好き、だけじゃ
title by 確かに恋だった



□ side N

「あい、一緒に帰ろっか。」

 俺の言葉に、あいは一瞬困った顔をした。それは、よく見ないと気付かないくらいのものだったけれど。

「いいよ。今日車なんだ?」
「うん。送るわ。」

「じゃ、お疲れー。」
「また明後日ね。」

「おやすみ。」
「……バイバイ。」

 潤くんの声に少しあいの肩が跳ねる。張り詰めた糸のように危うい俺らの関係。俺も潤くんも、そんな顔をさせたいわけじゃないのに。気持ちはどうにもならなくて。
 ふぅっと大きな息をつくあいの手を引き、車へ乗り込んだ。


「送ってくれてありがと。」

 そう言って車を降りようとするあいの腕を掴む。

「話しよ。ちょっとだけ家に入れて。」

 今度は隠すこともなく下がるあいの眉。でももう、限界なんだ。張りすぎた糸は、切れるしかない。そんなことにはしたくないから。

「お願い。」

 俺の瞳を見つめたあいは、根負けしたように頷いた。


「ブラックでいい?」
「うん。」

 部屋には静寂が響き、コーヒーメーカーのボコッボコッという音だけが聞こえる。あいの消えていった先を見つめ続ける俺は、やっぱり限界なんだと自覚した。

「どうぞ。」
「ありがと。」

 コーヒーを一杯口に含む。口の中に広がる苦みと下に感じるコク。そして鼻に抜ける深い香り。いつもあいの家で飲むものだ。幾分か落ち着き、俺はあいの目を見据えた。

「あい、そろそろちゃんとしよ。」

 分かりやすく伏せた睫毛を、逃さないよう次の言葉を重ねる。

「俺はあいの一番側にいたい。」

 あいが噛みしめた唇を労るように、人差し指でゆっくり撫でる。

「好きだよ。」

 頬に移動させた手に思いを込め、告白する。触れた指先から、どうか俺の思いが伝わりますように。

「私は……嵐が大切なの。みんなと歩いて行きたい。」

 震える声で答えた君は、今にも消えそうなほど儚い。

「知ってる。俺がみんなにちゃんと言う。その後、返事聞かせて。」

 あいが嵐を大切だと思っているのに負けないくらい、俺だって嵐が大事なんだ。俺の想いを通すために、グループに迷惑をかけられない。
 俺たちが側にいるためには、好き、だけじゃダメなんだ。きちんと伝えないと。みんなにも、潤くんにも。

「あいの言葉、待ってるから。」

 髪を一房手に取り、口付ける。君の気持ちなんて、痛いくらい知ってる。それを口にできないのなら、俺が壁を取り払うから。
 だからどうか聞かせて欲しい、君の想い。

「じゃ、また明日。」

 座ったまま動けないあいに小さく告げると、俺はあいの家を後にした。

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