一瞬の隙も許さない猛撃に、アーシェは息継ぎすら忘れて“フリッグ”を操縦した。
純白の機体“アレウス”。
美しいその姿とは裏腹に、戦い方は理性を失った狂戦士だった。
退いて距離を取ろうにも、その瞬間にコックピットを斬り落とされるイメージが頭を過ぎった。
スピードには自信のある“フリッグ”だが、相手の方が一枚上手だった。
誰か言い出したか「攻撃は最大の防御」とはよく言ったものだ。向かって行かなければ殺られる。
機体の性能は勿論だが、この動きに対応出来る身体はどうなっているのか。強化人間エクステンデッドの存在は先日のロドニアで理解したが、このパイロットそれとはまた違うものではないか。
まるで機体と身体が同期しているような無駄のない動きは、“フリッグ”と自分のようだと思った。
初めての強敵の出現に、アーシェの顔は無意識に喜色を浮かべていた。
これまでナチュラルの量産機続きでこの感覚を忘れていた。全身の血が沸き立つこの感覚は、恐らく演習でイルミと対戦したとき以来だろう。
向かってきた“アレウス”の斬撃を正面から受け止めた瞬間、アーシェの中で何かが弾ける感覚がした。


「あっは…」
唇から熱を帯びた吐息が漏れる。
視覚、聴覚…身体中の感覚が研ぎ澄まされていく。
今まで自分が量産機の迎撃にまわっている間、エアリス隊長はこんな楽しい敵の相手をしていたのか。仕方ないとはいえ、アーシェは少しだけそれを恨めしく思った。
「最高ね…!あなた!」
ブルーサファイアの瞳を輝かせて叫んだ。
“フリッグ”も狂喜に湧いているのが分かる。
ただ黙ってやられるだけの敵はもう飽きた。
鬼気迫る命のやり取り…
そうだ!これこそが、“フリッグ”が求めていた戦争だ!
我を忘れたアーシェは、“フリッグ”のブースターを最大限にあげた。身体に重くかかるGすら、今のアーシェの快感を誘うものだった。
眼下の海面にビームを放って水蒸気爆発を生じさせると、向かってくる相手の視界を一瞬奪う。
すかさず背後に回ってその背中にライフルを構えた。
だが、相手の反応も早かった。
即座に機体を返して“フリッグ”の射撃をシールドで受ける。ビームを真正面に受けたことで大きく裂けた装備を惜しげもなく海に投げ捨てて、再び“フリッグ”に斬りかかってきた。
一切の迷いを感じないその動きに、アーシェはどこか懐かしいような感情を覚えた。
“アレウス”が次どう動くのかなんとなく予想がついた。そして向こうもまた、“フリッグ”の動きを理解したように応じてくる。
「私たち、きっと気が合うわ…お互いこんなに楽しんでいるんだもの」
――でも、ごめんね
アーシェは不敵に笑う。
銀と純白の機体が互いに向かって加速した。
振りかざした刃は敵の方がコンマの差で速いように思えた。
“フリッグ”は瞬時に身を屈ませてその斬撃をくぐり抜けると、サーベルを持った相手の右腕、そして続けて左腕と斬り落とした。

「勝つのは、“私のフリッグ”よ!」