「いったい、誰が許可しました!?こんなこと!!」
艦長室に場所を移したタリアは、目の前の少年を怒鳴りつけた。
デスクの上においた拳は怒りで震えていた。
シンは身を竦め謝罪する。
「…申し訳ありませんでした」
「貴方がしたことは立派な軍法違反!分かる!?」
俯いてしまったシンは何も答えない。
「軍法第四条第二項に違反。第十一条第六項に抵触」
タリアの横に控えたジークが淡々と告げる。
もっとも、赤服のシンが軍法を頭に入れていないわけがないことは分かっていた。
処罰対象となっても、あの少女を救いたかったのだろう。
意固地になったように唇をキツく結んだ目の前の少年に、ジークはなるべく穏やかな口調を意識して尋ねる。
重大なことを仕出かしたのは理解しているが、いま彼を叱責する気にはなれなかった。
「ステラ、だったか…どういう関係だ?」
「ディオキアで、海に落ちたところを助けたんです」
ディオキア…
ジークとタリアはそう遠くない記憶を探る。
「ああ。あの時の…」
シンが休暇中にエマージェンシーを出したときだ。
アスランが慌てて救助に向かった日。民間人を助けて遭難したと報告を受けていた。
「あの時は本当にただのディオキアの街の子だと思ってました。死ぬことに酷く怯えていて…俺、てっきり戦争の被害にあった子なんだと…」
「あの子は、ガイアのパイロット。敵兵よ」
タリアがすかさず言い放った。
シンはハッと顔をあげて、表情を凍りつかせた。
タリアはもう何度目か分からないため息をついて、「あのね」と続けた。
「貴方と彼女が戦場以外でどう過ごしてどんな約束を交わしたのかは知らないけど、あの子が“敵兵”であるという事実だけが私達ザフトの判断基準よ」
タリアの冷静な声色がシンに現実を突き付ける。
狼狽えるシンの様子をジークは見ていられなくなった。今の彼の姿に自分が重なった…
「それにね、あの子は…」
タリアがそう言いかけたとき、デスクの着信が鳴った。
医務室からの内線だった。
「至急来てほしい」と短く言った軍医の声に、シンの瞳が不安げに揺れた。
タリアは「すぐ行く」と答えて、シンの顔を見やる。神妙な面持ちで立ち上がって言った。
「貴方もついて来なさい」
「そうだ、あの子…」
ミネルバの格納庫。アーシェの隣に立っていたアスランは、「思い出した」と呟いた。
2人は回収された“ガイア”を見上げていた。
シンが連合の兵士を勝手にミネルバに連れて来たと、艦内中がその話題で持ちきりだった。
シンの行為は軍規違反だ。
艦長室に呼び出されたシンの処分や敵兵との関係について、レクルームでは様々な憶測が飛び交っていた。三流ゴシップのように盛り上がるクルーの雰囲気に耐えられなくなった2人は、あてもなく格納庫に来ていた。
「あの子、ディオキアの子だ…シンが助けた」
「ディオキア?」
アーシェが怪訝そうに聞き返す。
「ほら、休暇中にエマージェンシー出した時の」
アーシェは直ぐに理解して「ああ」と頷く。
「まさか、ガイアのパイロットだったとは…」
アスランは沈痛な表情を浮かべた。
じゃあ、ディオキアであの子を迎えに来た少年達は…
『本当に、ザフトの方々には色々とお世話になって』
そう言った黄緑色の髪の少年を思い出す。
「こんなところで繋がるとはな…」
敵のモビルスーツの中身を知ってしまうのはよくない。
敵がただの機械ではなく人間なんだと意識してしまうと、迷いが生じる。知り合いなら尚更だ。
アスランの脳裏に、かつて戦場で見てきた光景が次々と浮かんでは消えていった。
“自分達”だけでは無い。戦争によって引き裂かれる人間関係がこんなにもあるのだ。
今度こそ、こんな悲劇の連鎖を終わらせなければいけない。
アスランは無意識に唇を噛んだ。
昨日会ったキラとカガリの顔を思いうかべて、心の中で悔しそうに吐き捨てた。
なのに、なんで分かってくれないんだ…