この愛より甘いものを私はしらない
title by EVER GREEN



「あい、これ舐めときな。」

 帰宅後、そう言って和が寄こしたのは、色んな果物味ののど飴が入っている袋。パッケージの鮮やかさが元気を誘う。私がこの飴を買うときには、「そんなんでホントに効くの?」なんて言ってる。
 私も本当に喉が痛くてたまらない時は、医薬品ののど飴を舐める。でも、味の種類がないしあまり美味しくないから、少し喉が痛いときはフルーツ味のものを好んで舐めているのだ。それを知っていて、こうして用意してくれる和。買い置きがないことまで把握してたなんて。

「今日、ケホケホ言ってたでしょ。」

 途中でコンビニに寄ったのはこれを買うためだったのか。その時眠気と必死で闘っていた私は、月曜日発売の少年向け週間漫画を買ったのだとばかり思っていた。
 和の少し分かりにくい優しさに感謝して、袋を開ける。一番上にあったのは、巨峰味。ピリッと袋を開けて口に入れる。瞬間、口に甘い香りと少し酸味のある味が広がった。

「上手いの?」
「のど飴の中では一番美味しいよ。」

 部屋着に着替えながら訪ねる和に、ソファーでゴロゴロしながら答える。喉だけかなと思ってたけど、ちょっとだけ頭痛もする。
 ソファーから動かない私の体調を察知したのか、和が眉間に皺を寄せた。

「早めに言いなって言ってるじゃん。」

 和のお叱りに返す言葉が無くて黙り込む。さっきまではそんなにしんどくなかったんだもん、なんて言うと、倍はお説教が返ってくるから言わない。

「ほら、着替えな。」

 体の上に、私の部屋着がぽいぽいと降ってきた。それを受け止めると、ソファーの上に座り直してノロノロと着替え始める。和は私の様子を横目で見ると、キッチンへと消えていった。


「食べられそう?」

 ウトウトしていた頭が、少し覚醒する。目を開ける前に、出汁のいい匂いが鼻を擽った。

「おうどん?」

 出した声が思った以上に掠れていて、自分でも驚く。和も眉を寄せたから、状態はきっとあまり良くないだろう。

「今日は特別に卵入り。食べられるだけ食べな。」

 そう言うと、自分は肉入りのうどんを食べ始める。あー、あれも美味しそうだけど、今は食べられる気がしない。元気になったら、肉うどん作って貰おう。そう決意して、うどんを口に運ぶ。
 和が作るうどんは少し柔らかめ。カップラーメンを5分も置いておく彼は、うどんの茹で時間も長めだ。でも体調が悪い時は、この柔らかいうどんがたまらなく美味しい。ほとんど噛まなくても飲み込めるくらいで、とても食べやすいのだ。

 言葉も発さず、黙々と食べ進める。部屋の中にはうどんを啜る音と、私が時々咳き込む音だけ。
 時間をかけて最後まで食べきると、体の芯から温まった。入れてくれた日本茶を啜ると、「おばあちゃんみてぇ。」と和に笑われた。

「まだ食べる?」

 のど飴の袋をしゃかしゃか鳴らして、和が首を傾げた。うんと頷くと、剥いて口にポイッと入れられた。うん。これはレモン味。喉にしみることもあるけれど、それが効いている感じがする。
 口の中でコロコロと転がす。普通の飴なら、ある程度小さくなったところでガリッと噛んじゃうんだけど、のど飴は別。最後まで舐めきるように心がけている。

「どんな味?」

 私の様子をじっと見ていた和が、近づいてくる。口元に鼻を寄せて匂いを嗅いでいたと思ったら、あっという間に口付けられた。ファーストキスはレモン味なんて歌があったっけ、なんて朧気に思う。その間にも和の舌で転がされた飴が、口の中で溶ける。不意に舌ごと飴が絡め取られ、和の口へと移動した。
 飴が溶けて無くなるまで繰り返されたキスで、酸欠になって呼吸は激しくなった。病人に容赦無いなと睨みつけると、ふふっと笑われた。

「そんなエロい顔しても、今日はダメ。早く治しなさい。」

 ぽんぽんと頭を撫でながら言われたら、怒りもどこかへ飛んでいって。

「ぎゅうってしてくれる?」

 と甘えてみると、額に手をあてて困ったような和。

「あいがお望みなら。」

 ふわりと浮かんだ笑顔に、二人の手が自然と重なる。連れだって寝室へ行くと、ベッドに倒れ込んだ。


 貴方の温もりに包まれて眠る夜。ぽんぽんと優しく背中を叩く手も、そっと頭に温もりを落とす唇も。全てがまるで真綿にくるまれているように甘くて。

 この愛より甘いものを私はしらない。言葉では伝えきれない想いを掌にのせて、背中に腕を回した。


(あい、ほらのど飴)
(松潤も買ってきたの? 俺もだ。ほら)
(マジか。かぶったな。はい。笑)
(ほれ)
(あんたたち、あいの変化に気付きすぎだから。笑)
(ありがとう。大事に食べるね)

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