#24
「あぁ、もう!どうしてこうも問題ばかり…!」
ミネルバの通路。足早に歩く2人の足音が響く。
予想外の部下の行動に、タリアは憤りを吐き出した。
彼女の後ろをついて行くジークは、何も言わず手にした拳銃のグリップにマガジンを挿入した。場合によっては使わなければならない状況だった。
今、ミネルバ艦内に敵兵がいるのだ。
“ガイア”の迎撃に出たアスランから「シンがガイアのパイロットを連れてミネルバへ戻った」と通信が入って直ぐ、アスランの言うとおり“インパルス”がミネルバに着艦した。
それから程なくして今度は医務室から通信が入り、耳を打った軍医の怒声にタリアは頭を抱えた。
軍医はまくし立てるようにタリアに尋ねた。
「シンが連合の兵士を治療しろと喚いているが、どういうことか」と。
医務室に近付くと、耳を劈くような悲鳴が通路にまで響いていた。
タリアの表情が一層険しくなる。
ジークは冷静に手元の銃に視線を落とすと、安全装置を解除した。
医務室のドアが開いた瞬間、ジークは即座に銃を構えた。
部屋の中は混乱していた。
床に散らばった医療器具。
床に倒れた看護師が首元を抑えて激しく咳き込んでいる。
「ステラ!落ち着けって…!」
事の元凶のシンは、暴れる連合の兵士を必死に抑えこんでいた。
「女…?」
シンの腕の中で暴れるそれに銃口を向けて、ジークは怪訝そうに眉を顰めた。
ピンクの軍服を身に纏った少女。
柔らかな金髪を振り乱して抵抗する彼女は、その容貌に似合わない獣の様な鋭い視線をジークに向けた。
だが、赤みがかった紫の瞳は、自分に向けられた銃口に気付いた途端大きく見開かれた。
「あ…あ…」
先程まで敵意を露わにして暴れていた彼女の表情が、今度は一変して恐怖に歪む。
「いや…しんじゃう。しぬの、だめ…!」
「ステラ!」
シンが焦った様子で叫ぶ。
「エアリス隊長!銃を下ろしてください!この子は…ステラは大丈夫ですから!」
何が大丈夫なのか…
軍医に抱き起こされた看護師に視線をやる。酷く怯えた様子で全身を震わせている彼女を襲ったのは、敵兵である“ステラ”だ。
コーディネーターで軍人のシンが、たった一人のか細い身体を抑え込むのに手こずっている様子からみて、この少女は“普通の”ナチュラルではないだろう。
タリアに目配せすると彼女は無言で頷いた。銃を下ろしていいということだ。
渋々構えていた腕を下げて、目の前で繰り広げられる光景を見下ろす。
シンは必死に腕の中でもがく“ステラ”を宥めていた。
「ごめん、ステラ‥悪かった!もう大丈夫だ。大丈夫だから…」
その姿に、ジークはハッとした。
『大丈夫、大丈夫だから…な?』
――俺は、この光景を知っている
「ステラは死なないよ…俺がいるから。俺が…守るから…!」
その既視感に、ジークは目眩を覚えた。
断片的な記憶がフラッシュバックする。
『コーディネーターなんてみんな死ねばいいッ!』
憎悪を孕んだオッドアイ。
首にかけられた両手が躊躇なく喉を圧し潰した時の苦しさ。
自分の右眼から流れた血が頬を伝う感覚。
飛び散った血で汚れた白い床。
自分に馬乗りになった少女が冷たく吐き捨てる。
『あんたなんか…知らない』
「あんたなんか、知らない!」
目の前の少女が、記憶の中の“彼女”と同じ台詞をシンに向かって吐き捨てた。
「離して…!やだ、ネオ…ネオッ…!」
恐怖でパニックに陥った少女は、さらに激しく暴れ出す。
「こわい…死んじゃう…!たす…けて…ネオ…」
シンの手は立てられた爪で傷ついて血が滲んでいた。それでも彼は「大丈夫」と抱きしめる力を緩めることはなかった。
「助けて、フィーネ…!」
彼女の中の大切な誰かであろうその名を叫んで、“ステラ”はフッと意識を手放した。極限の恐怖に身体が耐えきれなくなったのだろう。
ぐったりとシンの腕の中で目を閉じる少女を見下ろして、タリアが冷たいため息をついた。
この狼狽した状況の中では、“ステラ”が口走った誰かの名など大したことではなかった。
ただひとり、ジークを除いて。
よりによって…!
ジークは思わず歯を軋ませる。
タリアでなくてもこの状況には頭を抱えたくなった。
彼女は“ガイア”のパイロット。
今までも乗っていたのがこの少女だとしたら、フィーネの仲間だ。