「みんな、ハッピーハロウィン!」

 突然入ってきたドラキュラと黒猫に目を丸くするみんな。ニノだけは予想通りだったのかあいを舐め回すように見ている。さり気なく位置をずらして、その視線から遮ると、邪魔すんなと射るような目線が飛んできたけど、無視しておいた。

「じゃあ翔ちゃんから!」

 入り口から一番近くの椅子に座って、新聞を読んでいた翔ちゃんの近くへ行く。

Trick or Treat!

 吹っ切れたのか、さっきまでの恥ずかしそうな様子は見せず、むしろノリノリで問いかけるあい。やっぱりこうでなくっちゃ。俺たちは突然の事態にアタフタする翔ちゃんを、ニヤニヤしながら見ていた。

「えーっと、お菓子あげればいいんだよね。……こんなんしかないけど。」

 そう言いながら、翔ちゃんは鞄から飴を取り出した。いつも食べているのど飴で甘さの欠片も感じないけど、それが翔ちゃんらしい。

「ほら、あーん。」

 丁寧なことに、翔ちゃんはあいに袋から出した飴を食べさせてあげた。その顔が可愛くってたまらないって物語ってて、俺まで笑顔になった。

「翔くん、のど飴かぁ。」
「お菓子には変わりないでしょ。」

「まぁ、ギリセーフってことにしとこ。」
「そうだね。翔くん、ありがとう!」

 満面の笑みを向けられた翔ちゃんの顔が、少し赤く染まる。分かるよ。猫耳あいに微笑まれたらそうなるよね。
 翔ちゃんが真っ赤になる前に、俺は彼女の手を引き、次のターゲットへ移った。


「次は松潤だ!」

 鏡の前で髪の毛を乾かしている松潤の近くへ行く。

Trick or Treat!

 さっきまでの様子を見ていたからか、松潤に焦る様子は無い。むしろゆっくりとドライヤーを置いて、悠然と微笑んだ。

「悪戯されたい気もするけど、その衣装が可愛いからお菓子あげよう。」

 そう言った松潤は、テーブルに置いてあったチョコレートを手に取った。一つを投げて俺に残すと、もう一つの袋を破ってあいに向き直る。

「ほら、口開けろよ。」

 男の俺でもゾクッとするような色気を醸しだし、あいの口にチョコレートを放り込む。でも表情は柔らかくて、楽しんでくれていることが伝わった。

「このチョコレート、美味しい!」
「だろ? 秋は新作が出るから食べ比べてんの。今のとこ、これが今年のイチオシ。」

「そりゃ、美味しいはずだ。さすがショコ潤!」
「うーん、甘さが上品だね。潤くん、ありがとう!」

 満面の笑みを向けられた松潤が、蕩けるよう微笑みを浮かべた。さっき食べたチョコよりも甘い空気に、俺は逃げるようにその場を後にした。


「リーダーのとこ、行こっ!」

 ソファーに座って、雑誌に落書きをしていたリーダーの近くへ行く。

Trick or Treat!

 顔を上げたリーダーは、首を傾げながら「それってどういう意味?」と問い返してきた。ニノが「さっきまで見てなかったの? お菓子をあげないといたずらされちゃうんだよ。」と説明している。

「お菓子あげればいいのか。じゃ……ほれ。」

 理解したのかどうか怪しいけれど、リーダーが机の上にあるクッキーを差し出した。スタッフさんから差し入れられたそれは、ハロウィン仕様で、かぼちゃの形をしていてほんのりと甘かった。

「食べさせてあげる。」

 リーダが、手に持ったクッキーをあいの口元へ近づける。猫に餌付けしているような光景に、思わず笑ってしまった。

「このクッキー、かぼちゃ味だ!」
「マジで? あ、うっめ!」

「リーダー食べてないものを、俺たちにくれたの?」
「だってあるの知らなかったし。」

「でも、これホント美味しい。智くん、ありがとう!」

 満面の笑みを向けられたリーダーが破顔する。「え? これ、持って帰っていい?」とあいを指さして、今にも捕まえそうに手が動いた。
 「ダメに決まってるじゃん。」と言い放ち、リーダーから隠すようにあいをニノの元へ連れて行った。


「最後はニノだね。」

 ソファーに座って、ニヤニヤと俺たちを待ち受けているニノの近くへ行く。何か企んでいる様子のニノのところへ来るのは、正直気が進まなかった。でも来ないわけにも行かないから。出そうになる溜息を呑みこんで、あいと呼吸を合わせる。

Trick or Treat!

 待ってましたとでも言うように、立ち上がったニノは、冷蔵庫から小さな箱を取り出した。

「あいには悪戯されたいけど、相葉さんにされるのは嫌だから、これあげる。」

 箱を開けると並んでいたのは、カボチャの顔が描かれたシュークリーム。パカッと開いた口の部分にオレンジ色のクリームが詰められている。ニノは、「可愛い! 食べるのもったいない!!」とはしゃぐあいを優しい眼差しで見つめた後、その中の一つ手に取った。

「あい、あーんして。」

 小首を傾げた確信犯のニノが、あいの口元へシュークリームを運ぶ。一口で食べきれなかったそれは、手に残ったまま。すると、ニノは戸惑うことなく残りを自分の口に入れた。

「あー、やっぱり美味しい。クリームがカボチャ味なんだね。」
「美味しいけど甘いなぁ。俺には半分で丁度いいや。」

「ちょっ! 半分こなんて、見てる方が恥ずかしいじゃん!」
「えー、そうかな? ニノは甘いものそんなに食べないから、半分だけくれること多いよ。」

 事も無げに言ってのけたあいは唇についたクリームを、薬指で拭って舐めた。その姿が余りにも艶やかで、動きが止まる。

 だから少し気づくのが遅れた。ニノがあいの耳元で、何かを囁いているのを見た時は、既に手遅れだったんだ。

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