14
冷たい間
「ごめんね、銀ちゃん。」
「構わねェって。」
銀ちゃんの太腿を手拭いで軽く叩いて拭いた。
染みが少し薄くなった頃、
「紅涙、もういいから。」
"呑もーぜ"
その声に顔を上げれば、銀ちゃんはニコリと笑った。
私も笑って、
「うん」と返事をした。
「ほら、紅涙のも入れといてやったから。」
銀ちゃんから猪口を受け取って「ありがとう」と言った。
向かいに座りなおした私に「ここ、おいで」と銀ちゃんの隣に促される。
私は銀ちゃんの隣で猪口を掲げた。
「それじゃ、紅涙との楽しい時間に。」
「ありがとう、銀ちゃん。」
コツンと小さな音をさせて、二つの猪口が鳴った。
でもすぐに、
「あ、ちょっと待て。」
「何?銀ちゃん。」
「その"銀ちゃん"っての今日は止めねェ?」
銀ちゃんが頭をガシガシと掻いて言う。
「え?…じゃぁ、何て呼べばいい?」
「銀時でいいよ。」
「う、うん分かった。それじゃぁ…銀時さん、頂きます。」
「"銀時"。」
「あ…、ぎ、銀時。」
「はいどうぞ。」
銀ちゃんが小さく笑って、私も笑ってお酒を呑んだ。
土方さんと呑むお酒にはない甘さ。
やっぱり、
銀ちゃんらしいお酒だなぁなんて思っていた時。
「あ…れ…?」
「どうした、紅涙。」
急に喉が熱くなった。
「マズイか?」
「うぅん、美味しいよ。」
私が銀ちゃんに笑って、またもう一口呑めば。
「っ、ゲホッ…、」
「紅涙?おい、大丈夫か?」
「う、うん、ごめんね。咽ただけだから。」
えへへと笑えば、
「それならいいけどよ」と私の背中を擦ってくれた。
咽たのは事実だが、
確実に私の身体が何か変だ。
お酒の通った場所が熱い。
焼けるように、ヒリヒリとする。
「銀時、」
「ん?」
「このお酒の度数って何度?」
「これ?これはなぁ…、14。」
「え…14度?」
それなら梅酒程度だ。
よく高杉に呑まされたあのお酒とは比べものにもならない。
どうしてこんなに…、
身体が…、
熱く…?
---ドンッ…
「紅涙?」
「っあ、あれ?私…、」
無意識のうちに、私は銀ちゃんへ寄りかかるようにして凭れていた。
「紅涙、お前酔ったのか?」
「ん、まだ…酔ってないよぉ。」
「いや、だいぶキテるな。」
銀ちゃんの言葉を頭の隅で聞きながら、私は「平気だよ」と言って座り直そうとした。
けど、付いたはずの手すらもがカクリと滑る。
そしてまた私は銀ちゃんに倒れこんだ。
「とりあえず横になれ。」
「う…ん…、ごめんね…。」
頭が火照る。
身体が火照る。
「紅涙、苦しくないか?」
「うん…、」
銀ちゃんの声が、少し遠くで聞こえる。
私…、
どうしちゃったんだろ…。
「紅涙…、」
「銀…時…、身体…熱い…。」
私は銀ちゃんに向かって両手を伸ばした。
銀ちゃんは私の両手に応えるようにその手を掴んでくれた。
その手は、私よりも何倍も冷たくて。
「"熱い"?脱ぐか?」
「ん…、」
私は顔を横に振った。
「銀時…冷たい…から…、」
「…紅涙…、…分かった。」
銀ちゃんは私の何かを汲み取ってくれたようで、私に頷いてくれた。
そして、
「…ぇ…?」
銀ちゃんは自分の服に手を掛けた。
そしてそのまま上半身を脱ぎきった。
「ほら、紅涙。」
「ぇ…?銀…時…?」
首を傾げているうちに、腕を引っ張られた。
トンと音が鳴って、銀ちゃんの胸に倒れこんだ。
「つ…冷た…、気持ちぃ…、銀時…。」
「…紅涙、」
「…ん…?」
私は銀ちゃんの胸に頬を引っ付けたまま、目を閉じて返事をした。
すると、
いつもと違う真剣な声で、
「…、悪ィ…、」
と聞こえて。
「っ…、な…に…?」
ドンという背中の鈍い痛み。
次に目の前に広がったのは、銀色の髪。
「銀…時…?」
銀ちゃんの背中にある、天井の電気が眩しい。
目を細めれば、銀ちゃんの表情が見えた。
「紅涙、」
声が聞こえて、私の首筋に手を添えられたのが分かる。
スルッと鎖骨まで手を進められれば、背筋が反った。
「ンぅっ…、」
「お前…、ほんとに熱いな…。」
そう言って銀ちゃんは私の裾元を崩した。
足に手を這わせるように、銀ちゃんの手がツツ…と動く。
「っやッ…ん…、銀…時ぃ…ッ…」
足を捩れば、
私の足の間に食い込ませるように銀ちゃんの左足が入る。
より敏感な場所へと、銀ちゃんは足を私に押し付けた。
「紅涙…、」
「ひぁッ…ん…、」
銀ちゃんは私を好きだと言ってくれていた。
それでも、男と女の関係がなかった。
だから頭のどこかで、
そんなことにはならないって思ってた。
「今日…だけだから。」
銀ちゃんはそう言って、私の大きく開く胸元へと顔を埋めた。
こんな関係になって嫌なわけじゃない。
元はと言えば、遊女。
結果的にどんな男でも寝る覚悟は必要だ。
それに、
大好きな銀ちゃんにはどんな形かでお返しをしたいと思っていた。
だからこうなってくれたことは、私のとって願ったり叶ったり。
だけど。
『紅涙氏っ、』
十四郎さんの声が聞こえて。
「ダ…メ…っ、銀…時ぃ…ッ」
朦朧とする頭で抵抗しようと思っても、
「紅涙の声…サイコー。」
「アっ、ッん…ッ」
ただ刺激するだけで。
どんどん私の肌が銀ちゃんに触れられていった。
熱い身体は何も考えられなくて。
『紅涙氏〜ッ!』
遠くで聞こえる十四郎さんの声にも、私は抵抗することを諦めてしまった。
「紅涙…、好きだ、報われなくても。」
銀ちゃん、そんな悲しい顔しないで。
そんな悲しいこと言わないで。
「銀…時…、」
私はいつもあなたに守られて。
いつもあなたに愛されてここまで来れた。
それはきっと、
「好きだよ…、銀時…、」
私も、
同じ気持ちだったから。
「紅涙…、」
私は銀ちゃんを引き付けるように腕を伸ばし、その首に巻きつけた。
必然的に銀ちゃんは近づき、
私は目をゆっくりと閉じた。
銀ちゃんを受け入れるために唇を薄く開いた時、
「お、お止めくださいませ!」
廊下で騒々しい声が聞こえた。
銀ちゃんは一度ピクリと動きを止めた。
私も目を開く。
だけどすぐに、
「っン…、ッ…は…ァ…、」
銀ちゃんは唇を付けて舌を入れた。
呼吸すらも飲み込まれそうなキスに、私が息を吸った時、
「ただいま他のお客様がいらっしゃっておりますゆえ!」
また大きな声が聞こえた。
そして、
「紅涙氏!僕、迎えに…、…ぁ…」
掻き開くかのように襖を開けられたのは私たちの部屋で。
目を丸くして、
部屋に転がる私たちを見下げていたのは、
「十…四郎…さ…ん…、」
今、絶対に会いたくない人。
絶対に会ってはいけない人。
「紅涙氏…、君は…、何を…、」
私はそれに、
何も言えなかった。
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