31


溜め息



誰の手か分からない大きな手に口を塞がれ、全く息が出来ない。

「ぅ、」

ダメだ、このままだと窒息する。
現状を把握するためには目を開けるしか……

「ッ」

薄目を開けた段階で痛さに目を閉じた。
しかし僅かに見えたものがある。

真っ白な煙が充満する室内。
それを背景に、私の口を塞ぐ黒いシルエット。
メガネを掛けた男性だったように思う。

でもメガネって……誰?
レイリさんも土方さんもメガネは掛けていない。
まさかレイリさんに仲間が?

「よし、もういいぞ。上がってこい。」
「!」

聞こえた内容にヒヤッとした。

早く土方さんに教えないと。
この煙の中で襲われたら、いくら土方さんでも無事では済まない。

私は腕のことも構わず、唯一自由な足を動かそうとした…が。

「動くな。」

足首を捕まれ、床に押さえつけられる。
しかし右足だけだ。
片足が固定されたことで、むしろ足を動かしやすくなった。

「このっ」

左足を前に出す。
けれど、

「じっとしてろって言ってんだろうが。」

左足もしっかり押さえ込まれた。
だがそのおかげで私の口元から手が離れる。

「っは、ぁっはぁ、」

やっと息できた…!

「呼吸は控えめにしろよ。息を吸いすぎるとお前まで眠くなる。」
「眠く…?」

って、あれ?

「煙には強い睡眠薬の成分が含まれてるそうだ。発生元から離れてる分、紅涙に効果は薄いはずだが――」

この口調、この声…。

「もしかして、土方さん…ですか?」
「…誰だと思って聞いてたんだよ。」

呆れて吐く溜め息が聞こえる。
土方さんだ。

「え、でもメガネ掛けてませんでした?」
「よく見えたな。とりあえず今からお前に目薬さすぞ。」
「え!?」
「粘膜で煙が染みねェようになるんだとよ。薄目開けろ。」
「わ、わかりました。」

言われるままに恐る恐る薄目を開ける。
土方さんの指が瞼を少し押し上げた。
そこへ1滴、冷たい液体が注ぎこまれる。

「目ェ回して全体に広げろ。あと、口。」
「口?」
「口開けろ。」
「へっ!?」

なんで口を!?
驚いている間に、口の隙間から何かを放り込まれた。

「…飴?」

コロンとした何かは柑橘系の味がする。

「それを舐めてる間は煙が効かない。」
「へぇ…すごい。」
「目もそろそろいいだろ。開けてみろ。」
「は、はい。」

痛みを覚悟しながら、ゆっくりと目を開けた。

「あ……。」

痛くない。

「どうだ?」

黒縁メガネを掛けた土方さんが、私の顔を覗き込んでいる。

「土方さんが…見えます。」
「問題なさそうだな。」

やんわり微笑む表情を見て、ようやく肩の力が抜けた。

「呼吸は出来る限り口からするように。飴の効果は鼻まで届きづらいんだってよ。」
「わかりました、……。」

よかった…。
土方さんに怪我がなくて、土方さんが助けてくれて…

「良かった…。」
「……ああ。」

よかった。

「…レイリさんは?」
「そこに転がってる。まァ2時間は目覚めないだろうな。」
「土方さんがこの煙を出したんですか?」
「ああ。ちょっと特殊な煙草で。」
「特殊な煙草?どんな――」
「詳しい話は後だ。まずは部屋を出る。」

そう話し、私の腕の拘束具に触れる。

「…悪かったな。痛かっただろ、これ。」
「いえ…平気ですよ。」
「……。」

拘束具を見たまま沈黙する。
僅かな静寂のあと、土方さんは懐から小さな鍵のような物を取り出した。

「それは?」
「鍵だ。」
「え…?」

左手の拘束具にある鍵穴へ挿し込む。
カチッと音を鳴らし、腕の拘束具が外れた。

「その鍵は…」
「志義三郎から預かった。」
“ここにある物は大抵、志義が与えた物らしい”

そうだったんだ…。
土方さんは同じようにして右手の拘束具も解いてくれる。
けど、

「これか…。」

腕に繋がれたチューブまでは外せない。

「……鬱血してきてるな。これは痛かっただろ。」
「痛くありませんよ。ただ…、……。」

この先を思うと、言葉にならない。

「紅涙?」
「すみません、気にしないでください。これも隊士としての勲章、平気ですよ。」
「……さっきから平気平気って、平気なわけねェだろうが。」

土方さんは私の腕をそっと取り、鬱血した肌を親指で撫でる。

「策とはいえ、早く助けてやれなくて悪かった。」

そう言って、針が刺さっている付近の肌を軽く押さえた。

「あ、の……」

さすがに押さえられるのは…

「痛いか?」
「い、いえその、怖い…です。」
「怖い?」
「針が抜けてしまったら、私は死んでしまうそうなので…。」

あまり触れられたくない場所だ。
土方さんも「そうだな」と深刻な顔で頷く。

「じゃあ抜くか。」
「え!?いやっ、あの、聞いてました!?」

なっ、何この人!

「じっとしてろ。」
「出来ませんよ!何言ってるんですか!?」
「いいから。」
「いいくないです!このままそっとしててくださいよ!」

荒行なわけ!?
まさか抜いても気合いで乗り越えられるとか思ってるの!?

「も、もう離れてくださいっ!」

無理無理!こわい!

「大丈夫だ、紅涙。」
「大丈夫じゃないです!」

せっかく助けてもらったんだ、出来る限り生きたい!

「信じろ。」
「無理ですってば!」
「紅涙。」

――チュッ

ふわっと風が吹き、唇に僅かな熱が灯った。
思いもしない行動に、思わず目を瞬かせる。

「俺を信じろ。いいな?」
「…………はい。」

頷いた。
心臓はバクバクと音を立てている。
キスのせいなのか、不安で脈打つせいなのかは分からない。

でももしこれが最期の鼓動になるのなら、
胸の高鳴りがキスのせいであれば、それはそれで幸せなことかもしれない。

好きな人の腕の中で死ねるんだから…

「抜くぞ。」

覚悟する。

土方さんは腕の皮膚を軽く押さえ、注射針をそっと引き抜いた。
まだ点滴袋に残る液体が、針の先端からポトポトと流れ落ちる。

「これで腕を押さえろ。」

ガーゼを渡された。

「…準備いいですね。」
「まァな。」

相槌を返し、今度はポケットから袋を取り出した。
中に丸い紙が入っている。

なんだろう……あれ。

「体調の変化はあるか?」
「え、あ……いえ。まだありません。」
「そうか。」

土方さんは真剣な様子で丸い紙を液体に触れさせた。
1滴、2滴と紙の上に染みが出来ると、たちまち緑色に変色する。

「…はぁ、緑反応を確認。」

溜め息と共に、聞き慣れないことを言った。

「緑反応って何ですか?」
「ん?ああこれは……、……いやお前に言ってない。」
「?」

何?

「うるせェ、黙って見張っとけ。」
「?…あの」
「こうなったのは全部お前のせいなんだからな。」

うっ…、

「あ、あのそれは」
「っせェよ!テメェが金目当てで妙な仕事を引き受けたからだろ!?」

え、ちょ…

「誰が感謝するか!あのジジイも含めて真っ白じゃねェんだからな!」
「…土方さん?」

何の話をしてるの?
まるで私じゃない誰かと話してるみたいだけど…携帯は持ってないし。

「アイツは一度将軍を暗殺しようとしてんだぞ!?」

……でもやっぱり、誰かと話してる?

「そんな奴を捕まえねェだけでも感謝し――」
「あああの、土方さん!」

腕を掴んだ。
ハッとするように目が合う。

「どうかしました?誰かと話してるんですか?」
「あ……ああ、…悪い。」

すまなそうにして、

「もう切る。」

自分の右耳に触れた。

「切る?」
「これだ。」

そう言って私に見せたのは、カナル型のワイヤレスイヤホンだった。

「電話…?」
「ああ。坂田に志義を見張らせてるんだが、ずっと通話中にしてたもんだから煩くてな。」
「ずっと、ですか…。」

じゃあさっきキスした時も…。

「……。」
「なんだ?」
「…いえ、何にも。」

大丈夫…だよね。

「でもどうしたんですか?それ。」

ワイヤレスイヤホンなんて真選組にはなかったはずだ。
いつの間に用意したんだろう。

「取り上げ…いや押収物だ、志義の。」
「えっ」

い、いくらなんでも容疑者の物を使うのは…。

「どうしても今回の作戦に必要でな。志義が捜査に協力したいって言うから、協力させてやった。」

まぁ土方さんがいいと言うのなら、いいけど。

……うん?
でも、なんか変じゃない?

「捜査に協力したいって…息子を捕まえてほしいって言ってるんですか?」
「ああ。」
「どうして…?」

あの人は息子の犯罪に協力するような親だ。
なのに、どうして突き放したりするの?

「諦めたんだよ、息子に期待することを。」
「期待って――」

問おうと口を開いた時、ドタドタと複数の足音が耳に入った。

「やっと来たか。」

溜め息混じりに呟き、土方さんが立ち上がる。
バンッと勢いよく開いた扉の先に居たのは、

「ふっ、っ、副長!はぁはぁ、っ無事ですか!?」

山崎さんを筆頭にした複数の隊士達だった。
妙にみんな息が切れている。

「遅い。」
「す、すみません。エレベーターは使うなと言われたので…。」

額の汗を拭う。
その後ろで隊士の一人が窓を開けた。
部屋に充満していた白い煙が外へ逃げ、真っ黒な夜空へ染まっていく。

「土方さん、ここって何階でしたっけ?」
「52階。」
「52?確かここは52階建てのマンションで…」
「その最上階だ。」

じゃあ山崎さん達は階段で52階まで上ってきたのか…。

「…それはキツかったですね。」
「キツかったっス…。」
「だからって住民の皆さんに迷惑をかけるわけにはいかねェだろうが。」
「副長の言う通りであります!」

山崎さんが涙目で敬礼した。

「副長、紅涙さんに怪我はなかったんですか?」
「ああ。」
「よかったですね!紅涙さん。」
「はい…、おかげさまで。参謀の私がこんなことになってすみませんでした。」
「いやいや、事件はどんなタイミングで巻き込まれるか分からないものですよ。」

やんわり微笑む山崎さんの笑顔が伝染する。

「ありがとうございます。」
「皆にも早く元気な顔を見せてあげてくださいね。特に沖田隊長は物凄く心配してましたから。」
「そう言えば総悟はどこに行ったんだ?」
「6階くらいまでは一緒に上ってたんですけど、途中で見失いまして…。」
「…戻りやがったな。」
「だと思われます。」

沖田さんらしい行動に小さく笑う。
真選組は変わらない。
私の身体に何があったか連絡は入ってるはずなのに…

真選組は、変わらない。

「……。」

優しさが嬉しい反面、胸が痛んだ。

「連行しろ。」

土方さんの声に視線を上げる。
煙が消えた部屋の中に、レイリさんが倒れていた。

「あまり強く揺らすなよ。エレベーターで慎重に運べ。」
「「はい!」」

どう見ても嬉しそうに隊士達が返事する。
早々に二人で担ぎあげようとすると、それを山崎さんが阻んだ。

「ああ待って待って。俺が運ぶよ。」
「いや、俺たちが行きますんで。」
「え、いいよ。俺が行かないと何かあった時にマズいし。」
「いやいや俺たちが」
「いやいや俺が」

押し問答する。
その魂胆を見透かした姿に、土方さんは苛立った様子で声を掛けた。

「山崎、お前は残って他の奴らと部屋の捜索しろ。」
「あ……はい。」

あからさまに肩を落とした山崎さんが引き下がる。

「じゃ、連行しまーす。」

隊士達はレイリさんを担ぎ、部屋を出て行った。
土方さんが溜め息を吐く。

「ところで紅涙、体調に変化はないか?」

変化…。

「そう、ですね。まだ特に何もありません。」

至って普通の体調が不気味なくらいだ。
いつどんな症状が出るかと思うと、気がおかしくなる。

痛みはあるのか、意識は保てるのか。
きっと苦しむことに間違いはないのだろうけど。

「…他の被害者も、こんな恐怖を味わってたんでしょうね。」

恐怖を重ね、逃れられない最期を悲しみ、望まない死を迎えていったんだろう。

「いや、この薬品を使ったのは紅涙だけだ。」
「え…そうなんですか?」
「レイリに薬品を提供した志義自身がそう話してる。」
「私…だけ……。」

よかった、…のか分からない。

「レイリが紅涙を最後の被害者にするつもりだったのは間違いない。」
「…どうして言いきれるんですか?」
「俺を下僕にすれば願いは叶うからな。志義にも『これが済めば医者の道に進む』と話して協力させていた。」

…つまり、

「志義さんはレイリさんに医師になってほしかった、と?」
「ああ。自分の跡を継いで欲しかったそうだ。」

単なる親バカだけでなく、
犯罪を犯してでも跡を継いでもらうために協力していたということ?

「…異常ですね。」
「親子で終わってるだろ?志義はレイリが一人暮らしを始める前から、何かに取り組んでいることに気付いてたんだ。」
“医薬品や医療器具を言われるままに提供してたんだから当たり前な話だがな”

…気付いていたなら、

「何をしてるか本人に聞かなかったんですか?」

志義さんが早く聞いていれば、今みたいなことは防げたかもしれない。
それとも聞いたところで現状は変わらなかったのだろうか。

「一応は聞いたらしい。会話は成立しなかったそうだが。」


『私ではそんな簡単な会話すら成立しないんですよ』


悔しそうに拳を握る志義さんの姿を思い出した。
一体どこから二人の関係は崩れてしまったんだろう…。

「志義は万事屋に頼んで、レイリを外に出すよう仕向けた。だがその頃には遅かったんだ。」
“アイツはもう『パーツを集める』という目的を定めていた“

…人を、創るために。

「じゃあその時私に接触しなかったのは、まだ土方さんを目的にしてなかったから…?」
「だろうな。レイリは一人暮らしを機に本格的な『実験』を始め、志義に求める薬品の種類が変わった。」

志義さんは少しずつ疑念を強めたそうだ。
その疑念を見過ごせなくなるのは、奇妙な遺体が河原で発見された時。
場所と遺体の特徴に、まさか息子が関係しているのか?と、ようやく真剣に向き合ったらしい。

けれども会話は不成立。
そこで『何をしているのか話さなければ薬品を渡さない』と強く迫ったところ、『人体実験だ』と聞かされたという。

「志義はそれを聞いて驚きはしたが止めなかった。」
「どうして……」
「ろくに口もきかない息子に『最後の実験に協力してくれ』と頼まれたからな。おまけに『終わったら医者になる』だから。」

志義さんにとって、この上なく嬉しい言葉だった…か。

「その『最後の実験』が紅涙、お前だ。紅涙を利用し、俺をどこまで扱えるか。」
「……、」
「だが志義には他人を巻き込むことに対する罪悪感が少しは残っていた。」

「だから」と土方さんが私の腕を取る。

「息子に嘘をついた。」
「嘘?」
「何か寿命を操れるような薬品はないかと聞かれ、あたかも偶然発見したように装い、どこにでもある薬品を提供した。」
「それって……」

腕のガーゼを取り、針の痕を見て「もう大丈夫そうだな」と言う。

「紅涙に投与されていた液体、あれは特別な何かじゃなく単なる点滴薬だ。」
「っえ!?」

単なる点滴薬…!?

「体調が悪い時に病院で打ってもらえる、あの点滴薬な。」
「じゃ…じゃあ私の身体は……」
「健康そのもの。むしろ今は俺より良いかもな。」
「な……、……、」

なんだ……!

「初めは半信半疑だったが、ちゃんと結果も出てる。一応は検査入院を――」
「よかった!」

嬉しい。
嬉しい嬉しい嬉しいっ!

「…ああ。ほんと、良かったよ。」

土方さんがフッと笑う。
そこに、

「ギャアァァ!」

山崎さんの叫び声が聞こえてきた。

「ききき気持ち悪ィィッ!!」

部屋の向こう側が騒がしい。
ドタバタする音と、「落ち着けよ山崎」と笑う声も聞こえた。

「ったく、アイツは…」

土方さんが立ち上がる。
私に手を出し、「立てるか?」と言った。

「…はい!」

土方さんの手を支えにして立ち上がる。
立ち上がって見た世界は、なんだか違って見えた。

「おいお前ら何遊んでんだ!」

隣の部屋に向かうと、山崎さんが青ざめた顔で「すみません」と謝る。

「髪の毛とか皮膚片とか色々出てきてるんですけど、生々しいのが出てきて…ちょっと……。」
「なんだよ、生々しいのって。」
「おそらく被害者の…小腸……かと……ッうぷ。」

思い出したのか、山崎さんは口元を押さえてバタバタと走って行った。

「副長、見ます?」

隊士の一人が瓶を持ってくる。
短めの布が掛けられていて、液体浸かる何かが瓶底に少しうかがえた。

「確認する。」

躊躇なく布を引き剥がそうとした土方さんの行動に、思わず視線を逸らした。

「…人の小腸だな。」
「か、河川敷で見つかった女性のものでしょうか。」
「おそらく。…よし、割れないよう慎重に運び出せ。」

布を被せ直す。
隊士は瓶を抱えるようにして運んで行った。
押収品は他にも多くあり、いくつものダンボールにギッシリ詰められている。

「やっぱり薬品や医療器具ばかり…。」
「実験のみに使われた部屋だからな。」

ダンボールの横には発砲スチロールも並べられている。
発砲スチロールにはラップを掛けたシャーレや、密閉袋に入れられた赤黒い液体…血液が大量に入っていた。

「被害者に関連する物がたくさん残っていそうですね。」
「物的証拠が多いのはせめてもの救いだ。きっちり揃えてやれば被害者も浮かばれるだろうよ。」

「逃さず徹底的に運び出せ」と指示を出す。
そんな土方さんの隣で部屋を見回していると、窓辺に掛かるカーテンの裏側に何かを見つけた。

「あれは……?」

近寄り、カーテンを開ける。
写真立てがあった。

「レイリと女か。」

自撮りしたらしき写真の中には、はにかむレイリさんと活発そうな女性が笑っている。

「この人がレイリさんの忘れられない彼女…、…あれ?」
「どうした。」
「そもそもの始まりは失恋…でいいんですよね?」

志義さんが万事屋へ依頼に行った時はそういう話だった。
だけど、レイリさんは部屋で『何か』をしていたから引きこもっていた。
落ち込んで引きこもっていたわけじゃないのなら…

「失恋は嘘で、志義さんが世間体を考えて適当に作った話…?」
「いや、そこは嘘じゃない。ただレイリはフラれて失恋したわけじゃなかった。」
「?」
「会えなくなったんだ。それをレイリは志義のせいだと思ってる。」

何それ…。

「なら探して捜査協力してもらいましょうよ。彼女と話をさせれば、きっと彼の心情も…」
「それが出来れば楽だがな。」
「…出来ないんですか?」

首を傾げた時、

「ちょっと待て。」

土方さんが私を手で制した。
懐から携帯を取り出す。

「もしもし。」

着信していたらしい。

「…ああ。わかった、今から行く。」

二言三言を交わし、すぐに電話を切った。

「どこに行くんですか?」
「志義の家だ。向こうも家宅捜索させてたんだが、色々と出てきてるらしい。」
「じゃあすぐにでも行きま――」
「俺が行ってくる。紅涙は病院に行け。」

私の答えを予想していたのか、言い切る前に畳み掛けられた。

「…私も志義さんの家に行きたいです。」
「ダメだ。一刻も早く本当に大丈夫なのか検査してこい。」
「私も被害者として…参謀として、最後まで事件に関わりたいんです。」
「………はぁ。」

溜め息を吐いた。
この溜め息はよく知っている。

私を、

「わかった、行くぞ。」

受け入れてくれる溜め息だ。

「まァ丁度いい。見ればレイリの女に会えない理由も分かる。」


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