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その執事、一心4


「前回とは…違う部屋ですね。」

案内された部屋は、前回の部屋とは違う場所。

大きな出窓が一つに、
その傍にイスが一つ。

テーブルの上には、
晋助様がいつも吸う煙管が置かれている。

シンプルかつ、淡色色素の部屋。

「俺の部屋だ。」

晋助様は短くそう言って、私を通り過ぎ、
テーブルの上に置かれていた煙管を手に取った。

ふぅと溜め息をついて座ったのは、
真っ白でフカフカそうな白いベッド。

「意外…ですね。」

私は唯一ある出窓に向かって歩いた。
晋助様は「何がだ?」と煙管を咥え私に問うた。

私はその言葉に、

「何となく、晋助様は黒っぽいイメージがありましたので。」
"白のベッドは意外です"

と返し、ベッドに座る晋助様に微笑めば、

「っ?!」

手を引かれ、ベッドの上に引っ張り込まれた。

私の上に覆い被さる晋助様に驚きながらも、本当にフカフカなベッドに感動した。


「また勝手なイメージか?」

ニヤリと笑う晋助様に、私は「すみません」と苦笑した。
その私を見て、晋助様は小さく首を傾げた。

「何だ、今日は随分と強気だな。」
「え?…そんなこと…ありませんよ。」

"私は何も変わりません"
晋助様にそう返事をすれば、その返事は晋助様の気分にそぐわなかったようで。

「紅涙、」

私の名前を呼んで状態を起こし、またベッドに座りなおした。

「座れ。お前の望んでいた本題だ。」

その晋助様の言葉に、私は静かに唾を呑んだ。

私が断ることを、
晋助様は知らない。

きっとここに来ているということは、
契約を交わしに来たと思っている決まっている。

「晋助様…、」

私も身体を起こし、煙管を右手に持つ晋助様に言葉を掛けた。

「あの…、その…契約のお話なんですが…、」

言い出しにくいのは百も承知。
でもここまでだとは想像していなかった私は甘い。

ギュッと俯き、
座る自分の膝の上で手を握り締めた。

晋助様の周辺に漂う空気が、
張り詰めていくのが目に見えて分かる。

「晋助様の仰っていた契約のお話、私は」
「それ以上、」

晋助様が私の声に被せた。
私は顔を上げ、その顔を見た。

「それ以上、言ってみろ。」

私を見る晋助様の目は、
見下げるように鋭く尖り、
目に見えない力で、首を絞められているかのような感覚に陥った。


「俺は、お前をどうするか分からねェぜ?」


限りなく、
黒く濁った笑みだった。

「それを分かって言ってんだよなァ?紅涙。」
「っ…、」

私に、出来る?
ここで断ること。

「高杉の名前、知ってて俺に会いに来たんだろォ?」
「そ…うです…。」
「ならどうなるか、想像ぐれェつくだろォに。」
"なァ?紅涙"

晋助様は私に手を伸ばし、スルりと左頬に触れた。

そのままその手は首筋を伝って。

「俺に、お前を殺させないでくれよ?」

彼は、本気だ。
その思いには、何故か絶対な確信があった。

晋助様の手は、まるで私の首を切り裂くかのようにギリリと爪を立てた。

「ッ!!」
「あァ悪い。つい手が出ちまってな。」

喉で笑いながら、晋助様の手は私から放れた。

煙管をカンカンと鳴らし、どこからか紙を取り出す。

「さァ、紅涙。契約を交わそう。」
"高杉家と、土方家の"

私に振り返り、口の端を吊り上げて笑んだ。
晋助様は「そして」と言葉を続けて、


「俺と、お前の、"契約"だ。」


突き上げるような笑みを見せた。

私の身体は震えていた。
それは私にしか分からない程度だと思っていたのに、

「何だ、紅涙。震えているのか?」

晋助様は私の肩を抱き、窺うように顔を近づけた。
その仕草にすらも、私はビクリと身体を強張らせた。

「ククク、まさか俺が恐いのか?」

私は顔を横に振った。
それしか浮かばなかった。

ここで「恐い」と認めることは、
私にとって、あまりにも恐かった。

「そんなにビビらなくても、取って喰おうってわけじゃねェんだ。」

尚も耳元で晋助様は話しかける。

私の背中には汗が流れる。
ゆっくりと伝い、背筋をさらに強張らせた。


「ただお前は一生俺の傍に居るだけ。」
"捨てられるようなことは、もう心配ねェんだ"


私の頭を引き付けるようにし、
晋助様が、こめかみに口付けた。

「何も、心配するこたァねェさ。」

私に、断ることが出来るのだろうか。
いや、断る必要は…あるのだろうか。

土方家のためなら、
断らないべきこと。

「ここに、お前の名前を書け。」

この紙に名前を書いて、
それで今のこの恐怖から逃れられるのならば。

「こ…こ…?」
「あァそうだ。」

書いてしまおう。

私の、
この名前を。


「…、」

ごめんなさい、トシ。
ごめんなさい、十四郎さん。

私は今、
あなたをこれほどにまで呼びたいと願ったのに。


呼べなかった。


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