今朝の寝起きは最高にクールだった。目を開けるとフールパウダー?でイギリスから日本まではるばるやってきた灯希ちゃんがベッドのわきにいて、ねぼけた私はついにあの世からのお迎えが来てしまったのかと勘違いして大慌てで美しいジャパニーズ・土下座を披露しながら今までの人生の懺悔を語って聞かせたのだった。不意打ちのお迎えにバクバクしている私の口から飛び出てくれたのはおもに赤司君に対するストーカー行為とか嫌がらせとかそういったものへの謝罪ばかりだったから、きっとあの煙突の灰を全身にかぶった灯希ちゃんが本物のあの世からのお迎えだったとしても、おそらく涙を流してげらげらわらいながら天国に連れて行ってくれたことだろう。

「春香。『愚か者パウダー』ではなく『フル―パウダー』だ」
「あれ?うそ、私の心読んだの赤司くん?」
「すべて口に出ていたぞ。で?懺悔と謝罪がなんだって?」
「ちがうのちがうの赤司くんやめて、っひ、ひひやめてくすぐらないでいやあああ」

 私の弱点を知り尽くした赤司征十郎という男は本当に容赦がない。イギリスに向かう自家用ジェット機の中で私はひいひい涙を流して赤司くんに詫びる。許したんだか許してないんだかわからないきれいな横顔を見つめながら、私は赤司くんが用意してくれたブランドのカタログをぱらぱらめくった。

「ちょっと、これ金額おかしいんだけど。ゼロが普通より6個くらい多いんだけど?」
「おや、手の届きやすい価格を取り扱う店を所望したのは誰だったかな」
「これのどこがお手頃プライスなのかな!?」
「冗談だ。君が望んだ条件通りのカタログもちゃんと用意してある。――――ところで後学のためにお尋ねするが、君好みのアクセサリーはどんなものだい?雰囲気とか、モチーフだとか、そういうもので構わない」
「うーん、丸くてつるつるしてておいしそうなものかな」
「ふむ。参考にしよう」
「え、なんの?」

 赤司くんがふっと笑いを漏らす。どきり、と身体の奥がふるえた。ああ、この顔だ。私は赤司くんのこの不敵な笑みが大好きで大好きで仕方がないのだ。トクトクといつもより早く動く心臓の音が隣の男に聞こえていたら恥ずかしくて仕方がない。今、その瞳に見つめられたら、その声に呼ばれてしまったなら、自制のきかない今の私はきっとものすごくものすごくはずかしいことを口走ってしまう。

「春香、――――急に静かになったな。どうした。体調が悪いのか?」

 赤司くんが優雅にコーヒーに口をつけながらそう言った、そのあとのことは正直覚えていない。気が付いたら私は毛布にくるまって眠っていて、となりに座る赤司くんもきれいな瞳を閉じて仮眠をとっていた。覚えていない。ほんとうに何も覚えていない。とにかく、ばかな私はとんでもないことをしでかしたことだけは明白だった。深呼吸をして、ぐるぐるまわる頭を冷やそうと氷の溶け切ったオレンジジュースを口に含んでようやく――――覚えていないなら忘れるべきなんだろう、と私は結論付けた。
機内から見えるロンドンの夜景は格別だった。私は夜の色に染まった赤司くんのきれいな横顔をこころゆくまで眺めてやることに決めた。――――30秒後、赤司くんは目をつむっているだけだったということが判明するのを知らぬまま。