おめでとうございます!

 楽屋に入るなり飛んできた俺たちの声に、一瞬動きが止まる太一くん。すぐに表情は崩れ、目尻の皺が表れた。

「お前ら、突然何だよー。びっくりさせんなよ。」

 そう言いながら、一番近くにいた俺の肩をバシバシ叩く。照れ隠しだって分かりやすい行動に、俺たちの顔も柔らかくなった。

「太一くん、ご結婚、おめでとうございます。」

 リーダーが代表で花束を渡す。ピンク色をベースとし、ガーベラや薔薇、カーネーションなどでまとめられている。形はなんとハート型。「感謝とおめでとうを表したいなぁ。」と言っていたあいが、花言葉を調べ、花屋さんで相談して作ってもらった。いい年した男がハートの花束を持つというのも、シュールな気がするが、おめでたい席だから気にしないことにする。

「なんだよー。こんなことされると照れるだろ。」

 嬉しそうに、でも恥ずかしそうに花束を受け取る太一くん。その顔には誰が見ても幸せだって書いてある。

「本当におめでとうございます。びっくりしましたよ。」
「いやー、悪い悪い。でも、こうして来てくれて嬉しいよ。ありがとう。お前も色々あるだろうけど無理すんなよ。」

 一歩前に出て頭を下げた翔ちゃんと握手しながら、太一くんが優しい声で告げる。キャスターという仕事をしているからこその言葉かもしれない。太一くんの言葉に力強く頷いた翔ちゃんが、後ろに下がる。

「いやー、太一くん。おめでとうございます。やっとですか。」
「ニノー。ありがとう。ホントだよ。ここまでこれたんだって。また話聞いてくれよな。」

 ニノとよく食事に行くという二人の会話。するりと懐に入るニノは、太一くんの悩んでいたこととかも知っていたのかもしれない。いつもより目を細めているニノがちょっと感動してること、付き合いの長い俺には分かる。

「太一くん、おめでとうございます。ホント、カッコイイです。」
「松潤のかっこよさには敵わないよ。でも、ありがとう。俺だってやるときはやるよ?」

 ちょっと悪戯っぽい顔でにやりという太一くんに、無邪気な笑顔で笑い返す松潤。先輩の喜びを自分のことのように感じているのだろう。

「おめでとうございます。今度鯛が釣れたら送りますね。」
「お前、ちゃんと捌いて送ってこいよな。松岡の時みたいに丸ごと送ってくんなよ。笑」

 顔を見合わせて笑いながら握手するリーダーと太一くん。気遣いの人、太一くんは、リーダーといると安らぐようで子どもっぽい顔を見せた。

「太一くん、おめでとうございます。幸せになってください。」
「あい……。お前、泣くなよー。この花、ありがとな。あいが選んでくれたんだろ?」

 お祝いの言葉を言うなり俯いてしまったあいを、太一くんが優しい眼差しで見つめる。頭をぽんぽんと叩くと、そっと背中に手を回してふんわりと抱き寄せた。

「ほら、お前が泣くと、メンバーがおろおろするから泣き止んで。みんな、あいの笑顔が好きなんだから。」

 太一くんの言葉に泣き笑いを返すあい。それを見守る太一くんは、いつものお兄さんの顔をしている。

「お前にもいつか、ちゃんと幸せになって欲しいよ。」

 そこに含まれるのは、女性としての幸せを掴んで欲しいという願いだろう。もしかしたら俺たち以上に厳しいかもしれないあいのその時。俺たちはどう考え、どう行動するのか。今は正直考えられないし、考えたくないというのが本音だ。それでも、その笑顔が曇らないようにとは強く願う。

 太一くんの言葉に何度も頷き、しゃくり上げながら、握手をして戻るあいと入れ替わりに、俺は前に出た。

「太一くん……。おめでとうございますっ!」

 そう言うなり次の言葉が続かない。伝えたいことはたくさんあるのに、何も出てこなくて唇を噛みしめる。

「相葉……。お前には心配かけたな。ホントにありがとね。」

 太一くんの手が肩にかけられる。その温もりにこみあげてくる涙が止まらない。
 脳裏に浮かぶのは、数年前の太一くんの姿。二人で飲みに行った時、一言だけ零した太一くんの本音。


『好きな女一人、幸せにできないなんて情けないね。』


 それが誰を指していたのかは分からない。太一くんの涙のように流れた言葉に、反応できない俺へ苦笑いを返して酒を煽った姿。たった一度だけ見た、先輩の哀しみ。
 その頃の太一くんが抱えていたものは、俺には想像もできないけれど。胸を締め付けられる、息が止まるような感覚だけはずっと離れなかった。

「また飲みに行こうぜ。」

 そう言って目の前で笑う先輩は、翳りのない晴れの日みたいな笑顔で笑っていて。あの日の哀しみが昇華されていくのを感じた。

「ぜひ!」

 涙を左腕で乱暴に拭って固く握手を交わす。ずずっと鼻をすすりながら後ろへ下がると、涙で濡れた左手が小さな手でギュッと握られた。
 驚いて目だけで隣を見ると、同じように涙で濡れた瞳であいが泣き笑いしてた。

「忙しい中、わざわざありがとうね。きっと彼女も喜ぶよ。」

 俺たちを見回して感謝の思いを伝えてくれた太一くん。その顔に浮かぶのは大切な人への愛。
 そう、それは誰が見ても愛に満ちあふれた笑顔だった。

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