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その執事、離別5


「どうするッスか?」

また子さんは私を見る。

"どうする"って、何?

「どうも…しません…。」
「良いんスか?このままじゃ、アンタが晋助様と籍を入れなくても、あっちが先に入れちゃうッスよ。」
"晋助様だって、いつ気が変わって籍を入れるっていうか分からないッス"

確かに、晋助さまは今回開く式を"形だけ"のものだと言った。

「…私は…別に…、」
「一緒にいたくないんスか?」
「っ、」
「好きじゃないんスか?」

一緒にいたいよ、
ずっと一緒だったんだもの…。

一緒に、いたい。
十四郎様が…、好き…。

けど。

「たとえ…っ、私が…好きでも、…十四郎様は…、」

そう。
私が好きでも。

「十四郎様にとっては…、っ…私は」
「そんなの、言ってみなきゃ分からないことッスよ!」

徐々に俯く私を止めたのは、また子さんの大きな声だった。

「言わないで諦めてどうするッスか!」
「っ…、でも、」

「"でも"じゃないッス!!」

自分のことのように声を上げるまた子さんに驚いて、私は「…はい、」と返事をした。
そんな私を見て、また子さんは苛立った様子で頭を掻く。

「そもそもアンタ、おかしいと思わないッスか?」
「え…?」
「身辺が急に変わった、そうは思わないッスか?」

また子さんが何を言いたいのかは分からない。
確かに、それは思ってる。

今まで、何もなかったのに。
けど、それに素因はない。

「写真を…撮られたのも、私の失態ですし…、」
「その写真。」

引き金を引いたのは私。
そう思って、受け入れてきた。

なのに。


「その写真、撮れって言ったのは晋助様ッスよ。」


それが誘発されたものだなんて、

「え…?」

私はどこから理解すればいい?

「また子…さん…?」
「そこから記者に写真を流したッス。…もちろん、晋助様の指示で。」
「そんな…、…」

視界が、両端から狭くなる。
また子さんは、重い溜め息をついて「全部、」と言った。


「全部、晋助様の手の上ッスよ。」


私は、
彼によって造られた道を歩かされていたと…?

「そんなの…、信じ…られるわけが…、」
「なら、もっと詳しいことを教えてあげるッス。」

恐い、
また子さんからの言葉が恐い。

「アンタ、松平家で痛い目見せられたッスよね?」
「…、」
「松平家、あれも晋助さまが手を回してるッス。」
「ッ?!」

"高杉家を甘くみていた証拠"

また子さんは言った。
土方家から私を追い出すために、使えるものは全て使っていると。

「それを聞いて、まだココに居たいと思うッスか?」
"まだ晋助さまに尽くしたいと思うッスか"

分からない…、
もう何も…、分からない。

私は顔を手で覆った。
頭の上で、「本当は、」というまた子さんの声がする。

「…アンタはここを出ない方が良いッス。」
"命が欲しければ"

『俺にお前を殺させないでくれよ?』

晋助さまの声が頭に響く。

手で覆った視界に、晋助さまが鮮明に浮かぶ。

「それでもアンタは…ここを出た方が良いッス。」
"アンタのために"

また子さんは「アンタはココではやっていけない」と言った。

「だからあたしが、…アンタを出してやるッスよ。」
「ッ…、また子…さん…、」
「晋助様の目を盗み出るのは、生半可な覚悟じゃ駄目ッス。」
"時と場合を見て、あたしから指示を出すッス"

何かに覚悟を決めたように、また子さんは小さく頷いた。

もう、迷うわけにはいかないんだ。

これを知ってしまった以上、
私は晋助さまの傍にいれない。

ううん、傍にいる必要は…ない。

飛び出せた時、

トシは…、
十四郎さまは。

私をどう見るのだろう。

「また子さん、ありがとう…ございます…、」
「か、勘違いしないでほしいッス!あたしは別に、」
「話してくれて…、ありがとうございます…、」
「…あたしはただ晋助様を独り占めしたいだけッスから。」

話してくれた彼女は、少し顔を赤くして。


「このこと、晋助様に気付かれないよう気をつけるッスよ!」

そう言って部屋を後にした。


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