セフレだと思い込んでる彼女と、愛を伝えているつもりの彼 3/3


安室さんは何度見ても、顔がいい。
顔面が良すぎてちょっと拝顔を躊躇うほどだ。ガチで顔がいい。そもそもなんだあの髪型。狙ってるでしょ。可愛いかよ。耳の横にぴょんとはねる髪も、交差する前髪も。イケメンを際立たせる材料にしかなってない。好きです付き合ってください。あっもう付き合ってた。
脳内でそんな茶番をくり広げながらも、私は現在非常に困っていた。何が、というと主にSTKの類だ。一週間ほど前、丁度安室さんのドライブデートを終えた次の日から。会社帰り夜道を歩いていると控えめに足音を立てて、だけどしっかりと一定の距離を保って私のあとを追う何者かの存在に気づいた。最初は道が同じなのかな、と思ったがこうも毎日毎日一緒になるのは流石におかしい。
駅から家までの10分間。駅から大通りまではいい。人通りが多いから恐怖感も気味悪さも感じない。だけど問題は大通りから、脇道にそれたマンションまでの道筋だ。なにせ人数がグッと減る。
元々人通りの少ない道なのもあって、そして時間帯が終電間際なのもあって人は誰一人いない。当然である。響くのは私のヒールの音と、後ろからついてくる足音。最初こそ安室さんのお友達(セフレ)の嫉妬による行動かもと考えたが、足音がヒールではなく革靴の音がすることからその線は消えた。

ストーカー?いや、でも、なんで?なんで私?
特別目立った何かがあるわけでもない。美人でも、スタイルが最高にいいわけでもない。どうして自分が狙われたのかがイマイチ理解出来ないが、しかし後ろには私を一週間尾行しているヤツがいるのは間違いない。振り向く勇気はないし、もちろん犯人を取っ捕まえる覚悟だってない。出来れば逃げたい。一般人で凡人である私は普通に後ろの人間が怖いし気味悪いので逃げたいに限るのだ。凡人Aに戦闘能力を期待してはいけない。ちなみに学生時代の体育の実技は10段階評価の3でした。察してくれ。

なんて、冗談言ってる場合じゃないぞ〜〜〜〜〜〜!?!?!?
早足で家に向かっていた私だったが、ここで自体が急変した。後ろの人間が歩くスピードを早め……いや走ってるな!?これは走ってるな!?!?
バタバタと足音が聞こえて反射的に私も走り出す。やばい。捕まったら絶対にやばい。本能的に感じて走りにくいヒールを音を鳴らして夜中の路上をかけていく。心臓の音がうるさくて煩わしい。気を抜けば転んでしまいそうだった。

結局、変質者との追いかけっこは私がマンションのエントランスに入ったことで強制終了。だけど私はかける足を止めずにその足のままエレベーターに駆け込……むのはやめて、(こういう時のエレベーターはフラグだってホラーゲームで言ってた!)非常階段をひたすらダッシュ!目的地の階数に着く頃には膝は笑い、肩で息をしている状況。紛れもなく運動不足である。
部屋に入ってすぐに電気をつけるのは良くないと何かで見たことがあるから、玄関に入るも電気はつけず暗いままにしておく。ちょっと怖い。今更ながらあの時転んでいたら、とか捕まっていたら、とか思うと恐怖で体が震えてネガティブな方へ方へと思考が流される。
助けを求めるように頭に思い描いたのは愛しい彼の姿だったが、頭を降ってその考えを打ち消した。こんなことでわざわざ相談出来ない。彼には私以外にもたくさんのお抱えがいる。今だってもしかしたら他の女と………他の女とーーー……。
この時、本当に私は堪えていたらしい。いつもならそんなことで泣いたりしないのに、ぽろぽろと涙がこぼれた。怖いのに、相談出来ない。今だって何をしているかわからない彼に、初めて寂しいと感じた。