目の前の戦艦のブリッジに標準を合わせ、トリガーを引き絞ろうとした時だった。
“フェンリル”のライフルが突如白い閃光に貫かれて炎を吹いた。捕捉を知らせるアラートが間に合わない程の一瞬の速さだった。
ジークは機体を返して上空を仰ぎ見た。
「ほんと、邪魔だな。お前…」
太陽を背に空に君臨する天使の姿に眼を細める。
“フリーダム”
そして、そのコックピットに居るであろう男―キラ・ヤマト。
《オーブ軍に告ぐ!ただちに戦闘を停止し、軍を退け!》
“フリーダム”の後ろに控えた紅の機体、“ストライクルージュ”から再びオーブの代表首長の声が響いた。
《オーブはこんな戦いに参加してはいけない!オーブの理念を思い出せ!》
またも始まったお姫様の演説に、ジークは呆れたため息をついた。
「だから…」
その理念を捨てたのはお前だろう?
ジークは心の中で吐き捨てた。
耳障りの良い言葉の羅列は、相変わらず吐き気を覚えるほどの理想の塊だ。
きっと別の場所で聞いていれば、このお姫様への印象もまた違っていたのかもしれない。
アスランのかつての戦友…
出会った場所が違えば、モビルスーツの中身に持つ感情はきっと変わる。シンと“ガイア”のパイロットや、かつての自分と“彼女”のように。
だが、あいにくここは戦場だ。
オーブ軍を守りたい彼らと、そのオーブ軍と敵対する自分達ザフト。
ザフト兵の自分にとって、彼らへの判断材料は今ここで見たことしかないのだ。いちいち情を移していたらキリがない。
ジークは冷静にモニターに手を伸ばすと、ミネルバに回線を繋いだ。
「グラディス艦長」
モニターに映った彼女は重々しい表情を浮かべていた。
「一応ミネルバの搭乗員として、“あれ”の対処について貴女の判断を伺いたい」
タリアの意志を尊重するような丁寧な口調だったが、モニターを見つめる彼の眼光は鋭かった。
「俺の本来の立場であれば、既にあれは敵だと判断します」
有無を言わさない視線を向けて彼女の言葉を待つ。彼女の口から引き出したいのは他の答えではなかった。
アークエンジェルはまたもミネルバを窮地を救ってくれたが、前回彼らの攻撃によって多くのクルーが犠牲になったことを忘れてはならないのだ。
《…そうね》
タリアは少し考えて、やがて決心したように息を吐く。
彼女は直ぐさま友軍の全機に回線を繋ぐと、はっきりと意志を示した。
《本艦は、アークエンジェルを敵艦として認識して対応します!》
その言葉にジークの口角が吊り上がった。
すぐに回線を切ると、“フリーダム”に向き直る。
ジークの脳裏に、仮面の男の不敵な笑みが浮かんだ。
柔らかな金髪を揺らし、番犬としての自分の生き方を「哀れだ」と嘲笑した男。
世界を呪って、最期は“正義”に破れた哀れな男だ。
「…哀れなお前の仇でもとってやるよ」
ジークは記憶の中の彼にそう言って、“フェンリル”の両腰からサーベルを抜いた。