「やめるんだ!キラ!」
届かないと分かっていながら、アスランは“フリーダム”のパイロットの名を叫んだ。
彼らは自分がこの場に居ることを知らない。
何とかしてこんなバカなことを止めなければと思うのに、“セイバー”の前には“カオス”が立ちはだかる。
“カオス”の攻撃を防ぎながら、何とかして友に自分の存在を知らせようと思案する。
“フリーダム”は次々と両軍の機体の腕や頭部を破壊して武装解除していく。
決してコックピットに致命的な損傷を与えない。
それが伝説の機体“フリーダム”のパイロット、キラ・ヤマトの戦い方だった。「誰も殺したくない」と、先の大戦で彼が責苦して出した答えだ。
瞬時に複数の機体の戦闘能力だけを奪っていくその技術は神業だった。味方であれば賞賛の声をあげるものだが、今はそんな呑気なことは考えられなかった。
彼らの今の行動はいたずらに戦況を混乱させているだけだ。
「キラ!やめろ!なんでこんなこと…!」
“フリーダム”に気を取られていたアスランの意識を、鳴り響く警告音が引き戻した。
背後から“カオス”が向かってくる。我にかえったアスランは応戦しようと“セイバー”のライフルを構える。
途端、“セイバー”と“カオス”両機の武器は、“フリーダム”の攻撃によって撃ち落とされた。
友から自分に向けられた攻撃に、アスランの背筋が凍った。
「キラ…」
何故自分たちはまた同じことを繰り返すのか…
アスランは、かつて敵同士として銃口を向けあった過去を思い出して顔を歪めた。
呆然と“フリーダム”を見つめていると、近付いてきた“グフ”からハイネが叫ぶ。
《――アスラン!》
ハッとして振り返ると。
死角から、白と黒の2機のモビルスーツがスピードをあげて迫っていた。“フリーダム”の攻撃を免れていた“ガイア”と“アレウス”だ。
しまった…!
“フリーダム”の攻撃によって武装解除された今の自分には、応戦する術がない。しかも2機。
アスランの脳裏に一瞬に死という言葉が過ぎる。
反射的に身を竦めたとき、“セイバー”と2機の間に“グフ”が割り込んだ。
「ハイネ!」
武装解除された状態の“グフ”は、スピードをあげて“アレウス”に体当たりを喰らわせる。だが、もう1機“ガイア”にはなす術が無かった。次の瞬間、“ガイア”のソードがオレンジのボディをコックピットから真っ二つに切り裂いた。
激しい炎が目の前の機体から噴き出す。
「ハイネェェェ!」
激しい炎に包まれた機体の破片が海に無残に落ちていく。
一瞬の出来事だった。アスランは目の前の凄惨な状況に叫喚した。
体勢を立て直した“アレウス”は標準を“フリーダム”へ、“ガイア”は“セイバー”へと移すが、今度は“フリーダム”の攻撃が2機の武装を奪った。
そのとき、連合の戦艦から信号弾が打ち上げられた。
――撤退信号
海へと落ちていく“ガイア”を、海面寸前で“カオス”が素早く拾い上げた。頭部と左腕を損失した“アレウス”も“カオス”の後に続いて戦域を離脱する。
その場にいた機体が一斉に母艦へ向かって退却していった。皆“フリーダム”の攻撃によって頭部や腕を失い、戦える状態では無かった。
無様ともいえる姿で退却する両軍を見降ろしていた“フリーダム”も、機体を返して“アークエンジェル”へ向かう。
その後ろ姿をアスランは見つめて、悔しそうに吐き出した。
「キラ…何がしたいんだ、お前は…」
ハイネは自分を庇って死んだ。“フリーダム”に気を取られ目の前の敵に集中出来なかった自分を庇って。
たった数日しか時間を共有出来なかったが、頭を過るのは彼の快活な笑い声。明るい彼の雰囲気に、戸惑いながらも絆されていくミネルバのクルーの顔。
出撃前オーブを相手に戦うことへ迷っていた自分を気に掛けてくれたのも彼だった。「割り切れ」と自分を諭した彼の真剣な声色が蘇る。
『…でないと、死ぬぞ?』
そう。割り切れずに迷った結果、今死ぬところだったのだ自分は。
それなのに、犠牲になったのはハイネだった。
アスランはやりきれない思いで拳を握り、モニターを殴った。目の前の視界が滲んでいく。
――“また”自分のせいだ…