観覧車で合わせた額



□ side N

 遊園地デート四番目。観覧車の太い柱の陰に隠れてあいを待つ。遠くから小走りでこっちへ駆け寄ってくる姿に、笑みが漏れた。乗り口の近くまで来て、きょろきょろと俺を探すのがこれまた可愛い。

「待ってたよ」

 後ろからそっと近づき、ぎゅっと手を握った。突然のことに驚いた彼女が勢いよく俺の方を見た。

「ビックリした! 心臓ドキドキしてるよー」
「ふふ。驚かせようと思ってさ。大成功」

 ニヤリと笑ったまま、でも握った手は離さない。

「ニノらしいや」
「お褒めにあずかり光栄です」

 わざと恭しく答えると、お互いに顔を見合わせて吹き出した。

「これ、何設定?」
「俺にも分かんない」

 ひとしきり笑い終えると、改めて目の前の観覧車を見上げる。

「すっごい高いね。園内全部見渡せそう」
「そうだね。ちょうど日も落ちてきて、ライトアップされてきてるから綺麗だろうな」

「どれくらで一周するのかな?」
「えっと15分くらいだって。ってことは、その間は二人っきりだね」

 最後の言葉はわざと耳元で囁く。分かりやすく赤くなったあいが俺から目を逸らせた。

「行こっか」

 小さく笑うと、彼女の手を引いて乗り場へ足を進めた。


「二台後ろのピンクの観覧車に乗られますか?」

 係のお兄さんが俺たちにそう聞いてくれた。それほど混んでいないせいだろう。周りをくるりと見渡すと、そうすることでたくさんの迷惑をかけることもなさそうだから、お言葉に甘えることにした。

「ピンクの観覧車って、特別なのかな?」

 ひそひそ声で問いかけてくるあいに、俺は近くの看板を指差す。そこにはピンクの観覧車の説明が書かれている。一台しかないこの色は、カップルで乗ると末永くお付き合いが続くと言われているそうだ。

「なるほど。じゃあ私たちにピッタリだ」

 ふふっと笑う彼女に鼓動が跳ねた。

「俺らカップルじゃないのに、御利益あるのか?」

 悟られたくなくて平静を装う。

「ある意味、カップルよりも強い絆で結ばれてるでしょ」

 事も無げに言ってのける彼女。デビュー前からのことを思えば、家族よりも一緒にいるかもしれない俺たち。確かにそんじょそこらの奴らには負けないくらいの繋がりはあると、胸を張って言える。

「違いないね」

 頷き合って、ピンクの観覧車に乗り込んだ。


 俺たちの乗った観覧車は、ゆっくりと高度を上げていく。高いところは余り得意でない俺も、周りを囲まれている、何より足がきちんとつくということに安心感を覚える。

「なんか夕暮れって寂しい気持ちになるなぁ」

 向かい合って座った彼女が、外を眺めながらポツリと呟く。

「終わっていくって気がするから?」

 静かに問いかけると、束の間の静寂。

「……そうかも。楽しい時間の終わりを告げられているみたいで切ない」

 そう言ったあいの横顔はどこか憂いを帯びていて、見ていて胸が痛くなる。隣に移動し、そっと腕の中に閉じ込めた。

「でも、夜があるから朝が来るんだよ」

 囁いて頭を撫でたその時。俺の鼻を擽るいつもと違ったフルーティーな香り。彼女のものではない香りは、どうしても送り主のことを思い起こさせる。この場にはいないのに、あいのことを包み込んでいるようで妬けた。だから抱きしめる腕に少しだけ力を込める。今、あいの側にいるのは俺だって感じて欲しくて。
 ゆっくりと離れて彼女の左手をとる。ポケットから取り出してブレスレットをつけた。ゴールドビーズを並べたそれは、動くと時折煌めく。糸のような華奢なラインとシンプルさがあいのイメージで、これを選んだ。

「……ニノ」

 潤んだ瞳で見上げるのは、心臓に悪いからやめて欲しい。ここ、密室だって分かってんのかな。

「似合ってる」

 手をとったまま笑いかけると、照れ笑いが返ってきた。その顔が可愛くて、思わず目を逸らして外を見る。眼下に輝く光が宝箱のように思えた。

「ねぇ、観覧車の頂上でキスをしたカップルは永遠に別れないんだって」

 そう。もうすぐ俺たちの乗った観覧車は頂上に到達する。付き合っているわけじゃないけれど、永遠に離れたくないから。

「試して……みよっか」

 あいの頬を両手で包み込み、額を合わせて問いかける。真っ赤になっても逃がしてあげない。

 微笑みかけてに瞼にキスする。彼女の肩に手をかけて引き寄せた。ジンクスがホントになりますように。


 観覧車で合わせた額に、俺の気持ちを込める。

 これからも共に歩いて行こう。そんな決意を伝えるため、額に口付けた。

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