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その執事、如何様3
懐かしい夢を見た。
まだ私とトシが、
私と十四郎さまだった時の、
出逢った頃の夢。
「…。」
あ…、あれ…?
朝なのに…。
か、身体が動かない…?
「…。」
どうして?
あ…そっか。
昨日…、
トシが部屋に来て…。
週に1度、トシが執事でなくなる日だったんだ。
それはまだ、
"トシ"になって間もない頃。
『紅涙様、』
『はい?』
『私の我が侭を聞いていただいてもよろしいでしょうか?』
『?…なんですか?』
トシには本当にお世話になっているから、何でも聞いてあげたくて。
『週に1度、私を自由にしていただきたいのです。』
『"自由"…?』
私は何を言われても、受け入れてあげたいと思っていた。
トシはにこりと微笑んで、
『1日とは言いません、まして外出なども望みません。ただ週に1度の夜、私が私になりたいのです。』
言いたいことはあまり分からなかったけど、きっと休息したいということだと勝手に解釈した私は、ふたつ返事で許可をした。
それが、
この現状の原因。
「身体…、ダルい…。」
トシが週に1度望んだことは、
"十四郎"である自分に戻ることだった。
それはつまり、
『十四郎さま…。』
『自分で脱げ。俺を欲情させるように。』
『えっ?!そ、そんなの』
『出来ないのか?出来るよな?紅涙。』
執事が主に戻る時間。
『…腰、もっと振れって。』
『やっ…、もッぉ…ダメッ…ぇ』
『紅涙、命令が聞けないのか?』
『ぁうッ…っんッァァァ!」
『いい子だな、お前は。』
私を掻き抱く時間。
そしてその翌朝は、決まって身体が重い。
寝返りをうつのすら面倒に感じるほど、私の身体は自由が利かない。
「今日は…酷いな…。」
いつもはすぐにでも起き上がれてるはずなのに…。
加え、声を出すのも辛い。
腹筋が痛くて、喉の調子も悪い。
どうしたものか…。
私が動かない身体を確認していると、ドアをノックする音が聞こえた。
―――コンコン…
「紅涙様、朝でございます。」
トシの声だ。
「失礼致します。」
私が返事をする前に、トシは部屋の扉を開けて入った。
真っ直ぐに私の元へ向かって歩いてくる。
相変わらずの黒い燕尾服に、白い手袋。
シャンと歩く姿は優美という言葉が相応しい。
昨日の面影は全くないのが罪にさえ思う。
「おや、今日はまだお目覚めでなかったのですか?」
ベッドに寝転んだままの私を覗いてニコリと微笑んだ。
私は顔を横に振って、「起きてました」と言った。
つもりだったが。
「紅涙様?随分と喉の調子が悪いんですね。」
"もう一度お願いできますか?"
言葉が思い通りの音にならない。
トシに伝わっていないようで、もう一度声にしようと息を吸ったが、私は諦めてしまった。
「どうされました?」
話すことを止めた私を見て、不思議そうな顔をする。
私はそれにまた顔を振った。
「体調が優れないのですか?」
トシの言葉に私はコクリと大きく頷いた。
すぐにトシは手袋を取って、私の額に手の平を当てた。
「特に熱は…なさそうですね。」
トシは「まァ何かあれば言ってください」と笑った。
私はそれにまた頷いて、口をパクパクさせて「ありがとう」と象った。
「ですが、」
トシが真剣な顔に戻って私の身体をベッドから引き起こす。
私は引っ張られるようにベッドの上に座り、トシを見た。
「今日は近藤様がお見えになる日ですよ?」
"早くご用意していただかないと"
トシが微笑む。
でも私には口の端を吊り上げて笑う、厭味な笑みにしか見えない。
私は顔を横に振った。
「紅涙様?それはどういうことですか?」
その言葉に私はもう一度顔を横に振った。
そして大きく口を開けて、
"お会いできません"
と象った。
「どうしてです?」
その言葉に私はまたトシを見て、
"身体が痛くて動きません"
とゆっくりと象り、"それに"と続けた。
自分の喉を押さえて、
"声も出ないのにお会いできません"
トシには本当に伝わっているのだろうか。
心配に思いながらも、私はトシをジッと見た。
すると、
「心配いりませんよ。」
何の問題もないといった顔をした。
「私に考えがあります。」
私は小首を傾げた。
トシはニコリと微笑む。
「まず身体が動かない件ですが、」
そう言うとトシは私の座るベッドに同じように腰掛けた。
「私が紅涙様の手となり足となりましょう。」
言うなり、「失礼します」と私の後ろに座り込んだ。
私は慌てて振り返り、"何?!"とトシに訴えた。
くすっとトシは笑って、
「ご心配には及びません。」
私の両腕を持って、前を向くように固定させる。
「まずは着替えましょうか。」
トシが耳元で楽しそうに呟いた。
同時に、私の肩に手をのせた。
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