大きな雨粒がミネルバの展望室の窓を打った。
随分と久しぶりに目にする自然の雨を見つめて、ジークは黙思していた。
思い出すのはダーダネルスでの戦闘。混乱する戦場で遠くに見た純白の機体。その機体と交戦していたオレンジの友軍機が、激しい閃光に包まれて散っていく光景。
人懐こい笑顔で手を振った彼の姿を思い出して、ジークは苦悶の表情を浮かべた。
あんな死に方をしていい人間ではなかった…
ハイネの死を悼む一方で、ジークには少しだけ後ろめたさがあった。
ハイネの最期に居合わせたアスランとシンから“グフ”にトドメを刺したのが“ガイア”だと聞いたとき、ジークの胸にまず湧いたのは怒りや悲しみより、安堵だったのだ。ハイネを殺したのがフィーネじゃなくて良かったと…
ジークはそんな自分を軽蔑した。
敵として戦うのだから命の奪い合いがあって当然だ。自分がこれまで多くの連合の兵士を殺してきたように、彼女も多くのザフト兵を殺してきた。だが、いざ自分とちかしい仲間の死に彼女が関わるとなると気持ちが揺らぐ。
これ以上悪化する前に早く拿捕しなければ…
複雑な心情にため息をついて、曇天を見上げた。
『雨、嫌いなの』
ふいに頭を過る声。
『いつ止むの?』
彼女もこの雨を見ているだろうか。
そういえば、理由を聞いていなかった。「嫌い」と窓の外を雨を見つめた彼女の瞳は寂しげだったのを覚えている。
知らないことばかりだな…
自分が知っていることは、所詮彼女の一部分でしかないのだ。
思えばいつだって大事なことははぐらかされてきた。メンデルを出てからどう過ごしてきたのか。今どんな環境下でどんな仲間と過ごしているのか。そこにいる彼女は幸せなのか…
会うたび想いをぶつけて彼女を求めるのは自分ばかりで、彼女はいつだって余裕ありげに笑ってやり過ごす。自分のことを「好きだ」と言っておきながら、こちらには何も求めない。いっそ明確に拒絶されていた方が諦めがつくというのに。
不意に「隊長」と、頭に過ぎった声と同じ声がした。
ジークの部下は水色の長い髪を揺らして自分に歩み寄る。
「お部屋に伺ったら不在でしたので」
探しました、と“彼女”と同じ顔で柔らかく笑った。
「副長の話は終わったのか」
「はい。シンたちと明朝に出発です」
「そうか」
「隊長は出ないんですね」
「ああ、全員出払うわけにはいかないからな」
アスランは、“アークエンジェル”とどうにかしてコンタクトを取りたいとミネルバを離れた。直接的会って真意を聞きたいのだと、艦長のタリアに進言したらしい。
ルナマリアも艦長直々の命を受けて任務で艦を離れている。
明日アーシェ達3人のパイロットも探索任務に出るとなると、残るパイロットはジークだけだ。有事に備えて待機するようにとタリアに言われていた。
「ミネルバがこんな状況で離れるのは心配なので、直ぐに終わらせて来ますね」
ジークは難しい顔でそれを見つめた。
「…気を付けてな」
彼にして珍しい言葉を投げ掛けられて、「何を」とアーシェは首を傾げた。
「ただの勘だが…そこ、何か嫌な感じがするんだよ」
「勘、ですか…だいぶ曖昧ですね」
こんな小さな町に建てられた連合の大規模研究施設。
基地が近くにあるわけでも無いのに、何故この場所に作られたのか。何故今は放置されているのか。
タリアから任務の内容を知らされてから、その場所はどうも胸騒ぎがするのだ。
「ただの杞憂だろう。お前達3人がいたら心配することないのにな…」
ジークは複雑そうに頭かいた。
「それにしても」と、再び窓の外に視線を戻す。
「…この雨、いつ止むかな」