パレードで抱き寄せた肩
□ side S
遊園地デートラスト。日が暮れて暗くなった園内はそこかしこに光が灯って、昼間とは違った明るさを放っている。指定された場所であいを待っていると、後ろから軽くトンと背中を押された。
「ビックリした? 」
薄暗い中で悪戯っ子のように笑う彼女が可愛くて、俺まで笑顔になる。
「ビックリした、ビックリした。あー、驚いた」
わざと棒読みで言うと、面白いくらいぷぅっとふくれるあい。分かりやすい反応に吹き出してしまう。
「はりせんぼんみたいになってる」
「翔くんが意地悪するからだ」
人差し指でほっぺをツンツンとついてみる。息が抜けないくらいの緩さで。そのうち息が続かなくなったあいは、ふぅーっと大きく息をはいた。
「肩で息してるじゃん」
「もう! 今日の翔くんは小学生みたい」
そう言われて妙に納得した。俺、きっと浮かれてるんだ。遊園地であいとデートというこの状況に。
「それだけ楽しみだってこと!」
「私とのデートが?」
「そうそう」
たまには素直になるのもいいかなと正直に答える。俺の言葉に、あいは一瞬目を丸くした後、少し赤くなった。
「……素直な翔くんヤバイ」
呟く彼女の手を取り、歩き出す。
「開始までちょっと時間あるし、あったかいもの買いに行こ。寒くなってきたからね」
「いいね! ポップコーン食べたい! ワッフルもいいなぁ」
「甘いもんばっかりじゃん」
「甘いものは別腹なの! じゃあ翔くんにはあげないよ」
言いながらも、周りをきょろきょろ見回してお目当てを探すあい。思考はすっかり食べ物に移ってしまっているようだ。
「早く行こっ!」
張り切る彼女に手を引かれ、俺たちは食料調達に繰り出した。
「やっぱりココアは温まるね」
ペットボトルを両手で持ち、暖を取るあい。その姿は小動物のようで庇護欲を擽る。
「ホント、ココア好きだよな。後、オレンジジュース」
「昔からなの。私は、好きって思ったら一途なの」
いや、飲み物に対して一途発言されてもね。確かに彼女は一点集中型かもしれない。コレ!と思い込んだらそれを突き詰めるタイプ。踊りがいい例だ。でも、熱中する余り、周りが見えなくなるのが俺たちを心配させる要因でもある。
「温まったし、ポップコーン食べよっと」
宣言通りポップコーンを入手した彼女は、それを口にし破顔した。
「それ、旨そうだね」
「翔くんも食べる?」
と返ってきたから、「あーん」と口を開けてみる。すると、「あーん」という声と共に、口に運ばれた白い固まり。キャラメル味のポップコーンは優しい甘みと少しの苦みを口に届けてくれる。
「……何かカップルみたいなことしちゃったね」
くすりと笑う彼女は確信犯なのだろうか。
「じゃあそれっぽく振る舞わないと」
平常心を装って、あいの腕を掴んで引き寄せる。と、その時手に触れた金属の感触。ふと目を遣ると、彼女の左腕でキラリと煌めくブレスレット。ニノのプレゼントだ。華美でなく、それでもしっかりと存在して彼女に寄り添う、まるでニノ本人みたいなブレスレット。頭のどこかで嫉妬した。俺だって側にいるから。
ポケットからピンキーリングを取り出して、あいの左手の小指へ通す。左手の小指は変化とチャンスの象徴の指と言われており、成功へ向けて変化を求めている場合に最適な場所らしい。常に変化する場所で闘い続ける君の、お守りとなってくれますように。
細めのピンクゴールドリングが交差した二本のラインの中央に、小さな石が輝く。洗練されたデザインが彼女の凛としたイメージとマッチした。
「……翔くん」
恥ずかしそうに呟いた彼女へ賛辞を送る。
「似合ってる」
俺の贈り物で飾られた左手をとって、パレードを見る位置までゆっくり歩いた。
「あっ! 来た来た!!」
園内が真っ暗になったかと思うと、煌びやかな集団が遠くから近づいてくる。ファンタジーな音楽と伸びやかな歌声。大人も童心に返れる時間の始まりだ。
「すごいな。まさに夢の空間だ」
キラキラした光の演出。所狭しと踊る笑顔のダンサー。そして遠くから手を振るキャラクターたち。
「あー、今、こっちに向いてくれた!」
興奮しながらブンブンと手を振るあいは、どこにでもいる普通の女の子の表情をしていた。
「ほら、翔くんも手、振って!」
俺の手を取り、一緒に大きく左右に揺さぶる。その大きな動作に気づいたキャラクターが、こっちに手を振り返してくれたように思えた。
「今のは!!」
「絶対俺たちに振ってくれたよな!?」
二人で手を取り合って盛り上がる。目と目が合って吹き出してしまった。
「なんかコンサートでも見に来てるみたい」
「ファンの方も、きっとこんな気持ちなんだろうね」
さっきまでの表情と一転して優しい笑みを浮かべる彼女。きっと脳裏に描くのは、たくさんのファンの方が来てくれるコンサート会場だろう。
「ツアー、頑張ろうな」
頭をぽんぽんと撫でながら言うと、「うん!」と大きな返事が返ってきた。
「周りの人がみんな笑顔って、凄い幸せな空間だね」
あいの言葉に周囲を見渡す。そこに溢れるのは子どもの無邪気な笑顔。寄り添うカップルの幸せそうな笑顔。そして俺を見上げる、とびっきりの笑顔。
「あいの笑顔を見るのが、一番幸せ」
柔らかく微笑んで呟いた。
「その笑顔は反則だ……」
赤くなるあいの肩を引き寄せ、俺の中に包み込む。腕に馴染む感覚が心地良い。
微笑みかけて頬にキスする。背中に回した手に少しだけ力を込めた。君といる今が幸せだって、余すことなく伝わればいいのに。
パレードで抱き寄せた肩に、俺の気持ちを伝える。
これからも共に歩いて行こう。そんな決意を伝えるため、額に口付けた。
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