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その執事、真率2


「銀…。」

銀は部屋を閉め、私にニコリと笑った。

「久しぶりだなァ、紅涙さま。」
"元気だったか?"

その声に私は頷き、「はい…」と返事をした。
銀は「それは良かった」と言って椅子に座った。

「大変だったんだぜ?紅涙さまがいなくなってから。」
「…そう…ですね。」
"新聞で…伺ってます"

私が濁した返事をすれば、銀は「あれからよォ」と続けた。

「あれから、使用人を雇うは切るは激しくてよォ。」
"育つ暇もなかったぜ?まァ俺には関係ねェけど"

銀は伸びをして、「よく妙がキレてたなァ…」と言った。

「おまけに、紅涙さまの代わりとか言って女が来てよォ。」
"昔の馴染みか何だか知んねェけど、いきなり困るっつーの"

銀の話すのは、きっと新聞で見た"沖田さん"だ。
彼女は、本当に土方家に来ていたんだ…。

「その女さァ、付きっきりなわけよ。ヒジカタ様に。」

銀の指す十四郎さまの呼び方が片言で可笑しくて、私が小さく笑えば「笑いごとじゃねェよ」と言われた。

「俺さァ関係ねーんだけどムカついてよォ。」
「…え…?」

私が首を傾げれば、銀は立ち上がって窓の方まで歩いた。

「野郎がどんな女とどーこーなっても関係ねェんだけどよォ、」
「…、」

銀は窓を開けて、


「ずっとアイツの横で笑ってたのは紅涙さまなんだからさ…、」


私の方へ振り返って、

「やっぱ…ムカつくだろ?」

困ったように微笑んだ。
私は口を瞑って、俯いた。

銀は「紅涙さま」と私を呼んで、

「こっち来てみ。」

窓際まで手を引かれた。
「あそこ」と銀が指さす方へ目を向ければ、

「っ…、」

そこには。

「俺さ、あんまりにもムカつくからよォ、」

二人の姿。


「全部、潰してやろうと思うんだけど。」


一人の男の隣を歩く、嬉しそうな女。

「紅涙さまは、それどう思う?」


沖田さんと…、

「…十四郎…、さま…。」

久しぶりに見た彼が、
誰かの傍にいるなんて、私の頭は戸惑って。

窓枠の中から居なくなった後も、私はいなくなった庭を見つめたままだった。

「なァ、紅涙さま。」

いつの間にか握りしめていた手を、銀が触れて。

「我慢すんなよ、紅涙さま。」
「…、銀…、」
「紅涙さまのしたいようにしてみろよ。」

銀の言葉に、私は静かに顔を横に振った。

「したいように…した結果が…、これです。」
「いーや、違うね。」
「…、」
「したいようにするっつーのは、後先考えねェでするもんなんだよ。」

いつも、だらしない銀は、
私の隣で意志を感じさせる眼をしていた。

「忘れんなよ、紅涙さま。」

頭をポンと叩いて、銀は私の横を通り過ぎて行った。

振り返れば銀は背中越しに「俺は…、」と呟いた。


「…、…俺たち、紅涙さまが一番なんだぜ?」



銀を呼び止めようとした時、部屋の扉が静かに開いた。

「…っ!!」

銀は扉から入ってくる人と入れ替わりのように部屋を出た。
私は声を失っていた。

なぜならそれは。


「…久しぶり、紅涙。」


私が…、
逢いたくて仕方がなかった人。

「…、…っ…、十四郎さま…、」
「…久しぶり。」

十四郎さまは、穏やかな顔をしていた。


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