《――ステラ!一旦退け!》
コロニー内に警報がけたたましく鳴り響く中、ステラ達は1機のモビルスーツに苦戦していた。
回線ごしに聞こえるスティングの声に余裕が無いのが分かる。だが、ステラはそんなこと関係なかった。
事前にフィーネが事細かに情報を集めてくれたおかげで、作戦は順調に進むはずだった。
ザフトの新型を奪取、基地の破壊。
自分たちにとって雑作もない作業だ。
予想外だったのは、もう1機の新型の存在。
今までの奴らとは動きがまるで違う。
エリートのお出ましか…
スティングは舌打ちをした。
ザフトには優秀なパイロットだけが着ることが許される赤い軍服があると聞いたことがある。
真正面で相手をしていたら、本来の目的が達成出来ない。
目の前に立ちはだかる敵機の破壊は命令にはないのだ。ここで逃げ切れたら、今回の作戦は成功だ。
スティングはもう一度アウルとステラに撤退を告げた。
スティングとアウルは戦線を離脱しようとそれぞれの機体“カオス”、“アビス”のブースターをフルにする。
「なんなのよ!こいつッ…!」
「ステラ!」
ステラの機体“ガイア”は、スティング達とは逆の方へとブースターを上げた。
「退くんだ!ステラ!」
スティングが叫ぶ。
しかし、その声ステラには届かない。
わたしがこんな…
こんな奴に苦戦するなんて!
たった1機を破壊できない。今の状況は、ステラのプライドを傷付けるのには十分なものだった。
いつもネオが言ってくれた。ステラは強いって…
今日だって、ネオは「期待しているよ」って言ってた。

――こんなところで負けるなんてあり得ない!

「わたし、は…私はッ…!」
《――はぁ…》
冷たいため息がステラの耳に響く。
ステラの対処をスティングに任せていたアウルが、ようやく口を開いた。
《じゃあ、お前はここで“死ね”よ!》
「ひッ…」
途端、“ガイア”の動きが止まった。
《アウル!》
スティングが慌てた様子でアウルを制止する。
宙に浮かんだままの“ガイア”の中で、ステラは目を見開いて激しく震えだす身体を抱きしめた。
「しぬ…?私、しんじゃうの?」
頭の中がたちまち赤い色で塗りつぶされていく。
ステラが嫌う“死”の色だ。
そんなステラの反応を愉しむように、アウルが追い打ちをかける。
《ネオには俺から言っといてやるよ!“サヨナラ”ってな!》
忘れていた死への恐怖がステラに迫る。
ステラはもう目の前の敵のことなどどうでも良かった。 

こわい
逃げなきゃ
死んじゃう

「いや…いや、嫌、嫌ぁ…!」
ステラは機体を返して、コロニーの壁に空いた穴に向かってブースターを上げた。
《ステラ!》
スティングは慌てて、“ガイア”の黒い背中を追う。
《な、結果オーライだろ?スティング!》
《ばかやろう!》
スティングはモニターに映った得意顔のアウル睨む。
ステラのあの様子では、ガーティ・ルーに戻ってからも大変だ。
これからネオにするであろう弁解を考えて憂鬱になりながら、スティングは自身の機体を宇宙へと急がせた。