土砂降りの雨の中、路地裏で人目を避けるように膝を抱えていた少女を、男は見下ろしていた。
白髪に青白い肌。年頃は20代に見えるその男は、少女を興味深そうに観察した。
少女は後退りをして壁に背中を付けると、疲労と空腹で朦朧とする思考を必死に巡らせた。
いつもの自分ならばこんな状況、相手を殺して逃げるくらい簡単だった。だが、もう身体が思うように動かない。
青と緑のオッドアイが怯えたように見上げた。身に纏う簡素な服は雨でぐっしょりと濡れていて、寒さと恐怖で小さな身体は小刻みに震えた。
ここに来て今日は何日目だったか…
『大丈夫、大丈夫だから』
優しい声が頭を過ぎる。
“彼”は、いつ迎えに来てくれるんだろう…
いつになったら見つけてくれるんだろう…
男はしゃがみこむと、少女の顔に手を伸ばした。彼女は咄嗟に肩を竦めた。
小さな顔を片手で掴んで正面を向かせると、男は「ほう…」と関心したように声を漏らす。
血色の悪い唇が歪んだ。
「これはまた…随分と汚らしい捨て猫だ」




“アレウス”のコックピット。狭いシートの上で膝を抱えて眠る少女を前に、スティングはため息をついた。
「フィーネ」
名を呼ぶと、彼女はゆっくりと顔をあげた。
眠たげたな目を何度か瞬きさせると、柔らかく笑った。
「…おはよう、スティング」
「またこんなところで寝て…」
スティングは呆れたような表情を浮かべてフィーネを見た。
小さく欠伸をした彼女は、未だ覚醒しきらない様子でぼんやりと座っている。
最近の彼女はいつもこの調子だ。
“メンテナンス”が無い時は、大抵この機体のコックピットに居た。整備ログを確認する以外、特に何をするわけでもなくこうして膝を抱えて目を閉じている。
「あの部屋よりここが落ち着くから」
フィーネは物憂そうに瞳を伏せた。
「雨の日は、尚更ね…“安全な場所”に居た方がいい」
「安全な場所?」
スティングが眉を顰めた。
「そう、この子の中が一番安全」
戦場を駆けるモビルスーツの中が一番安全とはどういうことか、スティングにはよく分からなかった。
時々フィーネは不思議なことを口にする。
その意味を尋ねても、どうせはぐらかされるだけだとスティングはこれまでの付き合いで分かっていた。
いつも何がそんなに不安なのか。
何から逃げているのか。
全てを吐き出して頼ってくれたなら、自分が守ってやるのに…
「…ネオが呼んでるぞ」
「行こう」と手を差し出す。
フィーネは、小さく頷いてその手を取った。