セフレだと思い込んでいる彼女はストーカーのことを話せない 1/3

ひとしきり泣くと、逆に思考が冴える。



泣くのはひとつのストレス解消だとか、感情の整理だとかいう言葉があるように、心行くまで泣くと随分気持ちが落ち着いた。会社を出る前に軽く手直しした化粧は多分もうボロボロだろう。鏡見なくてもわかる。こんなに大泣きしたのは久しぶり………でもなかった。先日見た感動系フィクション映画を見て号泣したのを思い出して、思ったより泣いてるやんけと気づいた。

とにかく、状況はそこはかとなくまずい。

というか走って追いかけられたよな!?!?
私の勘違いじゃなければ普通に私めがけて走ってきたよね?
アレ何のために私追いかけてきたの……?目的がわからな上に相手の素性すらもわからない。

結論、やっぱ怖え。これ警察に相談した方がいい?いやでも警察は実害が出ないと動いてくれないってなんかで読んだ。ああ、実録系の漫画特集とか、テレビでよくある“あの事件の真相に迫る!”とかよくある特番インタビューだ。
つまり、警察には頼れない。

だけどこのまま放置するにはあまりにも私の身が危険なわけだ。もちろん形式上彼氏である安室氏にも相談はできない。そんな重い厄介事件持ってきて面倒ぐさられたらちょっと泣く自信ある。いや、安室さんが私に興味まっっったくないのは知ってるよ!
だけどしかしでもだってあのですね、それをその、現実的に突きつけられるのは今の(精神的HPが大ピンチな)私にはちょっと耐えられる自信が無い。
さっきだって安室さんが今何しているかを考えただけで涙がこぼれた始末だ。直球的感情に頭がついていかない。
女は感情で動く、なんて言葉を前に聞いたけれどその通りだと思う。動くかどうかはさておき、女性は感情的生き物だ。

頭では理解してることだって気持ちが追いつかないし心がマッハな勢いで先を行く。待って置いてかないで……!という感じだ。

しかし、いつまでもつめたい廊下に座り込んでいるわけにもいかない。折れそうになって挫けそうになる心を叱咤して喝を入れ、寝室のダイニングチェアに腰掛ける。風呂?とりあえず今はそんなことよりもSTKの打開策を見つけたいですね。おちおち落ち着いて風呂も入れん。どうしてくれるんだ明日も仕事だぞ。早くお風呂入って寝たいのに、目下の出来事が割と緊急事態なので仕方ない。
笑えない状況だというのにもはやいっそ笑ってしまいたい。浮気男の彼氏すらに頼ることが出来ず、ストーカーにひとり悩むなんて私はどこまで哀れで不憫なのだろう。前世私なんかやらかした??
それとも、前前前世から引きが悪い感じ?いやでも一般ピーポーの中から安室さんに選ばれた私は当たりくじを確実に引いたはず。もしかしてそれで今世の運使い切った……?

「まじか……でもあの麗し顔面に口説かれてるんだからな〜。プラマイの釣り合いは均等なのか、な」

あの顔面偏差値100億の麗し顔面に(他の女同様)口説かれてるのだ。美人でもスタイルが言い訳でもない私が、彼に。

これ程の幸運を掴んでいるならなるほど、私がこの先強盗に襲われたりひったくりにあったり誘拐されそうになるのも納得がいく。いや、そんな未来いらないし、丁重にお断りした後野球バッドでおおきく振りかぶってホームラン級に投げ捨てたい所存なんですけど。ちなみに何度も言っているように私は一般ピーポーです。なのでそんなはちゃめちゃ、スリリング〜デッド〜オア〜アライブとか求めていません帰れ。
というか一般人が安室透と付き合うためには代償が必要とかなにそれ怖すぎる。安室透の顔面はそこまで尊いものだったのか………神かな?
なんてやはり現実逃避に逃げ込んでいた私だったが、起動したパソコンでストーカーについて私なりに検索した結果結論が出た。つーか私、現実逃避する時いつも安室さんの事考えてるな?好きすぎかようける。

「は〜〜〜〜〜好きだから困ってるんだよ…………そして好きだからこうなっている………」

間接的に安室さんがストーカーの原因、という暴論にもほどすぎる自己解釈は置いといて、目の前に開かれたページを覗き込んだ。

ネットのナチュラルSiriことYamoo!の知恵袋さん。そこの窓枠で【ストーカー 対処法】と検索すれば出るわ出るわ、わんさかと。ストーカーに悩む女性陣のSOSが大量に目の前に映し出されて、その中から私の状況に近そうなものを探す。

お、発見。

細かいところは微妙に違うが、ストーカーに追いかけられたという大まかなところは共通しているのでその質問リンクを開く。

質問文をスクロールして解答欄を見ると、そこにはやはり私が思ったように『警察は動いてくれないでしょう』という文字か書かれていて分かってはいたが少し落胆する。しかしその次の文に『でも一応被害届は出した方がいい』という旨と『探偵に相談するという手もある』という言葉が書かれていた。

「探偵!」

頭にふと思い浮かんだのは、恋人の彼の姿だが、その次に思い浮かんだのは、国内では名前を知らない人はいないという程に有名なあの探偵。

ポアロで何度かお会いしているしそれを差し引いても彼なら力になってくれそうだ。早速相談しに行きたい気持ちはやまやまなのだが………

「絶対、バレる……よね」

何せ、彼はあの名探偵、毛利小五郎の弟子なのだから。