《本当に、貴方には感謝しています》
ザフト軍、ナスカ級戦艦“ディオニソス”
照明を落とした隊長室で、デスクトップの光だけが部屋の主の怜悧な顔を照らした。
画面に映る男が感謝を伝える。
《ありがとうございます、エアリス隊長》
部屋の主、エアリス隊隊長ジーク・エアリスは、困ったように笑った。
「やめろよ。礼を言われることじゃない」
《しかし、貴方のおかげでやっと叶うのです》
男も笑う。少し憂いを含んだ表情で。
《これで、晴らすことが出来ます。あいつらの無念も…》
目尻に深い皺を刻んだ男の顔に、ジークは自身の養父の面影を重ねていた。
勇敢で情に厚かった亡き父の理想は、復讐の炎に焼かれてもう何も残らない。彼が大事にしていた部下は今、彼の願いとは真逆の道を進もうとしていた。
そして、今ジークは愚かな道を選ぶ男を止めることなく、あろうことか後押しするのだ。
「頼んだぞ、サトー」
《はッ!ザフトの為に!》
サトーは律儀にザフト式の敬礼をして、言い慣れた合言葉を叫んだ。
通信が切れると暗闇がジークを覆った。
椅子の背もたれに身体を預けて、ジークは天を仰ぐ。
「ザフトの為に、か…」
己を鼓舞するために叫ぶその言葉が、ジークに重くのしかかる。
サトーは己の信念のもと行動を起こそうとしている。それが祖国プラント、同胞であるコーディネーターの為になると本気で思っていた。
信じるものがある人間は強い。その強い想いは時に死すら恐れない。
その信念の善悪に関わらず、そういう人間が一番怖いのだと、ジークは数多の戦場で実感してきた。
他人のその想いをこれから利用する自分の狡さを自嘲して、ジークは誰にともなく「すまない」と謝罪の言葉を呟いた。