さん
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湖山の新たな一面を垣間見たところで、中江が「あら」と声を上げた。
「朝比奈くん大丈夫かしら」
「朝比奈?」
「ほら」
中江が見るほうに櫻井も目をやる。すると、確かにテーブルに突っ伏す朝比奈の姿が見えた。よくよく見れば朝比奈を囲むのは筧に武井、三国やその他酒豪ばかりである。限界も考えずに飲まされたのだろう、朝比奈も断りそうな性格ではない。他の面子は他の面子で飲んでおり、誰も朝比奈の様子には気が付いていない。
「ちょっとストップかけてきます」
「お願いね〜」
暢気に言う中江は中江で、酔いの回った倉石を介抱してやっていた。
朝比奈の元に行った櫻井は筧に声をかける。
「筧さん、その辺にしてやってください」
「おぉ櫻井、お前もまあ飲め」
「飲んでましたよ。それよりほら、朝比奈限界ですから」
「いや〜まだイケるんじゃねえか? なあ朝比奈」
ぽすぽすと背中を叩かれるが、朝比奈は「う」と呻くだけだった。結構まずいんじゃないかと櫻井は朝比奈の傍に寄る。
「朝比奈、大丈夫か」
「うう……櫻井さん……?」
「無理するな。もう帰ったほうがいいんじゃないかお前」
「できたら、そうしたいんですが……」
小声で言う朝比奈は先輩たちに気を遣っているのだろう。しかしこれではどうにもならない。筧たちを見れば二人に構わず飲み続けており、連れて帰っても問題なく思えた。携帯を取り出してタクシーを呼ぶと、櫻井は朝比奈に声をかけた。
「朝比奈帰ろう、送ってくから。立てるか?」
「はい……すみません、」
ヨロヨロと立ち上がる朝比奈の腕を自分の肩に回し、櫻井は筧や、相沢らにも声をかけた。
「すみません、朝比奈帰らせます。俺が送っていくので」
「ん? おお朝比奈、大丈夫か? 飲みすぎたか?」
「すみません部長……」
「いいんだいいんだ、そこの奴らはな、付き合ってたらキリがないからな。櫻井、頼むな」
「はい。失礼します」
穏やかに送り出す相沢に頭を下げて、櫻井と朝比奈は外に出た。アルコールで少々火照った身体には風が心地好いが、朝比奈にそれを感じられる余裕があるかは謎である。幸い、すぐ近くのタクシーを呼んだために到着も早かった。急いでドアを開け、朝比奈を乗せてから櫻井も乗り込む。
「どちらまで?」
「三丁目の……」
朝比奈が運転手に住所を伝え、タクシーが走り出して少しほっとする。
マンションには二十分ほどで到着した。櫻井が代金を払い、朝比奈を支えてタクシーを降りる。
「部屋は?」
「四階の、一番端です」
「エレベーター耐えられるか?」
「多分……」
青い顔で答える朝比奈に、賭けだな、とエレベーターのボタンを押した。階段で足を踏み外されては堪らない。
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