#22
「――では、ハイネ・ヴェステンフルスの遺品はこちらで本国にお届けします」
ディオキア基地から派遣されたザフト兵は事務的な口調でそう告げてワゴン車に乗り込んだ。ミネルバのパイロット達は、その車が見えなくなるまで最敬礼して見送った。
言葉を発する者は居なかった。皆、突然の仲間の死に呆然としていた。
「どうして、こんな…」
ミネルバに戻ろうと踵をかえしたとき、シンが悔しさを滲ませて吐き出した。
「なんでハイネが死ななきゃいけないんだ!あの人は、あんな死に方をしていい人じゃなかった!」
混戦状態となった戦場で、シンはハイネの最期を見ていた。
突如乱入してきた“フリーダム”の攻撃によって武装解除されていたハイネの“グフ”は、丸腰のまま“ガイア”の攻撃を受けて散った。
短い時間しか共に戦えなかったが、それでもハイネのパイロットとしての実力は目を見張るものだった。“フリーダム”さえ乱入してこなければ、死ななかった人だ。
シンはやり場のない怒りにわなわなと肩を震わせて、後ろに立っていたアスランを睨んだ。
アスランはハッとした表情でシンを見る。
紅い瞳に涙が滲んでいた。
「いったい、何なんですか!?アークエンジェルは…フリーダムは…!あそこで何がしたかったんですか!?」
かつて“アークエンジェル”と共に戦い、オーブに身を置いていたアスランに詰め寄る。
「あいつらが変な乱入してこなきゃ、ハイネは死ななかった!」
「シン!」
アーシェが慌ててシンを制した。
「アスランさんにそんなこと言っても…」
彼を責めたところでどうしようもないと、本当はシンも理解している。だが、湧き上がる激しい感情の処理の仕方をシンは分からなかった。
間に割って入ったアーシェの咎めるような視線に、シンは気まずそうに目を逸した。
「なにやってんだよ。アークエンジェルも、オーブも…みんなバカなんじゃないの!?」
そう吐き捨てると、足早にミネルバ艦内へ戻って行く。
アーシェは困ったようにアスランに「すみません」と頭を下げてシンを追った。レイとルナマリアもその後に続く。
アスランは何も言い返せなかった。
ハイネは自分を庇って死んだのだ。
脳裏に焼き付いて離れない、オレンジの機体が激しい炎に包まれて海へと落ちていく光景…
あのとき、自分がもっとしっかりしていれば…
やるせない想いをぶつけるように、タラップの手すりに拳を叩き付けた。
「あの時ああしていれば…なんて、ことが済んでから考えたって仕方が無い」
終始何かを考え込むように難しい顔で黙っていたジークが、重い口を開いた。
「あそこでは、大抵の奴はその一瞬を生きるので精一杯だ。ハイネのことはお前のせいじゃない」
ジークは少し離れた場所に並べられた黒い袋に視線をやった。アスランもつられてその方向を見る。
あの中に入っているのは、ミネルバから運び出されたクルーの遺体だ。
「だが、今回の奴らの行動は俺も容認できない」
“フリーダム”は、直接ハイネを殺したわけではない。だが、あそこで並べられているミネルバのクルーは“フリーダム”の攻撃によって死んだのだ。
「シンじゃなくてもな、奴らには腹が立つ」
黒い瞳が静かな怒りで揺れた。
彼はアスランを見つめると「悪い」と謝罪した。
「お前にとってはかつての仲間かもしれないが、もしまた奴らが同じ事をしたら敵として対処させてもらう」
冷たい口調で宣言した“対処”の意味を、アスランは直ぐに理解して表情を硬らせた。
彼は今単独でミネルバに派遣されているが、本来はザフトの精鋭揃いの特殊部隊を率いる隊長だ。
“忠実な番犬”
昔、自分の父が彼をそう表していた。厳格で常に多忙だった父との僅かな会話の記憶をアスランは思い出した。
例えオーブの派兵を止めたかったという理由だったとしても、カガリやキラのした事はザフトへの宣戦布告と捉えられてもおかしくないのだ。
目の前の“番犬”が友へ向ける明確な殺意に、背中に嫌な汗がにじむ。
もしザフトが“アークエンジェル”を明確に敵とみなしたら、“FAITH”である自分は彼らを討たなければいけない立場だ。
俺達はどうしてまた道を違わなければならないのだろう…
去っていく白服の背中を見送って、沈鬱な表情で空を仰ぐ。いつの間にか、遠くの空からどんよりとした灰色の雲が迫ってきていた。