セフレだと思い込んでる彼女と、愛を伝えているつもりの彼 1/3

安室さんが私に何か隠し事をしていたのは知っていた。抱き合った次の日の朝はいることなんて滅多にいないし、ふたりでいる時も写真一枚撮らせてくれない。抱き合った時だって、キスマークも付けさせてくれない。おまけに会えるのは月に一度あるかないか、なんてなったら流石の私でも察するというものである。

あ、これは遊ばれてるな、と。

しかしそこで絶望するほど私は純情でも盲目的に彼を愛していたわけでもない。もちろん彼のことは好きだし、愛してもいる。だけどどこか「普通とは違う」お付き合いをしているうちに、いや、そもそも彼に告白した時から分かっていたんだ。これは、私の一方的な気持ちなのだと。

彼が驚くほどグラマスで美人な女と腕を組んで仲睦まじく歩いているのを見た時、私の心に浮かんだのは悲しみでもショックでもなく、納得だった。我ながら哀れではあると思うが、彼に愛されている自信がなかった私はあっさりと納得してしまったのだ。これは、彼の遊びなのだと。学生時代の友人と遊んだ帰り、少し頑張ってお洒落をしていた自分が急に哀れに思えた。巻いた髪の毛もトレンドを追った可愛い服も靴も、全部全部。私には似合わないのだと漠然と突きつけられた気持ちになった。

しかし、人通りの多い路地上で急に立ち止まれば周りも不自然に思う。先程からチラチラと邪魔そうな視線が私に投げかけられる。だけどそんなの構っていられない。悔しくて、でも好きで、分からなくて、泣きたくなる。哀れでも惨めでもいい。だからせめて体だけの関係だけは、なんて望む自分が滑稽すぎる。ふと、私はホストにハマりやすい体質だったのかななんて考える。現実逃避もいいところだ。そんな、大通りで急に立ち止まった私に安室さんが気づかないわけがない。周りの空気を読み取って不思議そうに私の方を向こうとする。目が、あってしまう。私の右斜め前……少し離れた、だけど大声を出せば届く距離にいる彼。今の彼に会うわけにはいかない。彼がこちらを振り向く前に私は方向転換し、自宅とは反対方向へと足を向けた。

流石に後ろ姿だけで私とは気づかないだろう。気づかないでくれ。頼む。
半ば願いに近い思いでその場を離れたが、やはり彼が後を追って来ることは無かった。