メリーゴーランドで重ねた手
□ side O
遊園地デート二番目。俺はあいが来るのをメリーゴーランドの前で待っていた。ふと目を遣ると、小走りで近づいてくる彼女の姿。
「ごめん、智くん。待った?」
「大丈夫。そんなに待ってないから」
こんな会話は新鮮で、自然と頬が緩む。
「なんかデートみたいだね」
「だって今日はデートでしょ?」
首を傾げて彼女を見ると、小さな微笑みが返ってきた。
「そうだね」
「一緒に楽しもっか」
笑い合って手を繋ぐ。柔らかな彼女の温もりに安心した。
「メリーゴーランドなんて、小さい頃から乗ってないよ」
「俺は、乗った記憶がない」
目の前でくるくると回る乗り物を見ながら話す。おとぎ話の中に迷い込んだような音楽とメルヘンチックな馬。それだけで一気にファンタジー色がいっぱいだ。
「……これ、テレビ的にセーフかな?」
「年齢的にはアウトだね」
顔を見合わせて苦笑する。30も半ばになろうとする俺に、メリーゴーランドはきつくないか?
「智くん、気にしたら負けだよ」
開き直った表情のあいが小さく呟く。それに頷き、俺たちは場内へ足を進めた。
「どうせなら白馬の王子様でしょ」
あいに言い切られて、俺は白い馬に乗ることになった。彼女は隣の茶色い馬。高い位置で止まった馬に跨るのは大変そうで、隣から引っ張り上げた。
「ありがとう。智くん、王子様感出てるよ」
からかうような笑みを浮かべた彼女に、ウインクを一つ。
「うわー。ますます王子様!!」
ケラケラ笑う彼女の声が合図のように、メリーゴーランドはゆっくりと回り出した。
俺たちの乗った馬は上下しながら、回転速度を上げていく。外の景色を見ていると酔いそうだったので、隣のあいの顔を見つめることにした。
「智くん、何でこっちばっかり見るのよ」
見つめられて落ち着かないのか、口を尖らせたあいが恥ずかしそうに言う。
「あいが可愛いから」
即答すると頬が赤く染まる。ホントに可愛い。できるなら今すぐここから降りて抱きしめたい。
「そんな照れる台詞言わないでよ」
恥ずかしさが頂点に達したのか、馬のたてがみに顔を埋めてしまった。
「あーあ、せっかくの可愛い顔が見られなくなるじゃん」
素直に言っただけなのに、隣から飛んできたのは「バカ!」という小さな声で。俺はふふふと笑みを零した。
「あー、恥ずかしかった」
止まった馬の上で呟く彼女。始まりと同じように高い位置で止まったため降りにくそうだ。
「ちょっと待ってて」
先に降りてあいの馬の下に回り込む。手を差しだそうとして目に入ったのは、左足首のアンクレット。そう言えば、相葉ちゃんのプレゼントだったっけ。
あいの足首を飾るそれは、センスが良いと言わざるを得ない。主張しすぎず、控えめすぎず、彼女によく似合っている。相葉ちゃんがあいのことよく分かっている証のようで、少しだけ嫉妬した。だからちょっと対抗したくなったんだ。
「姫、お手をどうぞ」
馬上のあいへ向けて右手を差し出しながら、とびっきりの笑顔を浮かべる。今だけは俺のお姫様でいてくれるでしょ?
「……破壊力抜群」
ボソッと唇に乗せた言葉を体現するかのように、真っ赤になった彼女の手を取り、ゆっくり馬から降ろした。
場内から出ようとすると、馬車が目に止まった。メリーゴーランドって馬だけじゃないんだなとぼんやり考えていると、あいが俺の視線の先を追った。
「ね、ね。ちょっとだけ馬車にも乗ってみようよ」
あいに手を引かれ、小さな馬車に乗り込む。向かい合って座ると、膝がくっつきそうな距離だ。
「中は案外狭いんだね」
きょろきょろと辺りを見回す彼女をそっと抱き寄せる。腕を回して、ポケットから出したネックレスをあいにつけた。
「智くん……」
俯いた彼女の首元を飾るのはシルバーの細いチェーン。ペンダントトップは手書き風のA。俺たち嵐のイニシャルだ。寄り添う一石は小さくても光り輝いている。少し鎖骨の覗く首元が俺の贈り物で飾られた。ネックレスのプレゼントは、あなたに首ったけという意味を示すらしい。結構有名みたいだから、気づかれるかもしれないけど別にいい。だってホントのことなんだ。
「似合ってる」
微笑みかけて耳元にキスする。彼女の左手に右手を重ねた。この瞬間も、君だけを見てるよ。
メリーゴーランドで重ねた手に、俺の気持ちを重ね合わせる。
これからも共に歩いて行こう。そんな決意を掌に込めた。
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