32


心の底



志義家へ向かうため、
私と土方さんは室内の捜索を山崎さん達に任せて1階へ下りた。
捜査での使用が禁止されているエレベーターで。

「他の隊士に見られたらマズくないですか?」
「被害者である紅涙が乗ってるんだ、話は別だろ。気が咎めるなら体調悪い顔でもしてろ。」
「えー、嫌ですよ。せっかく何ともなかったんですから、皆に元気な姿を見せたいです。」

これほど健康な身体を嬉しく思ったことはない。
何もなくて本当に良かった。

「そう言えば皆はどこまで知ってるんですか?」
「『どこまで』って?」
「私が拘束されていることや点滴を打たれていたことは知ってます?」
「当然知ってる。ただの点滴薬だったことも含めてな。」
「もうそんなことまで…」

って、そうだった。

「土方さんが突入する前から把握してたんでしたっけ。」

志義さんの自白を得てから起こした行動だ。
既に情報は共有されている。

「まァある程度は把握していたが、外の奴らには随時メガネを通して……あ。」
「?」

ふと、土方さんがメガネを触った。

「外すの忘れてた。」
「もういいんですか?」
「ああ。」

メガネを折りたたむ。
フレームの隅を指さし、「ここにな」と言った。

「カメラが付いていて、中の状況を中継してたんだ。」

…えっ!?

「そんなハイテクなメガネだったんですか!?」
「ハイテクっつってもカメラが付いてるだけだがな。」
「な…なんだか私のいない間に真選組が未来化してる…。」

だからメガネ掛けてたのか…。
皆がカメラを通して見ていたのなら、そりゃあ私の健康状態も知ってて当然…

……、
…………。

「え、」

やだ、待って。
メガネから様子が送られてたなら、キ、キスの時も映してたってこと!?

「……。」
「紅涙?」

ああっ…ダメだ、これはヤバい。
こんな状態で皆に会えない。合わせる顔がない!

でもそういうわけにもいかないし…
せ、せめて考えないようにしていれば、普通に振る舞えるようになるかも…。

「そ、そそそれにしても、いつの間に」
「なんだ、急にドモッたりして。どうした?」
「いいいえ、あの、い…いつの間にそんな道具を手に入れたんですか?」
「ああ、この道具は――」

いや待てよ、
あの状況を見られていたとは限らないんじゃ…?

土方さんが操作して映していなかったかもしれない。
……覚えている限り、操作してる様子はなかったけど。

でも万が一、見られていたとして。
よくよく考えれば全て任務の合間の話だ。
きっと皆も必要不可欠な流れだったと、見て見ぬふりをしてくれる……

「王子様のキスで治りやしたかィ、紅涙。」

してくれなかった!

エレベーターを降りてすぐ、沖田さんに声を掛けられる。
壁に背を預け、腕を組んで待ち伏せていたらしい。

「何サボってたんだ、お前は!」
「失礼な話でさァ。俺ァしっかり仕事してやしたぜ。」
“どこかのイチャつくお二人さんとは違って”

じっとりした視線を向けられ、顔が引きつる。
しかし土方さんは平然と返した。

「イチャつく?んなことする暇あるわけねェだろ。」

欠片も後ろめたさがない。
おそらく土方さんにとって、あれはキスに入らないのだろう。
あくまで私を落ち着かせる行為。
言わば頬を引っぱたくようなものと同じなんだ。

…あ、なるほど。
私もそう思っていれば、平然としていられるような気がする。

「沖田さん、心配かけてごめんなさい。」
「なんですかィ、急に。」
「山崎さんから『すごく心配してた』って聞いたので。」
「山崎の野郎……。」
「不甲斐ない参謀ですみませんでした。」

頭を下げる。
沖田さんは壁に背を預けたまま、フンッと鼻で笑った。

「謝って済ますたァ、ちと簡単すぎやせんか?」
「え?じゃあどうすれば…」
「そうですねィ、俺と今夜あたりに一発――」

――ゴンッ

人差し指を出した沖田さんに、土方さんがゲンコツを落とした。

「いったァァ!」
「調子乗るな。」
「俺ァ紅涙が詫びたいっつーから言おうとしただけで…」
「被害者につけ込むんじゃねェよ。」

「あと、」と私を見る。

「お前もだ、紅涙。もう謝るな。」
「だけど私のミスで皆に迷惑を……」
「ミスじゃねェ。今回の件は成るべくしてなった。」
「でも」
「『でも』も『だけど』も禁止。もう絶対謝るなよ。」
「…わかりました。」

頷いたものの、やっぱりそうはいかない。
落ち着いたら土方さんのいない日を見計らってお詫び行脚でもしよう。

「総悟、とっつぁんに連絡はしたのか?」
「しやしたよ。何人か向かわせるから、そいつらに引き渡してほしいとか何とか。」
「了解。」
「あの、レイリさんは今どこに?」
「救急車で検査中でさァ。特に異常がなければ、目ェ覚めるまでそのまま待機させる予定。」
「志義の様子はどうだ?レイリには会わせてねェんだろ?」
「会わせてやせん。ずっと旦那が見張ってますが、目立った変化はないみたいですねィ。」
“あそこのパトカーで静かに事の顛末を見守ってるかと”

沖田さんがクイッと親指を外に向ける。
マンションの前に3台のパトカーが停車していた。
周辺には何人もの隊士が行き交い、警戒に当たっている。

「なんだか物々しい雰囲気ですね…。」
「それだけの事件だったんだよ。レイリは分かってるだけで2人も殺してるしな。」

そうだよね。
今となっては何事もなくここにいるけど、
私もあの点滴が本物なら、殺されたと同じようなものだった。
癪だけど、そういう部分では志義さんに感謝しないと。

「志義に会いますかィ?」

沖田さんが問いかける。
土方さんは頷き、私を見た。

「紅涙はここで待ってろ。」
「私も行っちゃダメですか?」
「いいけど…お前はいいのか?思うところがあるだろ。」
「大丈夫ですよ。私も志義さんの様子には興味があります。」

自白によって息子を逮捕された彼の心情が気になる。
志義さんはレイリさんの犯罪に加担したにも関わらず、捕まった瞬間に警察側についた。

親バカなほど息子思いの父親が、どうして少しも庇おうとしなかったんだろう。

もしかしたら『医者を継がせるため』というのは口実で、
本当は何か他の物を得るための行動だったんじゃないだろうか。

…なんて、考えすぎかな。

「マンションを出て右側に横付けしてあるパトカーに乗ってますんで。」
「わかった。」

土方さんと二人で外に出る。
するとすぐに、

「ワゥンワゥン!」
「おーい、こっちアル〜!」

犬の鳴き声と、覚えのある口調が聞こえてきた。
声の出処はマンションの右側。
沖田さんが言った通りの場所に、パトカーと大きな白い犬がいた。

「こっちこっちー!」

犬の隣で神楽ちゃんが手を振っている。
が、彼女はパトカーの屋根に座っていた。

「コルァァ!チャイナ娘!」

土方さんがカツカツと強い足音を鳴らしながら近付き、指を差して『下りろ』と告げる。

「何やってんだ!そこは座るとこじゃねェだろうが!」
「中が狭いから仕方ないネ。リムジン買えヨ。」
「走りにくいわ!おら、どけ!」

しっしと手で払う。
神楽ちゃんは軽々と飛び降りて、私の前にやって来た。

「アイツに酷いことされなかったアルか?」
「うん、大丈夫。協力してくれてありがとう、神楽ちゃん。」
「何かあったらすぐ言うヨロシ。私と紅涙の仲ネ、安くするアル。」

し、しっかりしてるなぁ…。

「ありがとう、その時はよろしくお願いします。」

「おいおいおーい。」

車の中から声が聞こえ、ゆっくりと窓が開く。
気だるそうな坂田さんが溜め息混じりに口を開いた。

「勘弁してくれよ、ハレンチ警察さんよォ。」

はっ…

「ハレンチ!?」
「うちは何かと発達してないお子様が2人もいるもんでね。」
“ああいうことされると刺激が強すぎるわけよ”

「わかる?」と手首を捻り、人差し指で私達をさす。
その隣では志義さんが苦笑いを浮かべて頭を下げ、
最奥の新八君は少し頬を赤らめながらメガネを触り、私達に会釈した。

「神楽に見せねェようにするのは大変だったんだからな。車内も超気まずいし。」
「何の話だ。」
「何ってお前が」
「いやいやいや!この話は広げないでおきましょうよ!」
「紅涙は何の話か分かってんのか?」
「分かってます!でもそれより今は仕事しないと!」
「……そうだな。」

土方さんが渋々諦める。
ホッと息を吐いた時、志義さんが「紅涙さん」と呼んだ。

「この度は申し訳ありませんでした。」

頭を下げる。

「犯罪だろうと何だろうと、医学に興味を持つレイリが嬉しくて私は…」
「どうしてそこまでして跡を継がせたかったんですか?」
「あの子のためです。いつか私が死んだ後も、不自由なく暮らしていけるように。」

志義さんは膝の上で拳を握った。

「レイリにはあんな液体を信じてしまう程度の知識しかありません。けれどあの子は社会に出られない。」

両手首に繋がれた手錠が音を立てる。

「だから私はどうにかレイリに跡を継がせようと――」
「勝手に決めつけんなよ。」

土方さんが懐から煙草を取り出した。

「レイリが社会に出れないと思ってるのは、アンタの勝手な決めつけだ。」

煙草に火をつけ、ふぅと煙を吐く。

「人間っつーのは必要に迫られたら何でもするし、始めなければ生きていけないことにも気付く。」
「……、」
「そこをすっ飛ばして医者にするのが息子のため?バカだろ、お前。」

吐き捨てるように笑い、

「そもそも患者を何だと思ってんだよ。」

睨みつけた。

「今のまま医者になっても被害者を増やすだけだ。レイリに罪を重ねさせる気か?」
「まさかそんなこと…」
「医学の世界に入らせたところで一生が保証されるわけでもねェだろ。」
“そこも想定して『息子のため』つってんだろうなァ?”

志義さんは目を伏せ、黙り込んだ。
ひどく反省しているように見える。

行動の根源は、やはりレイリさんのため。
ならどうして逮捕される息子を庇おうとしなかったんだろう。

「なぜ志義さんは…自白したんですか?」
「『なぜ』と言いますと…?」
「警察の私がこんなことを言うのは変ですけど、そこまでレイリさんを気にかけるあなたなら、罪をかぶろうとしてもおかしくないと思うんです。」

息子がやったことではない、と。
私がしたことなんだと罪をかぶることも出来たはず。

「それをしなかったのはどうしてですか?」
「ああ…、…。」

一度視線を落とし、志義さんはフッと笑った。

「レイリは嘘が下手だからですよ。」
「…え?」
「こんなことになってしまいましたが、あの子は何をとっても真っ直ぐな子なんです。生き方も、考え方も。」

手首の手錠を触り、懐かしむように話す。

「だからいくら私が嘘を吐いても、きっと容易に暴かれてしまう。」
“つまらないことをして勾留期間を延ばすのは、あの子のためになりません”

目を細めた。
彼は今、脳裏に映るレイリさんを見ているのだろう。

「何より可哀想じゃないですか、そんなことに時間を割くのは。」

…?

「可哀想?」
「勾留期間は刑期に含まれませんよね?なら長引かせるだけ無駄な時間を過ごさせてしまうということ。」

無駄な時間って……

「少しでも早く罪状が確定すれば、より早く刑期を終わらせ、罪を償わすことが出来る。そう思って自白したんです。」

なんて親だろう。
いや、『親』じゃない。

こんな人は『親』じゃない。

「反吐が出る。」

土方さんが低い声で言った。

「善人ぶってんじゃねェよ。」
「そんなつもりは…」
「被害者は死んでんだぞ。お前が遺族ならそんな風に言われてどう思う。」

煙草を噛みちぎりそうなくらい苦い顔をして、「俺なら」と続ける。

「俺ならお前ら二人をブチ殺してやりてェと思うがな。」

土方さん…。

「知らねェなら教えてやるよ。刑期を終えることが償いじゃない。償いに終わりはない。」
「…はい。」
「犯罪者の身分で出所後の人生を期待するような発言は二度とすんな。」
「……申し訳ありませんでした。」

頭を下げる。
志義さんの考え方を知って、心底このタイミングで逮捕できて良かったと思った。

もし野放しにしていれば、これからどれほどの惨事を起こしていたか分からない。

「坂田、お前も黙ってないで何か言え。」
「え、ここで俺ェ!?つかもう一通り言われちまったし、そもそも俺警察じゃねェし!」
「いつもなら勝手に口挟んでくるじゃねーか。」
「んなことねェよ!ちゃんと身の程をわきまえて生きてるしー。」

坂田さんが口を尖らせる。
その奥で新八君が窓の外を指さした。

「あれっての警察の人達じゃないですか?」

指された先を見る。
こちらに向かって歩いてくる三人の男性が会釈した。

「松平長官から指示を受けた者ですが。」
「お疲れ様です。志義三郎の件ですよね。」
「はい。今この中に?」
「ええ、引き継ぎます。」

パトカーのドアを開ける。
おそらく逃走はしないだろうが、坂田さん達に両サイドを固めてもらった。

「腰綱をつけるから直立しろ。」

志義さんを外へ出し、逃走防止用の腰綱をつける。
その合間、志義さんはずっと目線を下げたまま静かに立っていた。

「あっちはいつ渡せばいい?」

土方さんが親指で後ろをさす。

「検査に異常もなさそうだし、あと1時間すれば起きると思うんだが。」
「それでしたらこちらの移送が完了次第に連行しましょう。」
「よろしく頼む。」

「行くぞ」と促され、志義さんが歩いていく。
背を丸める姿は、これまでの歩き方とまるで違った。
ようやく事の重大さに気付き、自分の行いがのしかかっているせいかもしれない。

そんな背中を見送っていると、

――ピピピ、ピピピ

土方さんの携帯が鳴る。

「もしもし?…そうか、わかった。」
「誰からですか?」
「総悟。レイリが目ェ覚ましたって。」

えっ。

「早くね?」

坂田さんが言う。
見れば鼻に小指を突っ込んでいた。

さ、坂田さん…。

「……。」

土方さんもじっとりした目で見ている。

「あァ?なんだよお前ら、同じような顔して。」
「いえ…」
「べつに。」
「紅涙さん、土方さん、すみません。この人、真剣味に欠ける人なんで。」

新八君がペコペコと頭を下げる。
神楽ちゃんは「なんでアルか」と言った。

「なんでアイツは起きるの早かったアルか?土方がクソだからアルか?」
「違ェわ!レイリは睡眠薬を常用してるらしいから、あの煙の効果が薄かったんだろうって話だ。」

土方さんが煙草を消す。

「じゃあちょっと会ってくるから。」
「私も行きます。」
「なら俺達は帰るんで。」

坂田さんは右手を出し、「じゃ」と言って背を向けた。

「待てコラ。」

すかさず土方さんが坂田さんの着物を掴む。
うなじ辺りの着物を引っ張ったものだから、坂田さんの首が想像以上に絞まった。

「ぐぼぇっ!」
「何勝手に帰ろうとしてんだ、あァん?」
「もう事件は"しまい"だろうが!貸しは十分に返したぞ!」
「まだ完済してねェだろうが。」
「どこまでコキ使う気だよ!」

土方さんの腕を振り払う。

「こちとら釣りを貰ってもいいくらい働いてやったんだからな!」
「へェ…。まさかと思うが、忘れんてんじゃねェだろうな。」
「何を。」
「本来なら犯歴がつくようなもんを、俺達は黙ってやってんだぞ。」
「うっ…、……。」

坂田さんは右頬を引きつらせたまま固まる。
そんな坂田さんの肩を、新八君が慰めるようにポンと叩いた。

「銀さん、仕方ありませんよ。自業自得です。」
「…俺、もう二度とネットなんてしねェわ。」
「それがいいです。」

溜め息を吐く。

「土方さん、僕たちは何をすればいいんですか?」
「黙ってここで待ってろ。」
「待ってどうすんだよ。」
「いいから黙って待っとけ。紅涙、行くぞ。」

疑問符だらけの万事屋一行を残し、私と土方さんはレイリさんの元へ向かった。

「状況はどうだ?」

救急車の前で立っていた沖田さんに声をかける。

「落ち着いてまさァ。具合も良いみたいなんで、手錠をかけときやした。」

話しながら救急車のスライドドアを開ける。
そこには担架に座るレイリさんがいた。

「…ひどいですよ、土方。」

開口一番、そんなことを言って笑い出す。

「準備万端で攻めに来てたなんて。」
「なんの策も立てずに行くわけねェだろうが。」
「ははは、ですね。あなたはあんな場所に手ぶらで乗り込むような男じゃない。」

レイリさんは「分かってたのになぁ…」と呟く。

「紅涙さんが絡めば頭が真っ白になると読んでしまいました。」
「無計画にすっ飛んで行ってたら、問答無用でお前のことを叩き斬ってたよ。」
「なるほど。どの道、僕の願いは叶わなかったというわけですか。」

顔に笑みを残したまま、目を伏せる。

「一対一なら、どうにか手懐けられると思ったんですがね。」

その表情が、先程見た志義さんと重なった。

「お前の読みは始まりから当たってねェよ。」
「始まりから?」
「一対一という状況自体が不可能だ。」

レイリさんが小首を傾げる。

「紅涙を心配してるのは俺だけじゃない。」

土方さん…。

「この有様から分かるだろうが、俺一人で手柄を立てようにも他の奴らが否応なしに付いてくる。」

みんな…。

「だから俺とお前が一対一で対峙する機会自体、不可能なんだよ。」
「……羨ましい話です。」

フッと笑い、レイリさんが私を見た。
向けられた眼に笑みはない。

「紅涙さん、あなたは恵まれている。」
「……。」
「身を案じてくれる仲間が傍にいて、あなたを愛し、あなたが愛する人まで傍にいる。」
「それはお前もだろ、レイリ。」

視線が土方さんに移った。

「僕が何です?」
「お前にもいるじゃねェか。心配してくれる人間も、お前を愛する人間も。」
「…どうせアレのことでしょう?何度も言いましたが、僕はあの存在を認めてませんので。」
「なら顔見知りのオッサンにでもしとけ。相手が誰であれ、お前を思う人間がいるってことが大事なんだ。」

それに、と続ける。

「バカなことばっかりしてると、女が泣くぞ。」
「女?誰のことですか。」
「今でも好きなんだろ?あまり心配かけてやるな。」
「……。」

レイリさんの顔から表情が消えた。
少し黙り、口を開く。

「…何があっても関係ありませんよ。もう会えないんですから。」
「会えなくてもいいじゃねェか。想うのは自由だ。」
「………。」

口を閉じる。
レイリさんはそれっきり一言も話さなくなった。

「…坂田。」

救急車のドアを閉め、土方さんが坂田さんを呼びつける。

「はいはいなんですかねー、バ主人様。」
「銀ちゃん、バ主人て何アルか?」
「バカなご主人様のことだ。」
「銀さん!また余計なことを言ったら――」
「そうか、お前は逮捕されたいんだな。」
「ほら〜。」
「……何だよ、用事は。」

土方さんが救急車をアゴでさす。

「総悟と一緒にレイリを見張ってろ。」
「はァ〜?見張りなら沖田君だけで十分でしょーが。」
「目はいくらあってもいいんだよ。」

「いいか?」と坂田さんに詰め寄る。

「俺と紅涙はこれから志義の家へ行く。お前はアイツを今の状態で引き渡せるようにしておけ。」
「今の状態って、なんもしなくていいんだろ?」
「いい。ただ引き渡すまでに逃がすか死なせた場合は、一生後悔させてやるからな。」

坂田さんの隣で、新八君が「ヒィィ!」と身震いした。

「総悟、お前も注意しとけよ。」
「へいへい、わかりやした。」

軽く手を上げる。

「よし、じゃあ紅涙。行くか。」


志義さんの家は、ここから車で30分ほどの隣町にある。
パトカーを走らせている最中、土方さんから着いた先での警告を受けた。

「これから見るもんは、おそらく大半が気分の良いものじゃない。」
「それってやっぱり実験関連…、ですか?」
「そう…だと思う。俺も確認してないから断定は出来ないが、気分が悪くなったら無理せず外に出ろよ。」
「は、はい…。」

レイリさんは自室にこもって実験していた。
前例があるだけに、出てくるものはなんとなく想像がつく。

けれど行方不明者だった女性とキリノさんの二人は、
レイリさんがマンションで一人暮らしを始めてから対象となっている。

他に行方不明者が出ていないということは、
レイリさんの部屋にあるのは人間以外の生き物…といったところだろうか。

「…最低。」

思わず口に出た。

「だな。」

土方さんも頷いた。

そして、

「副長、紅涙、お疲れ様です。」

私達は家宅捜査していた原田さんに出迎えられる。
玄関先に立っていた彼の姿が視界に入った途端、嫌な予感がした。

「土方さん、あれって…。」

原田さんは布を掛けた大きな瓶のような物を抱えている。

「…見覚えがあるな。」

布の丈は短い。
近づけば瓶底が容易に窺えた。

…これは、

「1日に2回も見ることになるとはな…。」

マンションで見た時と同じ、液体浸かる小腸だった。


- 33 -

*前次#