3


生涯の約束


「でも大したことがなくて良かったです。」
「あァ。すまねェな、心配掛けちまって。」

あの後、
剣道場で意識を失った十四郎さんは、近藤さん達に運ばれた。

十四郎さんが倒れたあの状況。

「何があったんでしょうか…。」

私が十四郎さんの寝顔を見ながら呟けば、沖田さんが「あの奇声…」と同じように呟いて。

「近藤さん、あの声どこかで聞いたことがありやせんかィ?」
「何言ってるんだ、総悟。あの声も何も、トシの声だから聞いたことがあるのは当然だろうに。」
「ンなことは分かってんだよ、ゴリラ。」
「あれ?総悟君の声で"ゴリラ"って聞こえたよ?ねぇ紅涙ちゃん、聞こえたよね?」
「とにもかくにも、あの野郎の声…、…まさかねィ。」

近藤さんは首を傾げてばかりいたけど、
沖田さんには何か思い当たるものがあるように見えた。

「何か原因があったんですか?」
「いや、昔の話でさァ。」

沖田さんは「気にしないでくだせェ」と笑う。

「トシも疲れが溜まってたんだよ、少し眠れば良くなるさ。」

近藤さんは私の肩を軽く叩いて、「それまで看病してあげてくれ」と笑った。

沖田さんの言葉は気になったけど、
今は近藤さんが言うように十四郎さんを労わることだけを考えてあげなければ。

そう思いながら、
私は近藤さんに「はい」と返事をした。


それから小一時間ほどして、
ようやく意識を取り戻したのがついさっき。

「本当に大丈夫なんですか?」
「何ともねェよ。」

十四郎さんは布団の上で座り、いつもの調子で煙草に火を点けた。

私がそれを見て小さく笑えば、「何笑ってんだ」と睨まれる。

フイッとそっぽを向く十四郎さんの横顔が、
少し疲れているようにも見えて。

『ただ…お前が…、』

倒れる前の十四郎さんの言葉。

『ずっと…、笑ってられるように…』

すごく嬉しくて、
すごく愛しかったのに。

「十四郎さん…、」
「ん?」

悲しい訳じゃないのに、
寂しい訳じゃないのに。

なのに。

「私のことは…もう大丈夫なので…、」
「…。」
「もっと…休んでくださいね。」

胸が痛くて仕方なかった。

疲れは私のせいだって少なからずあるに決まってる。

私がここへ来て世話になっているばかりに、
十四郎さんへの負担が大きくなっている気がする。

このままじゃいけない。
十四郎さんは優しい人だから。

「休んでるさ、怠けるほどな。」
"だからンなことになっちまったんだよ"

そうやって自分だけで抱えてくれたり、
私には疲れ一つ見せなかったり。

小さな一つ一つが、
私の中の何かを動かす。

優しい、
優しいあなた。

「っ、紅涙?!お前、何泣いてんだよ!」
「ごめっ…なさい…、」

勝手に心が震えて、涙が出る。

悲しい訳でも、
寂しい訳でも、
辛い訳でも、
何でもないのに。

名前のない涙が流れる。

「紅涙…?」

「ありがとうっ…ございますっ、」

私のためにしてくれて。
私を愛してくれて。

私。
きっと、

言葉には存在しないほど、

「十四郎さんが、好きですっ…」

言い足りないほど、
抱えきれないほど。

だから涙が出たんだと思う。

十四郎さんはくすりと笑って、

「…俺も。」

そっと私の手を取って、

「紅涙、」

優しい目で、

「これからも…、お前と…居たい。」

ゆっくりと、
確実に、

言葉を紡ぐ。


「ずっと。…死ぬまで、居たい。」


十四郎さんが優しく笑って、「だから」と言った。

私の鼻がツンとして、
さらに悪くなる視界に小さく唇を噛んで聞いた。


「…結婚、してくれ。」


そっと支えるように持たれている私の手。
瞬きを忘れた目から、真っ直ぐに涙が流れた。

私はゆっくりと目を瞑り、

「っ…、はい…っ…、」

頷いて、手を握り締めた。
十四郎さんは「ありがとう」と言って、

「二度目の告白だな。」

抱き締められた耳の横でそう言った。

私が十四郎さんの背中に手を回してギュッと抱き締めれば、私の後ろ髪を撫でてくれた。

ゆっくりと身体を離して、十四郎さんと至近距離で向かい合う。

「何があっても、お前は俺が守るから。」

それは誓いの言葉のように。

二人で額を引っ付けて、
目を瞑って。

部屋に響く十四郎さんの声を、耳に聞いた。


見つめ合って、
幸せそうに笑って。

「紅涙…、」

淡い、甘いキスをした。


- 3 -

*前次#