もう少しだけ、このままで
少し顔色の悪いあいを連れて、潤くんが俺の家に来た。事前に連絡を貰っていたから、さっとドアを開けて二人を招き入れる。あいを寝室へ押し込んで、有無を言わせずベッドに寝かせた。おそらく疲れからくるものなんだろうけれど、用心するに越したことはない。何か言いたそうなあいの頭をゆっくり撫で、一度だけキスを落として部屋を出た。
「潤くん、ありがとう。助かったよ」
あいの様子がおかしいと気づいてくれたのは潤くんだ。ここ数日同じ仕事が無かった俺は察することができなかった。あいは倒れることこそないものの、少しくらいの体調不良は周りに気づかれないよう振る舞う。だから大体メンバーの誰かが気づいて、強制的に休息を取らせている。
「まぁ、疲れだろうな。」
俺と同じ見解を示し、潤くんははぁと溜息を吐いた。
「多分、いつも神経張ってるだろうし、余計疲れんじゃない?」
それは俺も最近感じてた。きっかけはおそらく俺と付き合い始めたこと。もう一年以上経つけれど、周囲にバレないよう、彼女は以前の何倍も気を遣い続けている。
「ニノも疲れんだろ? いつまで隠すの? 限界来ない?」
畳み掛けるような質問に黙り込んでしまう。確かにどこで見られるか分からないという不安や、おおっぴらに支えられないもどかしさはたくさん感じている。さらに、繊細なあいが想像以上に気疲れしている様子を見るのも辛い。
「心配してくれてありがとう。俺はまだ大丈夫。ジャニーさんと約束したし、認めてもらえるまでは隠し通すよ」
「もしもさ、バレたらどうすんの?」
そのことを考えなかったことはない。ジャニーさんから公表していいと許可を貰うにしろ、週刊誌かどこかから露見するにしろ、世間に俺たちのことが知られたとき、一体どうするだろう。
「俺は、自分たちの言葉で話したいって思ってる」
俺の言葉を聞いた潤くんは目を細めた。可能性としてはそう高くない望みだと自分でも分かってる。雑誌でもテレビでもコンサートでもいい。とにかく、自分たちの口から伝えたいって望むのはワガママだろうか。
「……そう、できるといいな」
否定しないでくれたのは潤くんの優しさだ。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。あいのこと、頼んだよ」
そう言って潤くんは立ち上がった。あいと付き合い始めてから、こうしてメンバーの誰かがあいと一緒に俺の家へ来ることが増えた。そして今回の潤くんみたいに少しだけ話をして、あいを置いて自分は帰る。二人で過ごせない俺たちを気遣ってくれているのだ。もし発覚したときに、あいが一人で俺の家を訪れたとならないよう。他のメンバーも一緒でしたよという言い訳が使えるように。
「ありがとう。ホントに感謝してる」
何度言っても足りない。俺たちのためにと行動してくれるみんなに、どうやったら返せるのだろう。
「気にすんな。二人が笑っててくれたらそれでいい」
優しく笑ってくれるメンバーにいつも救われる。もう一度ありがとうと呟き、玄関まで見送った。
あいが寝ている間に、マネージャーのノンちゃんに明日のスケジュールを教えてもらう。あいの迎えは14時で、俺は13時。ということは昼近くまでゆっくりできるということだ。ちらっと寝室を覗くと、丸まって眠るあいの姿。今はどうか安らげますようにと願いながらドアを閉めた。
「……おはよ」
日もとっぷり暮れた午後七時。気まずそうな様子で起きてきたあい。こんな時間におはようもないだろと思いながら笑顔を返す。
「寝れた?」
「お陰様で。寝過ぎちゃってごめんね」
顔色は来た時よりも随分良くなっている。携帯を操作し、メンバーに感謝と共にあいの様子を伝えた。
「忙しかったみたいだし、しょうがない。寝不足続いたんでしょ?」
「そうかな。和だって忙しかったでしょ。こうやって会うの久しぶりだもんね」
言いながら俺の隣にちょこんと座る。膝を抱えた彼女が可愛くて、頭をゆっくり撫でた。
「えーっと、二人っきりは三週間ぶりくらいかな」
「そんなに経ってたっけ? それは和不足になるよ」
素直に甘えてくるあいが愛おしい。どろどろに溶けるくらい甘やかしたくなる。
二人きりで過ごす時間なんてほとんどない。だからこそ、殊更あやまかなひとときにしたい。
頬に手を添え見つめ合う。彼女が目を閉じたのを合図に、キスを落とした。軽く羽が触れるように何度も。重なる唇から好きが伝わりますように。それが俺たちの強い絆となりますように。
薄いガラスの上に立っているような不安定な日々だけど、この不確かな幸せを失いたくない。少し歪な形なのかもしれないけれど、俺たちが互いに離れないと宣言できるまで、もう少しだけ、このままで。空に願って、君を抱きしめた。
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