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その執事、真率6


晋助さまも、トシも。
互角という言葉が相応しいやり合いだった。

また子さんは、晋助さま達に目をやったまま言う。

「…、あの後、」
「?」
「あんたに協力するって話した後、すぐに晋助様に捕まったっス。」
「!!」

また子さんは細く溜め息をついた。

「別に罰せられることはなかったっス。だけど当日の晋助様の考えを聞かされたっス。」
"従わないわけがないっス"

申し訳なさそうに口を瞑ったまた子さんに、私は「うぅん、」と笑って見せた。

「また子さんが無事で良かったです。」
「アンタ…、」
「そういうことからすると晋助さまも…、悪いところばかりな人ではないようですね。」

いくら晋助さまでも、
私にそんな話を持ちかけるまた子さんが完全に自分の手駒になると確信はなかったはず。

あえて晋助さまは、また子さんに考えを伝えたのか…。

私が彼らに目をやった時、また子さんは「当たり前っスよ!」と言った。

「だけど今回は、こんな派手にやっちまったっスからね。とりあえずあの女を強請って、どうにか揉み消すっス。」
"さすがに沖田家を敵に回すと面倒っスからね"

また子さんはそう言い終えると、徐に窓を開けた。

「悪いとは思うっスけど、潰れた披露式は土方家に被ってもらうっス。」
"うちの面子が潰れるのは防ぎたいところっスから"

私はまた子さんの言葉に「分りました」と頷いた。

「こんなことになったのは、私が原因でもありますから。」
「その変わり、裏で支援組は組むっス。」
"土方家の再生に、力は貸すっスよ"

また子さんは「それで許してほしいっス」と言った。
私は「そんなことまでいいんですか?」と返した。

「晋助さまには分からないようにするっス!」
「だ、大丈夫ですか?」
「何とかなるっスよ!だからその時は言ってくださいっス!!」

頼もしく言うまた子さんに、私は「はい」と笑った。

「それじゃ、そろそろイイっスかね。」

また子さんは晋助さま達の方へ向き、足のホルダーに手を掛けた。
そこにあるのは、もちろん2丁の拳銃。

「また子さん?」
「あたしを心配してくれた借りを返すっス。」
"借りたもんは返すっスよ!"

そう言うなり、また子さんは晋助さま達の方へ向かって銃を撃った。

正確には、崩れかけた扉に向かって。
穴だらけになった扉は、グラグラと外れそうな体を不安定に支えていた。

もちろん、
それに気付いた二人は手を止めた。

「おい、また子!テメェ何考えてんだ?!」

また子さんはそう投げかけられる言葉も無視して、

「突撃〜っス!!」

その大きな声のすぐ後に、

「ホワチャ〜っ!!!」

力強い女の子の掛け声と一緒に。

「紅涙さま!助けに来ましたよ!!」

新八くんの声がして。

「紅涙さま、大丈夫か?」
「銀…、」

さっき来てくれた皆が、各々に武器を手にして入ってきた。

晋助さまは一瞬驚いて見せたものの、また不敵にクツクツと笑う。

「やってくれるなァ、銀時。」
「ちょっとやめてくれる?今はその名前で生きてないから。」

銀は晋助さまの前で立ち止まった。

「お前さァ、人のモンに手ェ出すとか止めろよなァ?悪趣味。」
「人のモンだと決まったモンじゃねェよ、欲しいモンは欲しい。それだけだ。」
「変わんねェな〜全く。」

二人はどうやら馴染みの仲のようで。
考えたこともなかったことに、私の頭が困惑する。

「姉上!」

その中に聞こえるのは、総悟さんの声。
声を掛けるのは、腰を抜かしていた沖田さん。

「大丈夫ですか?!姉上!!」
「総…ちゃん…?」
「姉上!良かった、ご無事で。」

総悟さんが、見たこともない顔で"姉"と呼び、接している。

沖田さんが…お姉さん…?

「総ちゃん…私…、…ただ十四郎さんの傍に…、」
「姉上…、それはもう…諦めたことじゃなかったんですか…?」
「…総ちゃん…、」
「俺が野郎のところで働き始めた時、…紅涙さまのこと話したじゃないですか。」
「…、総ちゃんは…、私の気持ちを分かってくれないの…?」

その問いに、総悟さんは少し黙って。


「…姉上、」

諭すように、話した。

「俺ァ姉上が好きでさァ…。だけど同じぐらい…紅涙さまが大切なんでさァ。」
"こんな風に思えるのは、あの人が初めてなんでさァ"

沖田さんはそれを聞いて泣き崩れた。
悲しそうに沖田さんを見る総悟さんの肩を、近藤さんが叩いた。

「総悟君、俺が沖田家に連れて帰るよ。」
"君も来るかい?"

そう言われた総悟さんは、苦笑して顔を横に振り「お願いします」と浅く頭を下げた。

「それじゃぁお妙さん、俺は一足先にこっちの扉から出ます。暫しのお別れ…悲しいかと思いますが、」
「一生出て行け。」
「ふ、ふ〜んだ、お妙さん!もう慣れましたよ、言葉責め!送り届けたらすぐに帰ってやりますからね!!」

そんな彼らの様子を唖然と見ていた私を、いつの間にか傍にいたトシが抱える。

「ト、トシ?!」
「寂しい思いをさせてしまいましたね。」

トシは「さぁ行きましょうか」と言って窓まで歩いた。

「トシ?まっ窓から何を…!?」
「"何を"?愚問ですよ、紅涙様。当然、」

不安がる私を楽しそうに笑んで退け、


「飛び降りるんですよ。」


トシに抱えられたまま、窓の外へと飛び出した。

胃の浮く気持ちの悪い感覚と、視界から来る恐怖に逃れるため、トシの首にしがみ付けば、

「う…わ…っ…、」

飛び降りた窓から、他の皆も同じように降りてくるのが見えた。

皆、楽しそうに笑って。

その不思議な光景に気を取られていれば、ガクンとした衝撃が体に走る。
周りを見れば、既に地面に着地していたようで。

「と…トシ!危ないじゃないですか!!」

私は忘れていた言葉を口にした。
トシは平然と「全く?」と言って笑った。

「私が抱えているのですから、危ない目には合わせませんよ。」

そう言いながら、トシは私を地面に立たせる。
すると次々に着地をする皆の声が聞こえた。

トシはそれを横目に、「しかし、」と私に言う。

「しかしこの窓からの脱出は銀が考えたことです、文句があるなら銀に申し出てくださいませ。」

フフンと笑うトシの横で、銀は「思ってたよりも高かったなァ」と緩く言った。

「いやぁ事前に高さを確認してて良かったぜ。」
「…え?いつか、来たことがあるんですか?」
「何言ってんの、あるわけないでしょ。ほら、二人で話してた時!」
"あの時に下調べしてたんだよ"

"あの時"

あぁ、
銀に呼ばれて、窓の外を見た時。
トシと沖田さんを見た時。

「さ…さっきですね。」
「おゥ!結果的に成功だし、良しとしよォぜ!!」

銀が私の肩に手を回そうとすれば、トシが払いのける。
無言で睨むトシに、銀も同じように睨み返す。

「もう銀さん!とにかく帰りましょうよ!」
「そうアルよ、こんなところで馬鹿してると見つかるアル!」
「そうねぇ、早く帰ってお料理の支度しなきゃね!」
「あ、姉上…。僕がしますから。いや、僕にさせてください、ぜひ。」

ガヤガヤと皆が歩きだす。
私は皆とは逆に、後ろを振り返った。

降りてきたあの窓。
誰もいないその場所に、ゆっくりと人影が映る。

「…。」

晋助さまがそこに立ち、私たちを見下げる。

「…、晋助さま…、」

その眼に、感情はなく。

今追いかける様子も、
私たちを捕まえる様子も、

何もなかった。

「…、…さよなら…、晋助さま…。」

彼はただ、
寂しかっただけなのかもしれない。

そんな風に思った。


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