ジェットコースターで絡めた指
□ side A
遊園地デート初めは俺。トップバッターの特権であいと手を繋いでアトラクションまで歩く。俺たちが乗るのはジェットコースター。
「あいはジェットコースター好きだったっけ?」
「うん! 高いところから一気に落ちるのがたまんないんだよね」
満面の笑顔を向けてくる彼女に目を細める。心を許した瞬間にだけ見られるこの笑顔が、俺は大好きだ。
「でも、ジェットコースター乗るのって何年ぶりだろ?」
「ジュニアの頃以来じゃない?」
「あー、多分そうだね。ニノと三人で夢の国行って以来かな」
「あれ、楽しかったよね。大変だったけど」
あれは嵐としてデビューする一年くらい前。レッスンが突然事務所の都合で無くなり、俺たちの時間がぽっかり空いた。言い出したのは……多分俺。せっかくの空き時間だし、みんなで遊園地でも行こうと提案した。嫌がるニノを俺とあいで引きずって行ったんだ。そして暗闇の中のジェットコースターとか、水飛沫を上げるジェットコースターとか色んなものに乗った。ジェットコースターの苦手なニノがお腹痛くなったり気分悪くなったりして慌てたのも、いい思い出だ。
今では到底できない経験。それくらい俺たちを取り巻く環境は変わっている。少しだけそれを寂しく感じた。
「今日は思いっきり楽しもうね」
俺の表情の変化に気づいたのか、あいが繋いだ手を少し強く握った。顔を覗き込まれて告げられた言葉に、胸が温かくなる。
「もちろん! テンション上げていくよ!」
手を握り直し、前後にブンブンと振る。「痛いよー」と笑いながら言う彼女に、絶対楽しくなる予感がした。
「……ちょっと緊張してきた」
ジェットコースターに乗り込み安全バーが装着される。それに手をかけたあいの表情は少し暗い。
「あれ? さっきまで平気そうだったのに、どうしたの?」
「久しぶりすぎて、なんか怖いかも……」
不安そうな顔になったあいの手をやんわりと握る。
「じゃあ、こうやって手、繋いでおこっか。怖くなったら強く握っていいから」
俺の手の中で彼女の小さな手がもぞもぞと動き、指が絡められた。俗に言う恋人繋ぎってヤツだ。
「俺がいるから大丈夫だよ」
そう告げると、ジェットコースターはゆっくりと発進した。
小さな上り下りを繰り返し、徐々に高度は上昇する。ここまでの上下で少し慣れてきたのか、あいの表情も和らいできたようだ。
「相葉くん、やっぱりジェットコースター楽しいね!」
言った途端、彼女の手が強ばるのが分かった。そう。このコースターの目玉でもある、最大落差70mを生む上り坂を昇り始めたのだ。
「あい。ほら、景色がすっごく綺麗だよ。見てみなよ」
落ち着かせるよう指を撫でながら話しかける。今日は晴天。高度が上がるにつれ、遠くまで見渡せた。
「ホントだ。海まで見える!」
気が紛れたのか声の調子が戻った。そしててっぺん。
「ほら、一緒に叫ぶよ。せーの!」
一瞬の空を飛んでいるかのような浮揚感。続けて襲いかかってきたのは強烈な重力。揃ってキャーともギャーとも言えぬ声で叫びながらそれに耐える。繋いだ手はこれでもかというほど強く握られ、あいに頼りにされてるようで嬉しくなった。
「あー、楽しかった」
コースターから降りて呟く彼女。でも、少し様子がおかしい。
「……足がガクガクする」
眉を下げて困った顔をしながら申告した。
「ほら、下まで連れてってあげるから、おぶさりな」
しゃがんであいの方へ背中を向ける。戸惑う気配を感じたけど、気づかないふりをした。
「……ご迷惑をおかけします」
背中に温かさを抱え、俺は慎重に階段を下りた。
ジェットコースター近くのベンチにあいを座らせて、自販機へと足を運んだ。あいが好きなオレンジジュースは乗り物酔いには良くないので、サイダーにしておく。炭酸水は胃の調子を整える作用があるらしい。
あいの元に戻り、ペットボトルを頬に当てる。「キャッ!」と驚いたものの、その冷たさに気持ちよさそうな顔をした。
「ちょっとはマシになった?」
「うん。相葉くんのおかげだよ。ありがとう!」
笑顔でお礼を言う彼女の前にしゃがみ込む。ポケットから出したアンクレットをあいの左足首につけた。
「え? 相葉くん?」
混乱する彼女の足首を飾るのは、繊細なジルコニアのチェーン。控えめに光るティアドロップチャームがあいのイメージとぴったりでこれに決めた。ロールアップデニムの足元が俺の贈り物で飾られた。左足首のアンクレットは恋人がいるという意味を示すらしい。ささやかな俺の主張に、君は気づかなくていいから。
「似合ってる」
微笑みかけて頬にキスする。彼女の左手に右手を絡めた。この時間だけは、君は俺のものだ。
ジェットコースターで絡めた指が、俺の気持ちも絡め取る。
これからも共に歩いて行こう。そんな決意を指先に込めた。
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