いち
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朝礼が終わり、各グループのスケジュール確認に入ると、櫻井の周りに班員が集まった。
「櫻井、おめでとう。あ、櫻井主任って呼んだほうがいいか?」
「やめてください」
ニヤニヤと笑って肩を叩いてきた三国(みくに)は、櫻井よりも二つ上である。
悪い悪いと茶化す三国に、櫻井より年下の池谷(いけたに)と福本(ふくもと)も笑った。
「俺は主任になるなら櫻井さん、て思ってましたよー。三国さんじゃちょっと心配」
「何だと池谷」
「あはは、俺も櫻井さん派です」
「福本まで。まあ俺も櫻井なら従ってやらんでもない派だが」
わはは、と笑う三人に櫻井も小さく笑う。そこへまだ相沢と話していた朝比奈もやって来て、改めて丁寧なお辞儀を見せてくれた。
「朝比奈です、よろしくお願いします」
「櫻井です。よろしく」
櫻井と握手をし、朝比奈は他の三人にも挨拶をする。その間に櫻井はスケジュール帳を取り出し、今日の日付覧に書いてある文字を眺めた。
(今日は……新規なし、得意先四件)
名前を見れば、櫻井と相性の良い客ばかり。これならば朝比奈を同行させても、朝比奈を気遣う余裕があるだろう。
挨拶を終え談笑する四人の中に入り、櫻井は言った。
「では各自、今日のスケジュール確認をお願いします。池谷から」
「はい」
基本的にはグループごとに予算や売り上げをまとめているため、上長となればさらにメンバーのスケジュール管理が重要になる。それぞれ順番に報告をして共有すると、最後に櫻井もスケジュールを読み上げて顔を上げた。
「ーー以上です、よろしくお願いします。朝比奈」
「はい」
呼ばれると朝比奈はすぐに新人らしくハッキリとした返事をした。
「一ヶ月先輩に同行する決まりは聞いてるな。今日は俺についてもらうから、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「今日と言わずずっと櫻井でもいいんじゃねえか?」
「それじゃ勉強にならないでしょう、予定を見て組んでいきますから。では、今日も一日頑張りましょう。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
他のグループよりも少し遅れて解散し、櫻井は自分の鞄を取った。
「朝比奈、早速だけど行こうか」
「はい」
朝比奈を連れて営業所を出た櫻井は駐車場に停めた車に乗り込んだ。助手席に朝比奈が乗り、櫻井は鞄の中から資料を取り出す。
「今日はまず雰囲気を掴んでもらえたらそれでいい。話も俺が進めるけど、さっぱりっていうのも心許ないだろうから、一応それ見といて」
「ありがとうございます」
車を発進させ、十時から約束している得意先へと向かう。車をしばらく走らせ赤信号で止まると、櫻井は隣を見た。じっと資料に目を通す朝比奈は真剣そのものである。新人のやる気を微笑ましく思いながら、櫻井は声をかけた。
「そんなに見てたら酔わないか? 本当、触りだけでいいんだぞ」
「え、ああ、ありがとうございます。でも俺、車酔いしないから平気ですよ」
「そう? ならいいけど」
「早くお役に立てるように頑張ります」
「気合い十分だな」
青信号に変わると再び車を走らせ、櫻井は笑った。
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