関係


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出社したら荷物を自分のデスクに置いて、休憩室へ向かった。コーヒーを入れていると後ろから「おはよう」と爽やかな笑顔をした忠義がいた。忠義と一緒に向かった喫煙所のドアを開けると、タバコの煙を吐いてコーヒーを飲む亮と部長が居た。


「おはよう」
「おお、おはよう」
『おはようございます』
「おはようございます」
「錦戸、大倉は会うたことないやんな」
「はい」
「大倉、紹介するわ。クリエイティブに大阪支社から転勤になった錦戸。こっちが営業の大倉」
「大阪支社から来ました、錦戸です」
「営業部の大倉忠義です」
「おっ、始業の時間や。ミーティングするで」
『はい』
「はい」
「名前、頑張ってな」
『忠義もね』


忠義に小さく手を振り、先に休憩室を出た部長と亮を追った。
クリエイティブ局に入ると「ミーティングやるで」と部長の声が聞こえてデスクの前に集まり進行具合の確認とスケジュールを確認する。今日も打ち合わせにプレゼン、撮影と予定はパンパンだった。


「名前...さっきの大倉ってのと付き合ってるん?」


部長が話し始めると左側に居た亮が前を向いたまま小声で聞いた。そんなことを聞かれるなんて思ってなかったから驚いた。社内にいれば、気付くのは時間の問題だと思っていた。私と忠義が付き合っているのなんてみんな知っているし、部署が違うのに会社でもよく一緒に居るんだから、親密でない方がおかしい。


『うん』
「どんくらい?」
『...3年くらい』
「...そうなんや」


聞いてきた割にはあっさりした答えが返ってきた。出来るなら知られたくはなかった。そんなことは叶わないと分かっていたけど、でも。それでも。亮の方をチラッと見ると、表情を変えずに部長の話を聞いていた。
ミーティングが終わってコピーをとりにいくと、マルちゃんが隣にきてニヤニヤしていた。


『何?マルちゃん』
「名前ちゃん錦戸くんと知り合いなん?」
『え?』
「さっき名前って呼んでたやん」
『あぁ、昔ちょっとね』
「わかった!元カレやろ!」
『ちょっ、マルちゃん声大きい!』

声のボリュームを考えずに話すマルちゃんの口を手で塞いで周りを見ると、幸い誰も聞いていなかったようで胸を撫で下ろした。どうやらさっきの会話は私の右隣にいたマルちゃんには聞こえていたらしい。きっと彼は冗談のつもりで言ったんだろうけど、見事正解を当ててしまったと気づいたマルちゃんは、少し困ったような顔をした。


「その反応はビンゴやな」
『マルちゃん、誰にも言わないでね』
「えー、どうしよっかなー」
『意地悪しないでよ』
「お昼はがむしゃら亭のがむしゃらSP幕内DX弁当ご飯大盛がええかなー」
『はい、奢らせていただきます』
「よっしゃ!あれ限定やしいい値段やしなかなか食べられへんもんなー!ご馳走さまでーす!」


困った顔からにっこりと、悪い顔に一瞬で変身した。交換条件に会社の下のお弁当屋さん、がむしゃら亭で一番高い1800円のがむしゃらSP幕内DX弁当をご馳走する約束をしたマルちゃんは、スキップをしながら自分のデスクに戻っていった。