#23

頭を撫でられる感覚に心地良さを覚えて、レイはゆっくりと目を開けた。
目の前に広がる見覚えのある天井をぼんやりと見つめて、自分が置かれている状況を理解する。
ミネルバに戻ってきたのだ。
「レイ?」
視線を横にやると、ベッド脇にアーシェが座っていた。彼女は安堵したように息を吐いた。
「アーシェ…」
「よかった。目が覚めて」
ゆっくりと身体を起こして、未だぼんやりとする頭を働かせる。
軍医は席を外しているらしい。今この医務室に居るのは自分とアーシェだけだ。
「頭…」
「うん?」
「頭、撫でてたのはお前か…」
アーシェは一瞬目を丸くして、気まずそうに眉を下げた。
「酷くうなされてたから、つい…。ごめん、嫌だったよね」
「…いや、大丈夫」
嫌な夢を見た。
レイは長い髪をかきあげて、ため息をつく。
薄暗い部屋
薬品の臭い
白衣の男たち
それは、既に決別した過去だった。
自分に手を差し伸べてくれた男の優しい眼差しが頭を過る。
“彼”とギルのおかげで、もう振り返らないと捨てたはずの過去だ。
先ほど研究施設で見た光景が、嫌な記憶を思い出させたのだろう。
それでも…
レイはアーシェを見る。
頭を撫でるその手に安心した…
「大丈夫?まだ休んでていいのよ」
何かを考え込んだ様子のレイに、彼女は心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ。心配をかけてすまなかった」
そうきっぱりと答えて立ち上がる。いつも冷静な声色だった。
「お前は、大丈夫なのか?」
「うん。一応検査してもらったけど、異常なしだって。シンも無事だよ」
「なら良かった」
そう柔らかく笑うと、レイは水色の髪に手を伸ばした。
ぎこちない動きで頭を撫でる。
「…ありがとう」
アーシェは思いがけない彼の反応に、驚いたようにレイの顔を見つめた。
「さっき、お前がこうしてくれたから、気分が落ち着いた」
気を失っていた間に見た夢は、気分の良いものでは無かった。だが、目覚める直前の自分の中には安堵が広がっていた。
「大丈夫」とあやすようなその温もりが、彼女によって与えられたものだと気付いて、レイは嬉しかった。
「お前は、変わらないんだな…」
慈しむように瞳を細めた。
記憶を取り戻しても変わらない。
“優しいアーシェ・ヘインズ”のままだ。