君が隣にいる それだけじゃ



□ side N

 君が隣にいる。それだけじゃ満足できない俺がいる。


 俺があいを意識したのはジュニアの頃。京都公演に女子ジャニーズが出ているらしいと聞いてからだ。その子は俺が一目置いている大野くんと、よく一緒にいるらしい。そして見に行った京都で度肝を抜かれた。

 彼女の踊りはとてもしなやかだった。大野くんの優雅な踊りをもう少し女性らしくした感じと言えばいいだろうか。髪の毛一本一本、指の先の先まで神経が通っているように細やかに動く踊りは、女性ならではだと感じた。
 大野くんを見に行ったはずなのに、俺の目は彼女に釘付けで。詳細は思い出せないとは言え、今でも周りの空気も一緒に踊るようなダンスは焼き付いている。

 そんな彼女は東京での仕事にも参加するようになった。大野くんはシニアとしての活動があったから、自然と俺たちジュニアと一緒に過ごすことが多かったけれど、彼女はいつも一人でいた。
 面と向かって言わないものの、「女なのに、何でジャニーズ入ったの?」という声は、仲間内からも出ていた。それが純粋な疑問であるにせよ、悪意を持ったものであるにせよ、彼女にとって居心地が良い空間ではなかったのだろう。

 レッスン場にいるあいは今日も踊っていた。耳につけたイヤホンでリズムを刻み、鏡の前、たった一人で。以前見た時のように、しなやかで気高く。でも独りぼっちの寂しさが滲み出てて、思わず声をかけた。

「高橋?」

 動きを止めた彼女の額に滲む汗から、どれだけ踊りに熱中していたかが見てとれた。

「いっつも踊ってるね。疲れない?」
「疲れるけど……」

 言いにくそうに言葉にしたあい。その姿を見ていたら、自然に口をついて出ていたんだ。

「踊り、好きなんだね」

 言葉にして自分で納得した。俺が何故彼女の踊りに惹かれるのか。ターン一つ、ステップ一つにも丁寧に向き合う姿が俺には眩しく見えたんだ。

「……何でそう思ったの?」

 訝しげな様子で問いかけられる。

「何でって……踊りながら、体がそう言ってるよ」

 考えてみても上手く説明できなくて。自分でも何だこの理由って思った。

「ありがとう」

 そんな俺の変な言葉にあいは、はにかみながら笑顔をくれた。今、思えばその笑顔にやられてた。一人で立とうとする彼女を支えたいと、そう感じた。


 それから俺たちは一緒にいることが多くなった。今まで男としかいなかった俺。彼女の側にいることで、少しは気疲れするかなと思ったけど、そんなことはほとんど無くて。あいは俺たちに馴染んだ。

 そして運命の1999年9月15日。
 ジャニーさんに連れられてハワイへ行った俺たちは、嵐としてデビューすることが決定した。そしてあいに向けられる非難はますます強くなった。元々あった女だからというだけで彼女を貶める言葉。時には言った相手に向かって暴言を吐きそうになることもあった。俺を押しとどめたのはジャニーさんの言葉。

 デビューが決まったあの日。あい以外のメンバーだけがジャニーさんに呼び出された。

「高橋と組むことで、youたちにもきっと苦労をかける」

 予想しなかった言葉に驚く。さらに続く言葉に、俺の体はカッと熱くなった。

「それ以上に高橋は傷つくだろう。謂われのない中傷もたくさん浴びるはずだ」

「だったら!」

 思わず反論しかけた俺の腕を大野くんが掴んだ。デビューの知らせを聞いたとき、俺でも分かった。彼女がこれから歩くであろう茨の道を。

「それでも、僕は君たちが見せる夢を見たいんだ。世界中に巻き起こす嵐をね」

 目を細めたジャニーさんは、泣きそうにも嬉しそうにも見えた。

「だからyouたちにお願いだ。彼女の支えになっておくれ。言葉でも行動でも。高橋の仲間は君たちだから」

 ジャニーさんが俺たちに頭を下げるなんて初めてだ。余りの事態に誰も動けない。

「彼女への非難が起こるのは確実だ。でもyouたちが反論してはいけない。それは彼女への非難を増すことになるから」

 一人一人の目を見つめて、諭すように話すジャニーさん。その真剣さを忘れてはいけないと強く感じた。

「素敵な夢を、楽しみにしているよ」


 彼女への中傷はすぐに止むことはなかった。それでも俺たちは、一つ一つの仕事に丁寧に取り組んだ。反論することなく、みんなで支え合って笑顔を見せて。今思えば、もっと良い方法があったのかもしれない。悪意から彼女を守って、嵐ももっと大きくなる方法が。
 その頃の俺たちにはそれが精一杯で、落ち込む彼女の側に寄り添う。俺たちがいると言葉で伝える。温もりを与える。そうして積み重ねた日々は、確かに周囲の見方を変えていった。

 いつの間にかあいがジャニーズにいるのは、メンバーの一員であるのは当たり前のことになった。どんな酷い言葉を投げつけられても、逃げないで踏ん張った彼女の力がそうしたのだ。
 以前より柔らかい笑顔を浮かべる彼女を見ると、早くなる鼓動に気づく。他の男に笑いかける彼女にモヤモヤする自分に戸惑う。誰に聞かなくても分かった。俺は彼女に惚れている。もう仲間だという立場では満足できないほどに。

 最近彼女から流れ出る想い。自惚れでなければそれは俺と同じものだ。あいは隠そうとしている。きっとグループのことを考えて、閉じ込めようとしている。
 俺だって考えなかったわけじゃない。でも、もうこの想いを無かったことにできない。したくない。

 この関係を新しく書き換えたいんだよ。


 君が隣にいる。それだけじゃ満足できなくなった。困らせると泣かせてしまうかもしれないと分かっていても、俺は君に焦がれてる気持ちを止めることはできない。

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