2話


き、来ました!!!!
きましたよ喫茶ポアロ!!!!!米花町は割とすぐ近くにあって、歩いて数分で着いた。そこから音声案内に従って歩いていけば大通りに出て、マンションとマンションに囲まれるようにしてたつ毛利探偵事務所が目に入った。
毛利探偵事務所のビルの一階を見れば原作で何度も見たことのある喫茶ポアロが存在していた。存在々……してる…………聖地が………ある…………。
まさかガチもんの聖地巡礼ができるなんて思いもしなかった私は歓喜と興奮と感動でうっかり泣きそうになってしまった。やばい。涙が滲む。通行人がチラチラおかしそうに私のことを見てくるが構わない。もうどうせ会わない人たちだ。
思う存分感動に浸らせていただこうと思い隣を見れば、RAMの有力候補と名高い男が切り盛りする寿司屋が目に入った。いろは寿司だ。そしてその隣には喫茶ポアロ。ポアロ、ポアロだぁ……ちなみにコナンとコラボしたお台場の科学博物館には公開初日に行った。
謎に設置された円盤が分からずひたすらぐるぐるしたのはいい思い出だ。あれなんで置いてあるのか未だにわからない。
わかった人います??しかし、科学博物館にはリアルポアロに限りなく近い喫茶ポアロが用意されてあった。めっちゃテンション上がった。なんなら写真めっちゃ撮りまくったしメニュー表もバッチリ撮ってきた。あむあむのリアルサンドだぁ……と思わず合掌しそうになった私に、友人がツーショット撮る?と聞いてくれた。折角なので撮ってもらった。
あむサンドとツーショットである。

そんな私がめちゃくちゃ満喫した喫茶ポアロ(偽)だが今私の目の前……信号を挟んだ向こうに立ち並ぶそれ。毛利探偵事務所の一階の店は模した偽物よりも遥かに本物だ。
何せ原作にある喫茶ポアロやで????テンションが上がらないわけがない。私は嬉々とした足取りで信号を渡ると、深呼吸をひとつして店内に入った。途端、いい匂いと共にいらっしゃいませという聞きなれた声が聞こえてきた。ひえっ………アニメと同じ声がする……。

「何名様ですか?」

「あっ、ひ、ひとりです……」

カウンターを拭いていたらしい女性店員さん……梓さんが私の前まで来て案内をしてくれる。ウッワめっちゃ可愛い目おっきいししかも童顔だし優しいし可愛い……なによりも可愛い……こんな可愛い女の子と一緒に働いててよく安室さん手出さないでいられるな……?
いや梓さん本当可愛い。天使かな???しかもこころなしなんかいい匂いするし……って私は変態か……。ポアロに行けば梓さんと会うのは分かってはいたがやっぱり荒ぶる心を抑えられない。梓さん可愛い。マジで可愛い。実をいうとあむあずも履修済の夢女なので梓さんに会えてめちゃくちゃ嬉しい。そしてやっぱり可愛い。そろそろ可愛いがゲシュタルト崩壊起こしそうなレベルで可愛い。
梓さんほんと可愛いよ……。安室の女兼あむあずの民という混ぜるな危険宗教をしている私は不躾にならない程度に梓さんの顔を見る。顔ちっさ目でっか……そして愛らしいわ…梓さんって愛らしいんだよそうなんだよ……。

メニュー表を開いてあむサンドをひとつとコーヒーをお願いした。
やっぱりここはあむサンドを食べておきたい。やばくない??
あむぴが作ったお手製サンドとか……何それ結婚してる……いやしてない。あむぴには梓さんという超絶可愛い彼女がいるんだから夢女の私落ち着け。あむあずの民で安室の夢女の私は時々脳内でキャッツファイトが起きるのだが、よくあることである。

「あ………ハムサンドとコーヒー一つください」

「はい!ハムサンドとコーヒーですね。少々お待ちください」

うっかりあむサンドと言いそうになったのを口をつぐみ、ハムサンドとしっかり言い直して注文する。
梓さんはやっぱり天使だった。そんな可愛い笑顔振りまいて変な男に目つけられない??大丈夫??梓さん親衛隊のおばさんは心配である。

というか私は感動した。
なんと言ってもメニュー表が科学博物館においてあったそれと全く一緒。感動のあまりめちゃくちゃ触ってしまった。完璧不審者の動作である。しかし天使優しい梓さんはそんなこと気にしていていないようで注文を受けると、そのままカウンターの奥へと引っ込んでしまった。ちなみに時間が時間だからか、客は私一人だけだ。ちらりと時計を見れば閉店間際なのがわかりそんな時間に詰めかけたのが申しわけなく思えた。でも許して欲しい。ここに来るのは一回限りだし死ぬ前に一度でいいから推しと推しの作るご飯が食べたかったのだ。私は心の中で謝ると、注文の品が来るのを待った。

「………ぁ」

小さく声を漏らして、スマホを取り出す。そう言えば海の選抜がまだだった。
カバンからスマホを取り出して画面を開く。海、とだけ検索しても海という意味を示すWikipedi○先生が出てきたりオススメのなんちゃら〜などが出てきたので一番下まで画面をスクロールさせて関連キーワードの“一番近くの海”を検索。
そうすれば関東の海のまとめサイトなるものが出てきたのでそれをタップ。そうすればずらりと海の候補地が出てきて、どこに向かおうか迷う。時間も時間だし終電に間に合うようにしなくては。流石に朝一で海に行って飛び込むのはご遠慮願いたい。ほかの人にも見られそうだし、何より朝日とともに人生にサヨナラはちょっと……。
そもそも自殺とかって丑三つ時とかにするイメージがある。未来を感じさせる朝の日差しともにする人なんて滅多にいないだろう。いないはず。
どの海にしようかな〜一番近くがいいが近すぎてもな〜と思いつつ画面を見ていれば上から声が降ってきた。こ、この声は………!!!!

「お待たせいたしました。ハムサンド………」

しかし私の顔を見た途端、不自然に声が止まる。未だにスマホ片手にしていた私は慌ててスマホの電源を落としカバンにしまう。もしかしてテーブルの上に手を置いてたのが邪魔だったのかもしれない。急いでカバンに携帯をしまうと、私は取り繕ったように笑いながら彼を見た。

「ありがとうございます」

「あっ、いえ……。あ、お待たせいたしました。ハムサンドとコーヒーです」

どこか釈然としない態度の彼………安室さんは私にもわかるくらい下手にはにかみながらハムサンドとコーヒーをテーブルに置いた。何かあったのだろうか。一般人の私にもわかるくらいわかりやすく動揺する彼なんて珍しすぎる。死ぬ前にレアオブレアのあむぴを見れて良かった。もう思い残すことはありません。

しっかし、分かってはいたが安室さんめちゃくちゃにやばい。何がやばいってイケメン。イケメン過ぎてやばい。早く梓さんと並んでほしい。ツーショットを見せて欲しい。足は長いし腰は高いし童顔だしハニーフェイスだしタレ目だし何よりもかっこいいし声がいいしイケメンだし好き。本能がやばいって叫んでる。やばくない?こんなイケメン存在していいの??人類のヒエラルキーおかしすぎでしょ。こんなイケメン作るとか神様ほんとどうしちゃったのって思ったがそうだ、奴は既に死んでたんだ……と思い直した。そして、そこそこにお腹のすいている私はハムサンドと向き直りそれを手に取る。文字通り最後の晩餐が推し手作りの料理だなんて幸せすぎる。多分これは神様から私へのプレゼントなのだと思う。いや、そうだ神は死んでるんだったな……(二回目)
もしゃり、とお行儀よく食べれば形容にしがたい味が口に広がった。もちろん悪い意味ではない。ソースの旨みとハムの濃厚な味、パンのふわりとした甘い香りがついで襲ってきて美味しすぎて涙が出るかと思った。レタスのシャキッとした食感が更にサンドイッチの魅力を引き出している。食べるごとにシャキシャキいうレタスの食感を楽しみながら、濃いソースをあっさりさせるレタスの甘みを堪能する。随分みずみずしく新鮮な野菜だ。歯ごたえが違う。食べやすく切られたハムサンドをあっという間にぺろりと食べた私は、頼んだコーヒーを口にした。そこで気づいた。

「!?!?!?」

隣見たら、安室さんが、いた。
一体いつの間に!?と思いつつ顔をひきつらせていれば、安室さんがハッとしたように笑った。何か考え込むように顎に手を置いて難しそうな顔をしていたが何なのだろうか。まさかここで事件が起きるんじゃなかろうな、と思ったが今店内にいるのは私と安室さんと梓さん。ここで事件が起きるなら間違いなく被害者は私だろう。なんと言ったってモブだし。まさか自殺する前に殺されるのか〜〜〜〜〜とさらに顔をひきつらせて入れば、彼は組んでいた腕も解いて私に笑いかけてきた。やめて。笑顔で見られたらときめきで死んでしまう。

「すみません、あまりにも美味しそうに食べてくださるのでつい。初対面の女性に不躾でしたね、すみません」

「い、いえ………」

申し訳なさそうに頬をポリポリかく彼に絞り出したような声が出る。話しかけてもらえるとか御褒美かな???もう死ぬし最後くらいいい思いさせてやろうっていう神様の粋な計らい??いやそもそも神は死んでるんだっ……ry
私は真っ直ぐ私のことを見つめてくる安室さんを見返しながらその顔の良さに心臓が止まりかけそうになった。根気で笑い返したが笑い返したというより顔がニヤついている気しかしない。変質者かな??あかんこれじゃ自殺する前に通報されてまう……。しかし推し、顔がいい。もう一度いう。顔が……いい。体もいい。声もいい。パーフェクトかよ好き抱いて。嘘抱かなくていいので梓さんとお話してて……お願い死ぬ前くらい癒しの光景を見せて欲しい……。

「安室さん!今こっち来れますか?」

そんなこと思っていれば梓さんがバックヤードから話しかけてきた。ナイスタイミング!!!梓さんの安室さん呼びが聞けた……最高……可愛い……声が可愛い……尊い……。

「はい、わかりました」

安室さんはそちらを一度見たあと私に軽く挨拶した。すみません、と申し訳なさそうにする彼に「いえ」とだけ返せば、彼はすぐにカウンターの奥へと向かった。接客用スマイルとはいえあむぴの笑顔が見れたことで、私は歓喜のあまり口元をおおった。やばい。昇天する。は〜〜〜生あむぴしんどい……かわいい……かっこいい……イケメン……。
しかし、彼がいなくなったことで店内は一気に静かになった。そりゃそうか。お客さんは私だけだし店員のふたりも店内にいるとはいえ、カウンターの奥へと引っ込んでしまった。バックルームにふたりがいるとはいえ、今店内にいるのは私だけ。なんだかそれが不思議で、あと賑やかなポアロをいつも漫画などで見ているからだろうか。少しだけ寂しい。
スプーンでコーヒーをかき混ぜながら、少し冷たくなったそれを一気飲みした。