「…青き清浄なる世界の為に」
アーシェがポツリと呟いた。
それは、ブルーコスモスが掲げるスローガンだった。
施設の外に設置したテントの中で、連合の施設から持ち出したコンピュータのデータを眺めていたアーシェは、うんざりしたようにため息をつく。
「それって、どんな世界なんだろう…」
遺伝子操作されたコーディネーターは絶対悪で、幼い子供を兵器として“改造”することは許されるのか。
「これで手に入れた“平和”が幸せなものだとは、到底思えないな…」
隣にいたアスランが嫌悪感を露わにして言った。
コンピュータが表示するのは、子供たちの管理記録。
一人ひとりの顔写真とともに日付が記載されていた。
“入所”、“配備”、“廃棄”
「廃棄…」
その単語を、アーシェは小さく読み上げた。
子供たちが兵器としての役割を終えた日だ。
他人事ではないその言葉に、吐き気を覚えた。
「何なんですか!?あれ…!」
施設から次々と運び出される子どもの遺体をみつめて、シンが怒りで拳を震わせた。
「連合の強化人間…エクステンデッドって聞いたことあるだろ。俺達コーディネーターを殺すためだけに作られた兵器」
ジークが言う。
「ここが、その“兵器工場”だったんだろうな」
「兵器?工場?」
人間に使うべきではないその表現に、シンが顔を強張らせる。
「どこかから連れてきた子どもを薬漬けにして、手術やら洗脳やらで、肉体を改造していくんだ。人殺しの訓練を受けさせて、基準を満たしたものは戦場に“配備”して、使えないものは即座に“廃棄”する」
淡々と話すジークの顔を盗み見て、アーシェは怪訝そうに眉を寄せた。
話に聞き入るシンとアスランは、その内容の凄惨さに意識が集中して、彼自身の違和感には気付いていない。
彼はまるで見てきたかのような口ぶりだ。
アーシェはコンピュータに視線を戻して再びため息をついた。
シンとアスランは知らないのだ。
プラントも同じように“兵器”を作り出してきた過去を。今、目の前にはあの子供達と同じ“兵器”が2人も居ることを。
ヘインズ独自の教育で育った自分と違って、“ヴァルハラ”で育ったジークはこの施設へ思うことがあるだろう。
冷静な表情からは読み取れないが、あの子供達の姿を目の当たりにして何も感じないわけがない。心なしか彼の顔色が冴えないように見えた。
テントの真横を、遺体を入れた袋が通った。鼻を掠めた腐敗臭にシンは顔を歪めた。
「こんなのって…許されるんですか!?俺らを散々否定しておいて、自分たちはこんなこと…!」
「シン…」
アスランも同じ想いで、シンの名を呼んだ。
「許しちゃいけない。こんなことは、絶対に…!」
アスランは自分自身に言い聞かせるように、強く言った。
「だから、俺達は終わらせなきゃいけないんだ。この戦争を」
シンとアスランが同じ思いでそれぞれの拳を握りしめた時、ミネルバからの通信がその場に鳴り響いた。
《モビルスーツ接近中!数、1機。“ガイア”です!》
その場に一気に緊張が走った。
怒りに沸き立つシンとアスランが、ほぼ同時に叫ぶ。
「俺が出ます!」




「やったか…」
シンは地面に横たわる黒い機体を見下ろして、息を吐いた。
敵機の接近の一報を受けて、シンは”行き場のない怒りをぶつけるように“インパルス”で飛び出した。向かってきた“ガイア”のコックピットを切り裂くと、“ガイア”は失速し地面に落ちていった。
何度も交戦してきた因縁の相手を遂に討つことが出来た。
達成感が湧き上がるのを感じながらモニターに目をやったシンは、そこに映る光景に息を詰めた。
《女…?》
同じく迎撃に出たアスランが訝しげな声をあげた。
大きく損傷したコックピットハッチの隙間から、パイロットの姿が確認出来る。
連合の軍服を身に纏ったパイロットは、ぐったりとコックピットのシートに身体を預けている。
遠くからでも目立つ金髪。白く細い手足。
シンは自分の目を疑った。
「なんで…どうして…」
うわ言のように繰り返し、慌ててモニターの倍率を変えてパイロットの顔を注視した。
アーモリーワンの強奪事件から、何度も交戦してきた敵。見慣れた黒いモビルスーツの中身は、見知った顔をしていた。
シンは全身が凍りつくような感覚を覚えた。
悲痛な声でその名を叫ぶ。
「ステラ!!」
これまで、シンにとって“ガイア”は敵だった。その中身を深く考えた事は一度もない。
よりよって…なんで君が…!
やっと討ち落とした因縁の相手は、ディオキアの海で「守る」と約束して力強く抱き締めた少女だった。