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その執事、偽君子3


「まずは雰囲気を出さなくちゃな。」

銀は張り切って私の腕を掴み、ヅカヅカと歩いていった。

「銀?」
「パーティーっぽい服に着替えましょうぜ、紅涙さま。」

そう言って辿り着いたのはトシの部屋。

「まずは俺の執事衣装を調達〜。」

鍵も閉まっていないその部屋を平然と開け、一目散にクローゼットを開けた。

「ぎ、銀?勝手に触るとトシに怒られるんじゃ…、」
「だろォな。」

そう言ってはいるものの、どれが一番綺麗かを品定めして銀は漁る。

「だっダメだよ、銀。」

そんな銀を見てると私の方が心配になる。
漁る銀の手を押さえた。

「ならさ、紅涙。俺に命令してよ。」
「え…?"命令"?」
「そ。"執事の服を着なさい"って。」
「そんなこと…、」
「どうして?執事がいねェんだし、紅涙を守るのは俺だろ?」
"正論だって"

銀はフンと鼻で笑って、よく分からない"正論"を突き通した。

「でもサイズとか合わないんじゃ…、」
「問題ねェよ、アイツと俺の体格ほっとんど一緒だし。」
"真似すんなっつーのな"

ブツブツ言いながら、銀は一番綺麗な燕尾服を取り出した。
しっかり白い手袋も取り出して、早速付けてみたりしている。

私が不安そうにその様子を見ていれば、銀が笑った。

「大丈夫だって、借りるだけだし。」
"見つかる前に返しときゃ分かんねェよ"

そう…だよね…、
きっとトシの帰りは遅い。

見つかる前に元の場所へ返しておけば…、
分からないよね。

言いくるめられるように私は「うん…、」と頷いた。
銀は満面の笑みで「よし!」と言って、

「それじゃ紅涙さま、ご命令を。」

私の前に片膝を立てた。
そして私の片手を取り、上を見上げる。

「今日1日…、私の執事としてこの服を着てください。」

見上げる銀の顔は、いつものダルそうな顔と違って凛としている。
私の声を聞くや否や、銀はフッと微笑んで、


「畏まりました、紅涙さま。」

掴んでいた私の片手にキスをした。

「ぎっ銀、そんな真似事までしなくても…、」
「真似じゃねェって。俺は紅涙さまの執事なんだからよ。」

何だかトシに似てる。

私が小さく笑えば、銀は「どうした?」と言う。
「何でもないです」と返せば、「次は紅涙さまだ」と銀は言った。

「私?」
「あァ、紅涙さまだってパーティー服に着替えなきゃだろ?」

銀はそう言って、出した燕尾服を手に持った。

「さ、紅涙さまのお部屋へ参りましょう。」

ニコリとそう言って、
銀と私はトシの部屋を出た。


「さてと。どれを着るんだ?」

銀がクローゼットの前で私に振り返る。
私は顔を横に振った。

「どれでも、いいです。」
「何だよ、自分のお気に入りとかねェの?」
「特に…。」

ギコちない笑顔で私は銀に言った。

「いつもトシに選んでもらってるので…。」

その言葉で銀の目の色が変わった気がした。

「へぇ〜…、なら今日は俺が決めていいってこと?」
「はい、何でも構いません。」

銀に頷けば、すぐにクローゼットに向きなおしてバサバサと服を捲った。

「じゃ、コレで。」
「はい。」

私は銀に渡された黒いドレスを手に持った。

これは確か、
トシが買ってきたドレス。

「似合いそうだったんで」と買い物ついでに買ってきたドレス。


『やっぱり…。よく似合いますよ、紅涙様。』
『あ、ありがとう…ございます、トシ。』
『お礼は別の形で頂きますので、遠慮なさらないでください。』
『"別の形"?』
『そのドレス、股が結構開くんですよ。』
『っ!!』


「紅涙さま?」
「っあ…、は、はい。」
「どうかした?」
「い、いえ…。」

ドレスひとつで思い出が甦る。
思い出しただけで身体が火照る。

「き、着替えますね。」

それを掻き消すように、私は黒いドレスを持って立ち上がった。

「じゃ、俺も着替えよう〜っと。」

そう言うと、自分の着ている上着を脱ぎ始めた。

「え?!ぎ、銀?!」
「何?」
「こ、ここで着替えるの?」
「そうだけど?」
「でででも」
「紅涙さまも着替えな。」
「いや…、それは…、」

銀は顔色一つ変えずに、"何が問題?"という顔をして私を見ていた。

お、同じ部屋で着替えるのは…ね。

「あ。もしかして恥ずかしいとか?」

"もしかして"なんかじゃない!
私は必死に頷いた。

「大丈夫だって。俺、コッソリとか見ねェから。」
「…でも…、」
「ほら、後ろ向いて着替えるからよ。」
"紅涙さまも着替えな"

銀はそれだけを言ってくるりと後ろを見た。
上着を脱ぎ始めていく。

…仕方ない。

私も着替えなきゃラチが明かないよね。

銀に背中を向けて、着ていた服を脱いだ。

何だか視線を感じたけど、
振り向いて銀と目が合っても怖いから、
とりあえず無視をして、早々とドレスに着替える。

だったけど。

「あ…、あれ?」

後ろのチャックが閉まらない。
というか、手が届かない。

いつもは着替えている横でトシが本を読んでて、呼べば閉めてくれてた。

「ぎ、銀…、」

私は背中を向けたまま銀の名前を呼んだ。
銀は「ん〜?」と間延びした返事をした。

「せ、背中のチャックを閉めてほしいんですけど…、」
「了解いたしました〜。」

ペタペタと近付く音がして、銀が私の後ろに立った。

「これ、」

銀がボソリと言って、私の腰元を持った。

「…綺麗だ。」

銀が私の肩に顎を置く。
全身に電流が流れ、身体が固まった。

「…紅涙さま、聞いていい?」
「なっ何ですか?」

そのままの状態で銀が言葉を紡ぐ。
私の肩で、銀の顎が揺れる。


「身体中にある痕は何?」
「…え…?」


身体中にある…痕…?


『紅涙…、』


トシしか考えられない!

「これ、何だろォな。」
「ぁ…あの、…それは…」
「あー、アレに似てる。ほら、」

そう言って、私の背中を撫でた。

耳元で、
いつもより大めに息を吐きながら言葉にした。

「キスマーク。」
「っ!!」

自分でも分かるほど、身体がビクリと動いた。

マズイ。

「でもそうだとしたら、誰に付けられるんだろォな〜。」

銀に怪しまれてる。

「紅涙さまといる男って限られてるよなァ〜…。」

何て言う?

「俺と、総悟と、新八とォ〜…、」

何て誤魔化す?

「あとは…、」
「っ…、…、」

ダメだ、
誤魔化せる上手い言葉なんて、

見当たらない。

ギュッと目を瞑った時、

「…な〜んちゃって。」

銀が私の肩から顎を退けた。

恐る恐る、目を開ける。

「キスマークなわけねェよな。」

独り言のようにそう言って、背中のチャックを上げた。
「出来上がり」と背中を叩かれて、振り返った。

「さ、紅涙さま。食堂へ参りましょう。」

銀は何食わぬ顔をして、私の手を引いた。


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