薄暗い部屋の中心に、丸いカプセル型のベッドが3つ。
無事目標のモビルスーツを奪取してガーティ・ルーに帰艦したステラ達3人は、今は“ゆりかご”の中で静かな寝息をたてていた。
「…いつ見ても、慣れないものね」
ガラスで隔たれた部屋からフィーネが物憂げな視線を3人の寝顔に向ける。
「ステラには可哀想なことをしてしまった…」
隣のネオが申し訳無さそうに呟いた。
「“ブロックワード”を使われたのがマズかった」
戻ってきたステラの取り乱し様は酷いものだった。彼女が一番信頼しているネオの言葉が届かないほど錯乱していて、強制的に薬で抑えるしかなかった。
スティングに事情を聞けば、アウルが彼女に“ブロックワード”を使ってしまったという。
強化人間エクステンデッドである彼らには、不安定な精神を制御する為それぞれに“ブロックワード”が設定されている。
ステラの場合は「死」だ。
“ゆりかご”の周りでは、白衣を着た男達が3人のデータを確認して何かを相談しているようだった。
その光景を見る度に、フィーネは自分の中で何かが疼くのを感じて不快になる。
「…仕方ないよ」
フィーネは乾いた調子で言う。
「死ぬのが怖いのはみんな同じなんでしょ。別に、ステラだけじゃない」
死への恐怖は人間誰しもが持つもの。死を間近に感じて取り乱すのは、当たり前の反応なのだろう。
どこか他人事のようなその口ぶりに、ネオはまじまじとフィーネの表情を観察した。
「君は?」
「…うん?」
「君は、どうなんだい?怖いって思うことはある?」
フィーネは目を丸くする。
彼女はいつも淡々と任務をこなす。取り乱す姿など想像が出来なかった。
「そうね…」
彼女は顎に手を当てて考えるふりをした。
そう、“ふり”だ。
これから返ってくる答えを、ネオは分かっていた。
フフッとフィーネは吹き出すように笑った。
「どうだろうね、忘れちゃった」
これが、彼女が何かをはぐらかす時の常套句だった。
彼女は忘れたのではない、もとから知らないのだ。
フィーネ・ハゼットは、この地球連合軍では異色の存在、戦闘用コーディネーターだ。
記憶操作や洗脳によって後天的に恐怖の感情を抑えられたステラ達エクステンデッドと違って、遺伝子操作の段階から人を殺すための兵器として造られた彼女は死が怖いものだということを知らない。
特殊な境遇の彼女達を束ねるネオは、自身の立場の難しさを感じていた。
「でもね、ネオ」
フィーネはガラスの向こうに再び視線を戻した。
「死ぬのは分からないけど、みんなが居なくなるのは怖いよ」

――独りぼっちは、寂しいから

そう言った彼女の瞳には哀愁が滲んでいた。