思えば、眉尻を下げて再び伏黒の左肩を叩くようにして手を置く。
一方虎杖は「伏黒、なんでそんな必死なの?」と不思議そうに首を傾げながら、釘崎に倣うように伏黒の右肩に手を置く。

「……」

「残念なヤツね」とでもいうような釘崎から同情の感じられる態度、それから事の発端である虎杖の能天気さと「必死」と表現する失礼さに伏黒は頭が痛くなり、無言で両肩に乗る二人の手を振り払った。



 ◇



伏黒は交流会最終日のことを細部まで思い出した結果、頭が痛くなっていた。
床に正座をしている虎杖は反省している様子が見受けられるが、あの時の自分への非礼も反省して欲しいところである。
だが今は虎杖の相談とやらを解決するのが優先事項だ。勝手な真似をされてまたナマエに非礼を働かれては堪らない。

「とりあえず、事実を整理する。ミョウジ本人は触られていたことに気がついていたのか?」

「気がついてたよ。つかさ、ミョウジさんに指摘されるまで触ってたのが、ケツってわからなかったというか……ケツの位置高いから腰かと思ってたし、なんか妙にフワフワしててさ。ケツって普通カッチカチかムニムニのどっちかだろ?フワフワってあり得るのか?女子のケツって皆ああなの?実は触ってたの髪の毛って可能性は?」

虎杖は両手の平を上に向けて関節を曲げ伸ばしする動作をする。まるでナマエの臀部を揉んでいたのか、と想像させるような動作は勘弁して欲しい。

「その手の動きはやめろ。髪がフワフワならわかるが、ミョウジの髪はそんな感じじゃないだろ。それに問題はミョウジの尻の感触じゃなくて、触ったことに対してどう対応するかだろ?」

「おお、流石伏黒。相談してよかったぜ。で、俺どうしたらいいの?」

「何もしなくていい。ミョウジに指摘された直後に謝ったんだろ?」

「あー、いや、どーだろ?あの時俺パニクってたから。だってまさかあのフワフワの感触が──」

「だから、その手の動きはやめろ。どちらにせよこんなに日にちを置いてから謝られても、一方的に触ったことをずっと覚えられていたってミョウジは嫌がるだろうから触れない方がいい」

「確かに。出会った日とか、めっちゃ鞄でガードされてたっけ。そういうの嫌がりそうだな」

「そういえば、ミョウジと会ったことあるんだったのか」

「ああ。あ……」

「なんだ?」

「いや、その……五条先生に匿われてて地下生活してたって言っただろ?その時先生が用意してくれた映画観漁っててさ……ちょうどミョウジさんが好きそうなヨーロッパ映画選んで一緒に観てたら、エッチなシーンがでてきちゃって、ミョウジさんが卑猥だって怒ってたなって。俺もしかしてミョウジさんの中でセクハラキャラになってね……?」

「……」

伏黒は怒りと呆れで言葉を失った。虎杖がナマエと二人きりで映画を観ていたことも気になるが、ナマエが怒る程の過激なものを観ていたとなると、初そうな彼女がトラウマになっていないか心配になる。
となると、どの程度過激な映画だったかが問題になる。

「どんな映画だ?」

「なんか主人公が落ちぶれた三十代くらいのおっさんである時突然異能力に目覚めるんだけど、最初は悪いことしちゃっててさ。それでとある不思議少女と出会ってからはヒーロー気質に目覚めていくようなやつで。あ、少女といっても役者自体は二十代前半って感じがあったかな。んで、ある時おっさんと少女が服屋の更衣室で……こう……」

虎杖が両手を絡み合わせて上下に揺さぶっているの見て、伏黒は心が苦しくなった。普段互いにそういう話をしない分、同級生が照れた様子で性的なシーンの再現をするのはあまりにもキツ過ぎる。吐き気までする。

「いや、それ以上は再現しなくていい……観るなら子供向けにしておけよ」

「それを言われると五条先生に責任転嫁したくなるけど、やっぱ限られた中で選択間違えたよな……俺あんな感じのミョウジさんに変態と思われるのショックなんだけど」

「やっていることは変態だから仕方ねーだろ。あんな感じってなんだよ」

『あんな感じ』の意味は恐らく、ナマエの楚々とした雰囲気のことを指しているのだろうと伏黒も共感できるところはあるが、虎杖がナマエに行った数々の非礼を考えると手厳しい態度は崩せない。

「え?ミョウジさんみたいな人に変態って思われたら嫌じゃね?あ、釘崎とか五条先生に思われるのも嫌だわ。あと二年の先輩たちとかにも!」

「とりあえず、オマエがミョウジを肩に担いで拐ったことについては俺が既に代わりに謝ったからそれでいいだろ。少なくとも、ミョウジはしつこく怒ってくるようなタイプじゃないだろ?」

「でも、正式にはまだお嫁さんになってないんだよな?あの地下で俺と二人きりになることも気にしてそうだったし、お嫁さんになる前の子のケツ触っちゃった罪悪感凄いんだけど。手にまだ感覚残ってるし!」

また手の平を上に向けて関節を曲げ伸ばす虎杖を見ていると、ナマエを汚された気分になり、伏黒の中で不快感が募る。胃の辺りが重くなるような感覚に内心舌打ちをして、伏黒は椅子から立ち上がった。これ以上虎杖からこの件についての話を聞き続けたくないとの意思表示である。

「タワシでも握って感覚も記憶もさっさと忘れろ。それが贖罪だろ」

「なんで伏黒が怒ってんの……?」

「怒ってねーよ」

「怒ってんじゃん。お、着信……釘崎からだ」

虎杖は制服のポケットからスマホを取り出すと、画面をみてその相手を確認してから耳に当てる。
虎杖は四回言葉を発したのみで直ぐに通話を切った。要件のみの電話だったらしい。

「何の用だった?」

「来週仮装してディズニー行くから、早くネットで衣装買っておけって」

「また突然な」

「なんかグループチャットの方に写真送られてきた……え、ミョウジさんと加茂さん?」

伏黒は虎杖の言葉に釣られて虎杖のスマホを覗き込むと、確かにナマエと憲紀のツーショット写真が載っていた。恐らくハロウィンイベント期間のUSJと思わしき場所で仮装をしている。

伏黒も制服のポケットからスマホを取り出すと、グループチャットにナマエと憲紀の写真とともに、釘崎から『来週私たちも仮装してディズニー行くわよ。ナマエからUSJのお土産送られてくるらしいからお返し用のディズニー土産見繕っておいて』と何故かこっちが断らない前提の文言が添えられていた。

「警官と赤ずきんのコスプレかな?へー。あの二人もこういうことするんだ。いや、待てよ……加茂さんから逮捕するぞってメッセージ込められてたりするのか?あの人こんな洋風な仮装なんかしなさそうだし。ミョウジさんからは俺の腹に石詰めるぞって脅迫だったらどうしよう」

「オマエの中であの二人のイメージどうなってんだよ」

とは言ったが、虎杖襲撃事件のことと宿舎でのやり取りを思い返せば、憲紀ならあり得なくもないか、と伏黒は思い直し、スマホに写る写真を見つめる。

ナマエが仮装をするのはなんとなくわかるが、意外と派手な衣装を選んだことが気にかかる。幼少時と趣味は変わっていないのだろうか。それに憲紀の方は赤ずきんと関係のない上下黒の欧米風の警官のようなコスプレをしていることも気になる。ナマエの趣味であるのだろうか。ナマエの趣味だとしたら、簡素でシックな雰囲気が好みなのか。

そんな伏黒の思考を見透かしたように、釘崎から『彼氏の警官コスプレナマエの趣味らしいわよ』と要らないメッセージが送られてきたので、間髪いれずにトークルームから退室して何も見なかったことにした。今までのやり取りの履歴もナマエの写真も消えたが、履歴から不快要素を除けるのなら大した問題ではなかった。

「えっ、『伏黒』が退室しましたってでてるけどグルチャ抜けた?」

「操作ミスった」

「なんで?」

「知るか」

伏黒は雑に言い捨てると、虎杖の部屋を出て真っすぐ医務室へ向かった。

対処療法をもってしても、トークルームに溜まっていく釘崎からの謝罪なのか煽りなのかわからないお気遣いメッセージを見ると、暫く頭痛は続きそうな予感がした。


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