遠回しな愛の告白



 今日は仲秋の名月。毎年見ているわけじゃないけれど、やっぱりお月見の日には空を見上げたくなる。秋は空気が澄み切っているから、夜空がとてもキレイだ。ガラス越しのそれを、もっとはっきり見たくなって窓を開けた。肌寒さにぶるりと体を震わせれば、後ろからふわりと回された温もり。

「何してんの?」

 いつになく柔らかい声で聞かれる。

「お月見してたの。」

 私の言葉に、後ろで和が上を見上げる気配がした。しばらく沈黙が続く。でもそれは気まずいものではなく、むしろ心地良いもの。

「あそこでウサギが餅ついてんのかな。」

「ついてるかもね。でも外国ではカニとかライオンに見えるところもあるんだって。」

 取り留めのない会話でも、心を解放できるゆったりとした時間。

「あい、月が好きなの?」

「そうかも。昔からよく見上げてた。」

 地球からは決して裏側が見られないという月。その神秘さが昔から気になっていた。

「そうなんだ。」

 さほど興味なさそうに言うと、和は隣に移動し、指を絡めてきた。その横顔を見ていると、好きだよって伝えたくなった。でも、直接言うのはなんとなく照れる。

「和。月が…綺麗だね。」

 絡められた指が少し強く握られる。和は月を見つめたまま、静かに話し出す。

「俺さ、今度ドラマやるんだよね。新春スペシャル。坊ちゃんの。」

 その言葉に、私の想いは伝わったのだと感じる。嬉しくもあり、恥ずかしくもある何とも言い難いこの気持ち。

「で、ちょっと勉強したの。夏目漱石のこと。夏目漱石って、英語の先生もしてたんだよね。その時の話、知ってる?」

 知ってるよ。だからさっき言ったじゃない。

「I love youを、月が綺麗ですねって和訳したんだよ。」

 そう。生徒がI love youを「我君を愛す」と訳したのを聞き、「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったとされる逸話が残っているのだ。


「ねぇ、あい、月が綺麗ですね。」


 耳に甘く届く響きは、どう聞いても愛の言葉にしか聞こえなくて、恥ずかしくて顔を背ける。

「でも、お前の方が綺麗だよ。」

 茶化すように囁いた和は、優しく私の髪を撫でる。

「あいの裏側は、俺にだけ見せて。」

 月明かりに照らされて、二人の影が重なった。

 こんな夜は二人でずっと寄り添っていたいから。遠回しな愛の告白に気付いてくれるあなたに、そっとしがみついた。


(ねーねー、リーダー、昨日満月だったじゃん。すっごい綺麗だったよね)
(俺も見た。月、めっちゃ綺麗だった)
(俺もベランダから見てた。確かに月が綺麗だったよな)
(みんな見たんだ。月、綺麗すぎて見とれたよね)
(……このグループ、相思相愛だね)
(はっはっは!)

prev / next
better tomorrow