満月の誘惑
title by 確かに恋だった



「うわー、また負けた! ちょっとハンデちょうだいよ。」

 少し頬を膨らませながら、俺に不満をぶつけるあい。

「だから最初に言ったじゃん。俺に勝とうなんて百万年早いって。」

 今、俺たちは配管工おじさんのカートレースゲームをしている。ゲーム大好きを公言する俺にとっては、昔から手に馴染んだもので、体がコースを覚えているといっても過言ではない。

「だって、何回かやってれば奇跡が起きるかもしれなって思うでしょ。」

 だからあいは甘いんだなぁ。俺がこのゲームどれだけやってると思ってるの? それこそ小さい頃から、体に染みつくくらいやってるんだし、数回やったくらいじゃ奇跡なんて起きないよ。せめて数十回はやらないと。

「じゃあ、すごいハンデあげる。もし負けたら、あいの言うこと、何でも聞いてあげるよ。」

 そう言って、普段ではありえないハンデを設定する。それこそ本気でいかないと勝てないくらいのものだ。

「えー、ホント? じゃあ私も負けたら和の言うこと、何でも聞く。」

 勝負にのってきたあい。そうこなくっちゃね。絶対負けるつもりないから。

 こうして俺たちの闘いの火蓋は切られた。


「……負けた。」
「いやったぁぁぁぁ!」

 正直接戦だった。ゴール直前で、キャサリンが雷を落としてくれなければ、俺が負けていたと思う。それでも女神は俺に微笑んだんだ。
 鼻歌を歌いながらゲームの電源を落とす。リモコンを手に取り、照明を暗くする。

「……何するの?」
「大人しく押し倒されなさい。」

 ニヤリと笑って告げると、諦めたような笑みを浮かべたあい。その両手を掴み、優しくソファーへ横たえる。覆い被さって唇を重ねる。少しだけ開いた隙間に舌をねじ込む。一瞬怯んだあいのそれを追いかけ回し、絡め取る。室内に充満するのは、満月の光と、ぴちゃぴちゃという音だけで。それが俺の官能を刺激した。

「……今日、何かエロいよ。」
「いつもでしょ。」

 まだ反論する余裕があったのかと再度唇を奪う。角度を変えて口付ければ、呼吸が乱れ、吐息が漏れた。
 仰け反った首筋を満月の光が照らす。それがとても扇情的で、思わず息を飲む。

 Tシャツを捲り、胸元に口付ける。いつもより強くそこを吸い上げた。唇を離すと、そこには満月のように丸く咲いた赤い華。

「和が痕つけるなんて、珍しいね。」

 息も絶え絶えなくせに、突っ込んでくるあい。そう、お互いがこんな仕事をしてるからこそ、跡はつけないことが暗黙のルール。仕事で迷惑をかけないようにいつだって我慢してるんだ。でも、今日は。


「満月に誘惑されちゃったかな。」


 戯けたように笑う。ホントは首筋に付けたかったなんて言うと、怒られるかもしれないけど。せめて見えないところに、となんとか働かせた理性を褒めて欲しいくらいなんだ。

「……私は、和に誘惑されちゃった。」

 そんな可愛いことをいう君には、もっと大きな快楽をあげる。生意気なことを言う唇を塞ぎ、体中を撫で回す。

 月の光より、俺を狂わす君を俺は容赦なく追い立てた。


(昨日、満月だったね)
(う、うん。そうだね)
(……何かあった?)
(な、何もないよ!)
(ニノ、何かしたでしょ?)
(ふふ。罰ゲーム?)
(あー、これ、絶対エロいことだ! エロいこと!!)
(うるさいなぁ。朝からエロエロ言うんじゃないよ!)

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